廿日市市が窓口予約を電話とWebで開始 「待たない役所」の成否を分ける条件
広島県廿日市市は2026年7月、マイナンバーカード窓口の予約制度を始めました。予約した人を優先することで待ち時間を短くしつつ、電話予約と予約なしの受付を残した点が重要です。
役所の窓口予約は、単に行列をオンラインへ移すだけでは十分ではありません。Webを使いにくい人、急に手続きが必要になった人にも入口を残し、予約枠と当日枠をどう配分するかが成否を分けます。
- 対象はマイナンバーカードの交付、電子証明書の更新、暗証番号の再設定、申請など
- Webだけでなく、平日に利用できる予約専用コールセンターを設置
- 予約なしでも手続きできるが、案内は予約者が優先
- 夜間窓口と毎月第4土曜日の休日窓口も予約対象
廿日市市では何が変わったのか
来庁前に時間を確保できる一方、予約できない人を窓口から締め出さない仕組みになりました。
廿日市市の発表によると、制度の開始日は2026年7月1日。対象は市役所1階市民課で行うマイナンバーカード関連の手続きです。
予約できる主な手続きは次の通りです。
- 新しいカードの交付
- 電子証明書の更新
- 暗証番号の再設定
- マイナンバーカードの申請
- その他のマイナンバーカード関連手続き
予約方法は、24時間利用しやすいWebと、平日午前8時30分から午後5時まで受け付ける電話の2系統です。平日の通常窓口に加え、毎月第2木曜日、第4火曜日の夜間窓口、毎月第4土曜日の休日窓口も対象に含まれます。
「完全予約制」ではない
生活者にとって大きいのは、予約なしで来庁しても対応を受けられることです。ただし、予約者が優先されるため、混雑時には待つ可能性があります。
この併用方式なら、次のような人にも窓口への道が残ります。
- 急いで暗証番号を再設定する必要が生じた人
- Web予約の操作が難しい人
- 仕事や介護の都合で予定を確定しにくい人
- 予約制度を知らずに来庁した人
予約の利便性を生かしながら、行政サービスに必要な「最後の受け皿」も維持する設計です。
待ち時間はなぜ短くなるのか
自治体が来庁人数と手続き内容を事前に把握できるため、混雑の山をならしやすくなります。
従来の先着順では、連休明けや電子証明書の更新が集中する時期に来庁者が重なっても、職員側は当日まで人数や用件を詳しく把握できません。予約制なら、交付、更新、暗証番号再設定など、必要時間の異なる手続きを時間帯ごとに振り分けられます。
利用者側にも具体的な利点があります。
- 庁舎で長時間待つ可能性が下がる
- 仕事や通院の前後に予定を組みやすくなる
- 電話予約時に必要な持ち物を確認できる
- 夜間・休日の限られた開庁時間を使いやすくなる
自治体の先行例では、効果が数字にも表れています。総務省が紹介した資料では、静岡県裾野市で繁忙期に1時間を超えていた市民課窓口の待ち時間について、来庁予約システムの導入後は予約者が「ほぼ待ち時間ゼロ」になったとされています。
ただし、これは予約した人についての先行事例です。廿日市市でも同じ結果になるかは、予約枠の設定、手続きにかかる実時間、当日来庁者の数を確認する必要があります。
ここがポイント: 予約システムそのものが待ち時間を消すのではありません。自治体が手続き別の所要時間を測り、予約枠と当日枠を継続的に調整して初めて効果が出ます。
Web一本化を避けたことが重要
デジタル格差への現実的な対策は、操作説明を増やすだけでなく、電話や対面という別経路を残すことです。
高齢者の中にもスマートフォンを使いこなす人は増えています。一方で、年齢だけではなく、通信環境、障害、日本語の理解、端末の所有状況などによってWeb予約が難しい人もいます。
廿日市市は予約専用のフリーダイヤルを設けました。電話では予約受付だけでなく、窓口へ持参する物や来庁時の注意事項を伝えることも業務に含まれます。入力画面で迷いやすい人にとって、職員や受託事業者と話しながら確認できる意味は小さくありません。
