坂道の先に6人乗りの地域交通 戸塚「みなみんなGO」が問う持続性|2026年7月31日版
横浜市戸塚区の戸塚町南側地区で、地域交通「みなみんなGO」の実証運行が8月3日に始まります。駅やバス停まで歩くことが難しい住民を、買い物先、病院、地域ケアプラザ、戸塚駅へつなぐ6人乗りの交通です。
注目したいのは、横浜市が交通の不便な地域へ先に働きかける「プッシュ型支援」から実証運行に進む初の事例であることです。住民から要望が出るのを待つだけではなく、市が候補地域を抽出し、地域と一緒に運行計画をつくる仕組みが実際に走り始めます。
- 運行開始は2026年8月3日
- 平日の9時台から16時台に1日13便
- 大人400円、小児200円。敬老パス提示なら200円
- 2年間の実証を予定し、利用状況などを確かめる
どこを、どのように走るのか
運行区間は、戸塚町南側の東芝コーポ周辺と戸塚駅の間です。予約型ではなく、決められた時刻に乗降場から乗る定時運行となります。
主な運行条件は次の通りです。
- 車両:ワゴン型車両1台、乗客定員6人
- 運行日:月曜日から金曜日
- 時間帯:9時台から16時台
- 便数:戸塚駅行き7便、東芝コーポ行き6便
- 運賃:大人400円、小児200円、未就学児無料
- 支払い:現金または専用回数券ICカード
- 運行事業者:日本交通横浜
ルート上には、食品館あおば戸塚町店、やまか南戸塚店、南戸塚地域ケアプラザ、平成横浜病院などの乗降場があります。単に住宅地と駅を往復するのではなく、日々の買い物、通院、福祉サービスの利用を一つの経路で支える設計です。
たとえば東芝コーポから戸塚駅へ向かう便は、時刻表上では約31分。駅への速達性だけを追う交通ではありません。途中に生活施設を細かく結ぶことで、坂道を歩く負担や、家族による送迎の必要を減らす役割が期待されています。
「交通空白」だけでは捉えきれない坂道の問題
戸塚町南側地区は戸塚駅から離れ、高低差も大きいため、最寄りのバス停へ行くこと自体が難しい場所があります。
地図上で駅や既存バス停からの距離を測るだけでは、こうした不便は十分に見えません。同じ数百メートルでも、平坦な道と急な坂道では、高齢者や足腰に不安がある人、荷物を持つ人にかかる負担が大きく異なるからです。
横浜市の「みんなのおでかけ交通事業」は、鉄道駅から道路距離800メートル、バス停から300メートルのいずれの範囲にも入らない地域などに、市側から意向確認やアンケート、運行計画案の提案を行う仕組みです。戸塚町南側では2025年4月に検討を始め、移動動向のアンケート、運行事業者の参画、住民委員会の発足を経て実証運行に至りました。
ここがポイント: 行政が路線を一方的に決めたのではなく、市が最初のきっかけをつくり、住民、交通事業者、学校、商業・医療施設が運行計画を具体化しました。
子どもも「地域の足」づくりに参加
地域との関わりは、運行条件の調整だけではありません。
「みなみんなGO」という愛称は、南戸塚小学校と下郷小学校の児童が考案しました。地域のみんなが使い、幸せを運んでほしいという思いが込められています。ロゴも南戸塚中学校美術部の生徒によるデザインを基に制作されました。
この参加には実務的な意味があります。小型の地域交通は、運行を始めるだけでは定着しません。名前や車両を地域で認知し、日常的に選ばれる必要があります。子どもが企画段階から関わることで、家庭や学校にも存在が伝わりやすくなります。
地域情報サイトでも、買い物や通院の移動が便利になりそうだと紹介されました。一方、実際の評価は運行開始後の利用実績を待つ必要があります。
成否を分けるのは「本当に乗られるか」
実証運行は2年間を予定しています。ただし、2027年度以降の運行には横浜市会での予算議決が必要です。実証開始はゴールではありません。
特に見るべき点は三つあります。
6席で需要に応えられるか
車両の乗客定員は6人です。通院時間や買い物時間が重なれば、便によっては席が足りなくなる可能性があります。反対に利用が少なければ、運行経費に見合う効果を示せません。曜日や時間帯ごとの乗車実績が、ダイヤ見直しの材料になります。
400円が日常利用に適した水準か
大人運賃は1乗車400円。往復なら800円です。タクシーより利用しやすい一方、頻繁な買い物や通院では家計負担になります。敬老パス提示者は200円、福祉パス・特別乗車券の提示者は無料ですが、それ以外の利用者が継続的に選ぶ価格かどうかは重要な検証項目です。
平日日中だけで生活需要を拾えるか
運行は平日の9時台から16時台で、土日祝日は走りません。買い物や日中の通院には合わせやすいものの、早朝の通院、夕方以降の帰宅、休日の外出には使えません。
すべての移動需要を1台で担うことはできないため、まず対象を絞る判断は現実的です。そのうえで、利用者がどの移動を諦めたのか、希望する時間帯に乗れなかったのかまで把握できるかが問われます。
次に見るべきは乗車人数だけではない
利用者数は最も分かりやすい指標ですが、それだけでは生活への効果を測れません。
今後は、次の点も確かめる必要があります。
- 住民の通院や買い物の回数が維持・増加したか
- 家族や近隣住民による送迎負担が減ったか
- 6席という規模と13便のダイヤが需要に合っているか
- 400円の運賃で継続利用が生まれるか
- 運行経費を誰がどこまで負担するか
市から地域へ声をかける仕組みが機能すれば、移動に困っていても住民組織を立ち上げられない地域を支援しやすくなります。まず注目すべきは、8月3日以降、病院や商店へ向かう便に実際に何人が乗るか。そして、乗らなかった住民の理由を運行改善に反映できるかです。
