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在宅ヘルパー事業所の廃業が止まらない——2024年報酬引き下げ後の訪問介護に何が起きているか|2026年6月17日版

2024年4月の介護報酬改定で、訪問介護(ホームヘルプサービス)の基本報酬が引き下げられた。全体の改定率がプラスの中、この種別だけが例外扱いとなった。それ以来、全国で小規模ヘルパー事業所の廃業が続いている。

高齢者が自宅で暮らし続けるための最後の砦とも言えるサービスが、なぜ削られ、何が変わっているのか。

この記事の要点

  • 2024年4月の改定で、訪問介護の身体介護・生活援助の基本単価が約2%引き下げられた
  • 小規模事業所を中心に廃業・休止が増加。地方では代替が見つからないケースも
  • 利用者は約130万人。担当事業所が突然廃業すると、在宅継続が困難になる
  • 次の正式な議論の場は2027年介護報酬改定。準備の審議会がすでに動いている
目次

何が変わったのか——2024年改定の中身

3年に一度の介護報酬改定は2024年4月に施行された。全体の改定率は+1.59%だったが、訪問介護はそこから外れた。

具体的な変更はこうだ。

  • 身体介護(入浴・排泄補助など)20分以上30分未満:395単位 → 387単位
  • 生活援助(調理・掃除など)20分以上45分未満:220単位 → 215単位

数字にすると2%前後の削減だが、事業者にとって意味するものは違う。1回のサービスあたりの報酬が数十円単位で削られ、それが月に何百件も積み重なる。

厚労省の根拠と業界の反発

引き下げの根拠として厚生労働省が示したのは、訪問介護事業所の収支差率(利益率)が平均7.8%と、介護サービス全体の平均(約2.4%)を大幅に上回っていたという調査データだ。

これに対し、業界団体は「大手と零細を同じ統計で語っている」と反発した。大手法人が数字を引き上げており、小規模事業所の実態とはかけ離れているという主張だ。

移動コスト、車両維持費、ヘルパーの待機時間——これらは規模が小さいほど重くのしかかる経費で、利益率の計算に反映されにくい。

ここがポイント: 訪問介護の収益は、ヘルパー一人ひとりの「実働時間」でほぼ決まる。スタッフが1人でも病欠・退職すれば稼働率が急落する。余裕ゼロの経営で報酬が削られれば、廃業判断が早まるのは当然だ。

廃業の連鎖——誰が直撃を受けたか

報酬引き下げの影響を最初に受けたのは、ヘルパー数人〜10人規模の小さな事業所だ。

大手は規模の経済が働くが、小規模事業所は固定費の比率が高い。ベテランヘルパーが退職すると、それだけで月の稼働時間が大幅に落ち込む。報酬引き下げはその薄い利幅をさらに削った。

廃業・休止の傾向として報告されているのは:

  • 小規模事業所への集中: 従業者10人未満の事業所で廃業が目立つ
  • 地方・過疎地の深刻さ: 都市部では他の事業所がカバーできるが、農村部では「この地域で受け入れられる事業所が1か所しかない」状況が珍しくない
  • ヘルパーの高齢化と退出: 訪問介護従事者の平均年齢は50代半ば。事業所が閉じると、現場経験の蓄積も失われる

「ガソリン代も車の維持費も事業所持ちだ。利益率が高いからと切られても納得できない」——こうした声が全国の中小事業者から2024年春以降、業界誌や地方紙に相次いで掲載された。

利用者への影響——「在宅継続」が揺らぐ

訪問介護を利用しているのは要支援・要介護認定を受けた約130万人(2023年度)。多くは高齢者で、一人暮らしや老老介護の家庭が多い。ヘルパーが毎週来ることで、食事・入浴・服薬管理を保ちながら自宅生活を続けている。

担当の事業所が廃業したとき、利用者の選択肢はこうなる。

  1. 新しい事業所への引き継ぎ: 都市部ではまだ可能なケースがあるが、地方では空きがなく数か月待ちになることも
  2. 施設入所の検討: 在宅サービスが途絶えれば、老人ホームや特別養護老人ホームが選択肢になる。ただし特養の待機者は全国で依然多い
  3. 家族への負担移転: 現役世代の子どもや配偶者が介護を引き受けることになれば、就業継続が難しくなる

「担当のヘルパーさんから突然『来月で廃業になる』と言われた。ケアマネに電話しても次が見つからない」——こうした事例は2024年後半から地方紙の生活面でも取り上げられるようになった。

サービスが切れた先に何があるか。利用者本人だけでなく、その家族も含めた問題になっている点が重要だ。

2025年以降の動き

業界の要求

全国ホームヘルパー協議会などの業界団体は、2024年春から繰り返し見直しを求める要望書を厚生労働省に提出している。一部の地方議会では、国に再考を求める意見書が可決された。

厚労省の対応

厚生労働省は「事業所の経営実態を継続的にモニタリングし、次の改定に反映する」との方針を示している。即時の報酬回復は行われていないが、社会保障審議会(介護給付費分科会)での議論には、訪問介護の報酬水準が論点の一つとして挙がっている。

次の分岐点:2027年介護報酬改定

正式な見直しのタイミングは2027年の次期介護報酬改定だ。準備のための審議会議論は2025年から始まっており、事業所の経営実態調査も進んでいる。

ただし、単純な報酬引き上げには保険料や税負担の増加が伴う。少子高齢化で介護保険財政が圧迫される中、「現場を維持できる報酬水準」と「財政の持続可能性」の両立は、2027年改定でも答えが出にくい構造問題として残る。

今後の注目点

  • 厚生労働省が公表する2024年度の訪問介護事業所廃業・休止件数の最終集計
  • 社会保障審議会 介護給付費分科会での2027年改定に向けた報酬水準議論の行方
  • 処遇改善加算制度の見直しが現場ヘルパーの待遇改善につながるか
  • 外国人介護人材(EPA・特定技能)の在宅ケアへの活用拡大と現場定着率

在宅介護を支える「人」と「事業所」が減り続けるなら、施設整備でカバーできる範囲にも限界がある。「家で最期まで」という多くの高齢者の願いが、制度の綻びで叶えられなくなるリスクを、2027年改定の議論が直視できるかどうかが問われている。

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