ただし、電話にも弱点があります。
- 受付が平日の日中に限られる
- 電話が集中するとつながりにくくなる
- 聞き間違いや伝達漏れを防ぐ運用が必要になる
- Webより運営費と人手がかかる
市の2026年度予算説明資料には、マイナンバーカード予約コールセンター等運営業務委託料として2,183万2,000円が計上されています。費用を負担するのは自治体であり、実務は入札で選ばれた事業者へ委託する形です。
この支出を評価するには、「システムを導入したか」ではなく、待ち時間、電話の応答状況、予約なし来庁者の滞在時間、職員の時間外勤務がどう変わったかを見る必要があります。
予約優先には新しい不公平も生まれ得る
予約枠が便利になるほど、制度を知らない人や予定を立てにくい人が長く待つ可能性があります。
先着順では「早く来た人が先」でした。予約優先では、予約なしで先に到着していても、後から来た予約者が先に案内される場合があります。ルールを知らない利用者には、順番を飛ばされたように見えるでしょう。
別の自治体では、予約なしで訪れた市民への説明を巡って苦情が寄せられた例もあります。予約制度への不満というより、予約していない人に対する案内の仕方が問題になりました。
現場で必要なのは、入口やWebサイトで次の点を明確に知らせることです。
- 予約なしでも受け付けるのか
- 予約者がどの程度優先されるのか
- 当日の待ち時間はどれくらいか
- 急ぎの事情がある場合は誰に相談するのか
- Webや電話を使えない人をどう支援するのか
ネット上でも、窓口予約を歓迎する声がある一方、「予約しないと利用できないのでは」「高齢の家族が手続きしにくくならないか」といった懸念は生じやすいテーマです。廿日市市については発表から日が浅く、公開情報の範囲では利用実績やまとまった市民評価はまだ示されていません。
国と自治体、民間事業者の役割は異なる
制度を決めて運用結果に責任を持つのは廿日市市であり、国や民間事業者はそれぞれ別の役割を担います。
国は、自治体窓口のデジタル化や業務改革を後押ししています。デジタル庁も、システム導入だけでは窓口DXは実現せず、導入前に業務の流れを見直す「窓口BPR」が必要だと説明しています。
役割を整理すると、次のようになります。
- 国:共通仕様、基盤、助言や政策の方向性を示す
- 廿日市市:対象手続き、予約枠、当日受付、予算、委託内容を決める
- 受託事業者:電話受付やWeb予約システムを仕様に沿って運営する
- 住民:予約または当日受付を選び、必要書類を持って来庁する
予約制度の最終的な責任まで民間事業者へ移るわけではありません。電話がつながらない、予約枠が不足する、当日来庁者が長時間待つといった問題が起きれば、市が実績を確認し、委託先と運用を直す必要があります。
次に見るべきは「平均待ち時間」だけではない
予約制を評価するなら、速くなった人と取り残された人の両方を見る必要があります。
今後、廿日市市が実績を公表する場合は、次の指標が判断材料になります。
- 予約者と予約なし来庁者、それぞれの待ち時間
- Web予約と電話予約の利用割合
- 電話がつながるまでの時間と放棄呼の件数
- 予約枠の充足率、キャンセル率、無断キャンセル率
- 高齢者や障害のある人から寄せられた相談内容
- 導入前後の職員負担と委託費を含む総コスト
予約者の平均待ち時間だけが短くなっても、当日枠で長時間待つ人が増えれば、公共サービス全体の改善とは言い切れません。反対に、電話予約の利用が多く、Webを使わない人も予定通り手続きできているなら、複数経路を用意した効果が見えてきます。
廿日市市の制度は、Web、電話、予約なしという三つの入口を残して始まりました。次の焦点は、この入口を維持したまま、誰の待ち時間がどれだけ変わったかを数字で示せるかです。
