横浜・戸塚の坂道を6人乗りワゴンが走る 「みなみんなGO」が映す地域交通の新しい作り方|2026年8月10日版
横浜市戸塚区の戸塚町南側で、地域交通「みなみんなGO」の実証運行が8月3日に始まりました。戸塚駅から離れ、坂が多い住宅地を、駅や病院、スーパー、地域ケアプラザへつなぐ定員6人の小さな交通手段です。
ポイントは、単に新しい車が走り始めたことではありません。住民からの要望を待つだけでなく、市が地域へ働きかける「プッシュ型支援」から運行に至った横浜市初の事例であり、都市部に残る「バス停まで行けない」という課題への一つの答えになっています。
- 平日の9時台から16時台まで、1日13便を運行
- 大人400円、小児200円。未就学児は無料
- 戸塚駅、平成横浜病院、スーパー、地域ケアプラザなどを結ぶ
- 実証運行は2年間を予定し、利用実績が今後を左右する
「駅はあるのに、駅までが遠い」を埋める
戸塚町南側は、鉄道駅のない過疎地ではありません。それでも戸塚駅から距離があり、高低差の大きい地形のため、最寄りのバス停まで歩くこと自体が負担になる場所があります。
高齢者が通院や買い物へ出るとき、子どもが地域内を移動するとき、家族の送迎に頼らざるを得ない。今回の取り組みが対象にするのは、こうした既存の路線バスだけでは拾いにくい短距離の移動です。
横浜市の発表資料によると、運行区間は東芝コーポと戸塚駅の間。途中には次のような生活拠点が置かれています。
- やまか南戸塚店
- 食品館あおば戸塚町店
- 南戸塚地域ケアプラザ
- 平成横浜病院
- 戸塚下郷公園周辺
住宅地から戸塚駅へ向かう便は7便、反対方向は6便です。朝夕の通勤輸送ではなく、日中の通院、買い物、用事に狙いを絞った時刻設定になっています。
6人乗り、400円という設計
「みなみんなGO」は、大型バスを小型化しただけのサービスではありません。ワゴン型車両1台を使い、乗客定員は6人。車両の準備が整うまでは小型タクシー車両で運行します。
運賃と利用条件は次の通りです。
- 大人:1乗車400円
- 小児:1乗車200円
- 未就学児:無料
- 敬老パス提示:200円
- 福祉パス・特別乗車券提示:無料
- 支払い:現金または専用回数券ICカード
- 運休日:土日、祝日、年末年始
予約制ではなく、時刻表に合わせて乗降場から利用できます。対象地区の住民に限定されず、誰でも乗車可能です。
一方、大人400円は、日常的に往復すれば800円になります。便利さだけでなく、利用頻度と家計負担の釣り合いが取れるかは重要な検証項目です。定員が少ないため、利用が特定の便に集中した際に乗り切れるかも見逃せません。
ここがポイント: この実証で問われるのは「小型車なら走れるか」だけではなく、住民が継続して使える運賃、便数、運行時間になっているかです。
市が先に声をかけた「プッシュ型支援」
今回の経緯には、地域交通の作り方を変えるヒントがあります。
横浜市は2025年4月、この地区をプッシュ型支援地区として検討対象にしました。同年5月から移動動向アンケートと運行計画案の検討を進め、11月には日本交通横浜が参画。2026年1月に住民による地域交通導入委員会が発足し、3月の地域公共交通会議を経て、8月の運行開始に至りました。
従来、地域交通は住民組織が課題を整理し、行政へ支援を求める形になりがちです。しかし、高齢化が進む地域ほど、合意形成や運行事業者との調整を担う人手も不足します。行政側から対象地区へ意向を確かめ、検討の入口を作ることには意味があります。
国土交通省も「交通空白」が家族の送迎負担を増やし、仕事や活動に使える時間を奪う問題だと位置づけています。2026年6月の交通空白解消本部では、改正地域交通法の施行準備や、地域にある輸送資源を活用する事例づくりを進める方針が示されました。
戸塚の取り組みは、その全国的な課題が大都市の住宅地にも存在することを具体的に示しています。
子どもも「地域の足」づくりに参加
愛称は、沿線の南戸塚小学校と下郷小学校の児童が考案しました。地域のみんなが使い、幸せを運んでほしいという思いが込められています。ロゴは南戸塚中学校美術部の生徒によるデザインが基になりました。
これは装飾だけの話ではありません。実証運行は、知られなければ利用されず、利用されなければ続きません。学校や商業施設、医療施設が企画段階から関わり、住民が自分たちの交通として認識できるかどうかは、利用者を増やすうえで実務的な意味を持ちます。
地域情報サイト「戸塚であそぼ!」も、開始前から運行日、運賃、主な区間を生活情報として紹介しました。ネット上で大規模な賛否が起きた話題ではありませんが、地域向け媒体では、買い物や通院が便利になる新しい選択肢として受け止められています。
2年間で見るべき3つの数字
実証運行は2年間の予定です。ただし、2027年度以降の運行には横浜市会での予算議決が必要とされています。愛称が定着しても、実際に使われなければ本格運行は難しくなります。
今後は、次の数字が判断材料になります。
-
1便当たりの利用者数
定員6人に対し、空席が多すぎないか、反対に積み残しが出ないか。 -
どの乗降場が使われるか
駅への移動だけでなく、病院、スーパー、地域ケアプラザへの需要を拾えているか。 -
繰り返し利用する人の割合
試し乗りで終わらず、400円を払って日常的に選ばれるか。
とりわけ確認したいのは、午前と午後の需要差です。通院や買い物の時間帯とダイヤが合っているか、地域ケアプラザを通過する便があることが利用者にどう影響するか。運行開始後の実績に応じて、便や停留所を調整できるかが次の焦点になります。
「みなみんなGO」が本格運行へ進めるかどうかは、ほかの坂の多い住宅地にとっても重要です。まず見るべきなのは車両の新しさではなく、6席が日々どのように使われるかです。
