予約で走る「のれッタ」が秋に再始動 由利本荘市の生活交通は定着するか|2026年8月3日版
秋田県由利本荘市で、予約に応じて運行経路を変える乗合交通「ゆりほん のれッタ」が、2026年9月1日から3カ月間の実証運行に入ります。
前回は想定を大きく上回る3,356人が利用しました。今回は単なる再運行ではありません。一部の路線バスを運休させながら、予約制交通が日常の移動をどこまで担えるかを試す段階です。
- 運行期間は2026年9月1日から11月30日まで
- 大人運賃は1回400円。アプリ予約なら100円引き
- 前回は58日間で3,356人が利用し、10代の利用が最多
- 車両不足や待ち時間、既存路線からの転換が課題
9月から何が始まるのか
「のれッタ」は、決まった経路を時刻表どおりに走る通常のバスとは異なります。利用者がアプリか電話で乗車場所と目的地を予約し、システムが予約状況や道路状況に応じて車両と経路を組み合わせます。
由利本荘市の案内による今回の運行条件は、次のとおりです。
- 期間:9月1日から11月30日まで
- 運行時間:午前8時30分から午後6時30分まで
- 運賃:中学生以上400円、小学生200円、未就学児無料
- アプリ割引:大人100円、小学生50円
- 支払い:現金、PayPay、d払い、au PAY
- 予約:乗車日の7日前から。アプリは原則24時間、電話は午前8時30分から午後5時まで
予約受付は8月25日午前8時30分に始まります。アプリを使わない人も電話で予約できるため、スマートフォンの操作に慣れていない高齢者を最初から利用対象外にする仕組みではありません。
一方、どこでも自由に乗り降りできるタクシーとは違います。指定された乗降場所で待つ必要があり、車いすに対応した車両ではないことも、市の案内に明記されています。
一部の既存バスは運休
実証期間中は、市の循環バスと路線バス「市内線」の一部便が運休します。
ここは利用者にとって重要です。新しい移動手段が加わるだけなら選択肢は単純に増えますが、今回は既存便の一部を止めたうえで、予約制の仕組みが移動需要を受け止められるかを確かめます。通院や買い物、通学で対象便を使ってきた人は、運休日と「のれッタ」の予約方法を事前に確認しておく必要があります。
前回は想定の約3倍が利用
今回の再実証が注目される最大の理由は、前回の利用が市の想定を大きく上回ったことです。
国土交通省の「交通空白」解消プロジェクトに掲載された前回実証の実績では、2025年12月1日から2026年1月31日までの58日間に、延べ3,356人が利用しました。当初想定は約1,160人だったため、実績はその約2.9倍です。
- 運行回数:2,692回、1日平均46回
- 利用者数:3,356人
- 登録者数:1,244人
- リピート率:63%
- 乗合率:41%
特に目を引くのが10代です。利用者は680人に達し、全体の30%を超えて最も多い年代となりました。地方の予約制交通というと高齢者の通院や買い物支援がまず想像されますが、由利本荘市では通学など、若い世代の移動にも需要がありました。
共働き世帯からは、子どもの習い事への送迎負担が軽くなったという声も報告されています。生活交通の不足は、車を運転できない本人だけでなく、送迎を担う家族の時間も奪う問題だと分かります。
ここがポイント: 「のれッタ」は高齢者向けの代替交通にとどまらず、通学や習い事、通院、買い物を支える地域共通の移動手段として試されています。
なぜ由利本荘市で必要なのか
本荘地区は子吉川を挟んで南北に分かれ、北側には坂道の上に住宅地が広がっています。バス停がない地域もあり、徒歩で既存路線へ接続しにくい場所があります。
それに加えて、交通事業者の運転士不足により、路線バス「市内線」と市の循環バスを従来どおり維持することが難しくなっています。そこで、一件ずつの予約をまとめ、必要な場所へ車両を振り向ける方式が検討されました。
前回は生活に直結する場所へ乗降地点を配置しています。
- 医療機関:34カ所
- スーパーなどの商業施設:31カ所
- ごみ集積所:63カ所
ごみ集積所が乗降場所に使われた点は、住宅地に細かく乗り場を設ける工夫として見逃せません。大きな停留所まで歩かせるのではなく、普段から住民が利用する身近な地点を交通網の入口にしたからです。
好評でも、本格運行には課題が残る
利用者の評価は高い水準でした。由利本荘市地域公共交通活性化再生協議会の資料では、アンケート回答者108人のうち101人が「大変満足」または「やや満足」と回答しています。アプリ予約率も79%でした。
市に寄せられた住民提案と回答からも、到着予定をスマートフォンで確認できる点や乗務員の対応が好意的に受け止められ、早期再開を求める声があったことが分かります。
ただし、数字が好調だったからといって、そのまま恒久運行へ移れるわけではありません。
予約が集中すると車両が足りない
前回は需要に対して車両数が足りない時間帯があり、予約を受け付けられないケースが発生しました。予約状況や交通状況によって待ち時間が延び、冬の道路渋滞で到着が遅れることもありました。
利用者が増えるほど効率的な乗り合わせを作りやすくなる一方、同じ時間帯に通院や通学が集中すれば、限られた車両では対応できません。今回見るべきなのは利用者の総数だけでなく、希望した時間に予約を取れた割合です。
既存バスからの転換が進まなかった
前回の課題として、既存の定時定路線の利用者数が前年度と変わらず、「のれッタ」への転換が進まなかったことも挙げられています。
これは、新サービスが主に新たな需要を掘り起こした可能性を示す一方、既存バスの代替として成立するかは未確認だということでもあります。今回は一部便の運休を伴うため、予約制交通が従来の利用者にも受け入れられるかが、よりはっきり表れます。
使えない人を残さない設計も必要
電話予約を残している点は重要ですが、ほかにも確認すべき利用上の壁があります。
- 乗降場所が分かりにくくないか
- 電話が混み合う時間帯に予約できるか
- 車いす利用者の代替手段を確保できるか
- 予約時刻の変更や遅延を分かりやすく伝えられるか
- アプリ割引が非スマートフォン利用者の負担差にならないか
便利さを平均値だけで判断すると、移動手段を最も必要とする人が取り残される恐れがあります。
秋の実証で見るべき3つの数字
9月からの運行では、利用者数の多さだけでは成否を判断できません。特に注目したいのは次の3点です。
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予約成立率
希望した人のうち、実際に乗車予約を確保できた割合です。車両不足が改善したかを測れます。 -
乗合率と待ち時間
乗合率を高めても待ち時間が長くなれば、通院予約や登校時刻がある利用者には使いにくくなります。 -
一部運休便からの転換状況
既存バスの利用者が無理なく移行できたか、それとも移動そのものを諦めた人が出たかを確かめる必要があります。
「のれッタ」の次の焦点は、話題性でもAIの性能でもありません。11月30日の実証終了までに、通学する10代、病院へ向かう高齢者、送迎を担う家族が、必要な時間に乗れる仕組みを作れるか。そこが本格運行を判断する分かれ目です。
