MENU

ミズーリ州の原発建設費、なぜ電気料金への上乗せが止まりかけたのか

ミズーリ州の原発建設費、なぜ電気料金への上乗せが止まりかけたのか

米ミズーリ州で、原子力発電所の建設費を完成前から電気料金に上乗せできるようにする案が、州上院で急ブレーキをかけられた。州下院は前日に上乗せを認める方向へ進んだが、上院では「家庭や企業の電気代をこれ以上押し上げるべきではない」として、原発向けの上乗せを禁じる修正案が1票差で通った。

焦点は原発そのものの是非ではない。まだ発電していない施設の建設費を、誰が、いつ負担するのかだ。

  • 州上院は2026年4月8日、原発建設に関する「建設中工事費」上乗せを禁じる修正案を14対13で採択した
  • ミズーリ州では1976年の住民投票で、未稼働施設の費用を電気料金に入れることが禁じられてきた
  • 2025年にはガス火力などを念頭に、この仕組みを一部認める大型公益事業法が成立している
  • 今回の争点は、建設期間が長く費用超過リスクも大きい原発にまで同じ仕組みを広げるかどうかだった
目次

何が起きたのか

ミズーリ州議会では、将来の電力需要に備えるため原子力を増やすべきだという声が強い。一方で、その費用を電気料金にどう反映するかで、共和党内でも割れた。

現地公共ラジオKBIAによると、州上院は2026年4月8日、上院法案SB 838の審議で、原発施設について建設中工事費を料金に上乗せすることを禁じる修正案を採択した。州上院の日誌でも、修正案は14対13で通過し、その後、修正後の法案が上院で「perfected」とされたことが確認できる。

この動きの意味は大きい。州下院ではその前日、原発建設費を電気料金に含める方向の法案が進んでいた。つまり、議会内で次の2つの考え方が正面からぶつかったことになる。

  • 原発を建てやすくするため、建設中から料金回収を認める
  • 原発は費用超過リスクが大きいため、利用者に先払いさせない

ここがポイント: ミズーリ州の議論は「原発を認めるか」だけではなく、「完成前のリスクを電力会社、投資家、料金利用者の誰が背負うか」をめぐる制度設計の争いになっている。

CWIPとは何か。なぜ電気料金に直結するのか

今回のキーワードは「Construction Work in Progress」、略してCWIPだ。日本語では「建設中工事費」と訳せる。

通常、発電所は完成して運転を始めてから、設備費や運転費が料金に反映される。CWIPを認めると、発電所がまだ電気を生んでいない段階でも、建設費や資金調達に関わる費用を料金に入れられる。

電力会社側には利点がある。

  • 建設中の資金調達負担を軽くできる
  • 大型電源への投資を進めやすくなる
  • 完成後に費用を一気に回収するより、長期では料金上昇を抑えられる可能性がある

しかし、利用者側から見ると別の問題が出る。

  • 完成前から電気代が上がる
  • 工期遅れや費用超過のリスクを料金利用者も負う
  • 中止された場合、支払った料金に見合う電力を受け取れない可能性がある

原発ではこのリスクが特に大きい。建設期間が長く、規制対応、資材費、金利、訴訟、地元調整の影響を受けやすいからだ。

1976年の住民投票がまだ効いている

ミズーリ州には、この争点を考えるうえで重要な前史がある。

州法393.135条は、電力会社が未稼働施設の建設中費用をサービス料金に反映することを禁じている。この規定は1976年11月2日の住民投票で採択されたものだ。

この時期、米国では大型原発の建設費が各地で膨らみ、完成の遅れも問題になっていた。ミズーリ州の有権者は、発電前の費用を家庭や企業に背負わせない仕組みを選んだ。

ただし、州議会は2025年に公益事業関連の大型法案SB 4を成立させ、CWIPの扱いを一部変えた。マイク・キーホー知事の発表では、同法は新たな発電設備の整備を促し、長期的な資金調達費用を抑える狙いがあると説明されている。

今回の原発論争は、その延長線上にある。

  • 2025年: ガス火力などを含む発電投資を促す制度改正が成立
  • 2026年: 原発にも同様の料金回収を広げるかが争点に
  • 上院修正案: 原発についてはCWIPを認めない方向へ

過去の住民投票、現在の電力需要、将来の原発投資。この3つが同じ法案の中でぶつかっている。

なぜ原発がここまで争点になるのか

ミズーリ州には、アメレン・ミズーリが運営するキャラウェイ原子力発電所がある。KBIAは、同発電所がアメレン・ミズーリの発電量の約4分の1を担っていると伝えている。

電力会社や原発推進派にとって、原子力は天候に左右されにくい大規模電源だ。データセンター、製造業、家庭用電力の需要が増えるなか、石炭火力の退役や再生可能エネルギーの変動を補う電源として期待されている。

一方で、反対派や消費者団体が見ているのは、毎月の請求書だ。

州上院で修正案を出したジョー・ニコラ議員は、電気代に苦しむ住民の負担を理由に、原発向けCWIPの拡大に反対した。消費者団体も、料金利用者を完成前の投資リスクにさらす点を問題視している。

ここで対立しているのは、単純な「原発賛成」「原発反対」ではない。

推進側の見方

推進側は、発電所の建設費を早めに回収できれば、将来の資金調達費用を抑えられると考える。完成後に巨額の費用をまとめて料金に乗せるより、建設中から分散したほうが長期的には安くなるという理屈だ。

また、州内で安定電源を確保できれば、製造業誘致や大口電力需要への対応にもつながる。電力不足が企業立地の制約になれば、州経済にも響く。

慎重派の見方

慎重派は、原発の建設費が予定通りに収まらない場合の負担を重く見る。料金利用者は電力会社の株主ではない。それでもCWIPを認めれば、完成前から実質的に建設資金を出す立場になる。

さらに、完成が遅れたり計画が止まったりした場合でも、すでに支払った料金が戻るとは限らない。家庭だけでなく、電力を大量に使う工場や事業者にとっても無視できない問題だ。

3つのシナリオで見る今後

現時点で、ミズーリ州の方向はまだ確定していない。上院は修正案を通したが、法案全体の最終処理や下院との調整が残る。

シナリオ1: 原発CWIP禁止が維持される

上院の修正が最終的に残れば、原発については完成前の建設費を電気料金に上乗せできない方向になる。

この場合、料金利用者の短期負担は抑えられる。一方で、電力会社は原発建設の資金調達を別の形で組む必要があり、新規原発計画のハードルは上がる。

シナリオ2: 下院側と再調整される

下院は原発向けCWIPを認める方向に動いていたため、今後の協議で折衷案が出る可能性がある。

たとえば、次のような条件付き制度だ。

  • 公益事業委員会による事前審査を強める
  • 費用超過時に電力会社側へ一部返還義務を課す
  • 小型炉や一定規模以下の施設に限る
  • 低所得世帯や高齢者向けの料金保護と組み合わせる

制度を細かく設計すれば、投資促進と消費者保護の両方を狙える。ただし、複雑にしすぎると、結局どのリスクを誰が負うのかが見えにくくなる。

シナリオ3: 原発以外の電源政策に重点が移る

上院修正案は、原発建設そのものを禁じるものではない。問題にしているのは料金回収の方法だ。

そのため、州議会は今後、送電線整備、既存発電所の更新、ガス火力、再生可能エネルギー、蓄電池など、原発以外の手段にも議論を広げる可能性がある。実際、上院法案SB 838には送電施設の道路用地内設置に関する修正も入っており、電源だけでなく送電網も政策対象になっている。

日本から見ると、どこが重要か

日本の読者にとっても、この話は遠い州議会ニュースではない。原発再稼働、新増設、送電網投資、再エネ接続、電気料金の値上げは、日本でも同じように絡み合う。

特に見るべきなのは、次の点だ。

  • 大型電源の建設費を、完成前から料金に入れるのか
  • 利用者に負担を求めるなら、費用超過や中止時の保護をどう置くのか
  • 安定電源の必要性を、毎月の電気代上昇とどう両立させるのか

原発を増やすかどうかの議論は、技術や安全だけで終わらない。建設費をどのタイミングで誰が払うかを決めなければ、政策は前に進まない。

今後の注目点

ミズーリ州の議論で次に見るべき点は3つある。

  • 上院で通った原発CWIP禁止の文言が、最終法案に残るか
  • 下院との調整で、料金利用者保護や費用返還の条件が加わるか
  • アメレン・ミズーリなど電力会社が、原発投資計画をどう説明し直すか

電力需要は増えている。だが、請求書もすでに重い。ミズーリ州議会が次に決めるのは、原発の未来だけではなく、完成前のリスクを住民の電気料金にどこまで移してよいのかという線引きだ。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次