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バングラデシュの学校入学「くじ引き」廃止へ 2027年から何が変わるのか

バングラデシュの学校入学「くじ引き」廃止へ 2027年から何が変わるのか

バングラデシュ政府は、学校入学で使ってきた抽選方式を2027年度からやめ、入学テストを軸にした新制度へ移す方針を示した。焦点は「くじ引きか試験か」だけではない。人気校に入る入口をどう公平にするか、そして幼い子どもを過度な競争に戻さない設計を本当に作れるかが問われている。

要点を先に整理すると、こうなる。

  • 対象は政府系・私立の中等学校などで、現在は1年生から9年生まで抽選入学が使われている
  • 2027年度から抽選方式を廃止し、新しい入学方式に切り替える方針
  • 教育相は「簡単なテスト」と説明し、過度な競争や塾依存は避けるとしている
  • ただし、人気校の席数不足が変わらなければ、家庭の負担や不公平が形を変えて残る可能性がある
目次

何が決まったのか

発端は2026年3月中旬の教育省の発表だ。バングラデシュの教育相ANM Ehsanul Hoque Milon氏は、学校入学の抽選制度を廃止し、2027年度から新しい入学制度を導入すると説明した。

国営通信BSSは、政府が1年生から9年生までの学校入学について、抽選制度を2027年度から廃止する命令を出したと報じている。新制度は関係者の意見を踏まえ、「成績に基づく方法」または「科学的に認められた方法」で最終化されるという位置づけだ。

現地紙の報道では、教育相は抽選について「教育制度の標準にはなり得ない」と述べた。一方で、1年生の子どもに高度な試験を課す考えではなく、基本的なテストにするとも説明している。

ここで重要なのは、政府がまだ細部を固め切っていない点だ。抽選をやめることは明確になったが、試験の内容、合否判定、応募者が定員を超えた場合の扱い、障害のある子どもや低所得世帯への配慮は、今後の制度設計に残っている。

ここがポイント: 抽選廃止は「 merit 重視」への単純な回帰ではなく、人気校の限られた席を誰にどう配るかという制度設計の問題だ。

なぜ抽選方式が争点になったのか

抽選方式は、試験競争を和らげる目的で広がった。報道によれば、バングラデシュでは2011年度から政府系中等学校の1年生入学で抽選が義務化され、その後、私立学校にも広がった。新型コロナ禍を受け、2021年度には1年生から9年生まで抽選方式が使われるようになった。

抽選には分かりやすい利点がある。

  • 小さな子どもを早期の受験競争から遠ざける
  • 試験対策塾に通える家庭だけが有利になる状況を抑える
  • 入学選考での不透明な口利きや過度な競争を減らしやすい

しかし、反発も強かった。教師団体や一部の保護者は、抽選では学力や準備状況を見られず、学校の質を下げると主張してきた。議会でも、抽選が優秀な子どもの進学を妨げているという問題提起が出た。

この対立は、どちらか一方が完全に正しいという話ではない。人気校が少なく、地域ごとの学校の質に差があると、抽選でも試験でも不満は出る。抽選なら「努力が反映されない」と言われ、試験なら「家庭の資金力が反映される」と言われる。制度の名前より、席数と学校間格差の方が重い。

「簡単なテスト」は本当に簡単で済むのか

教育相は、入学テストが塾産業を刺激するとの懸念に対し、試験は簡単で、公平に実施すると説明している。だが、人気校の入学枠が限られている限り、家庭は少しでも有利になる方法を探す。

特に影響を受けるのは、都市部で評判の高い学校を目指す家庭だ。ダッカのような大都市では、通学可能な範囲にある人気校の席をめぐって競争が起きやすい。試験が「簡単」でも、合否に関わるなら、保護者は教材、模擬問題、家庭教師、塾を検討する。

リスクは主に三つある。

  • 低学年の受験化: 1年生入学から準備競争が始まる
  • 家計負担の増加: 塾や教材に払える家庭が有利になる
  • 選考の不透明化: 面接、追加基準、学校裁量が広がると説明責任が重くなる

もちろん、抽選制度にも限界はあった。希望校に入れない子どもが多く出るうえ、学校の質の差を埋めるわけではない。ただ、テストへの回帰が公平性を自動的に高めるわけでもない。新制度の成否は、試験の難易度よりも、運用の透明性で決まる。

背景には教育投資の薄さがある

このニュースが学校入学だけで終わらないのは、バングラデシュの教育制度全体が大きな改革圧力を受けているからだ。

政府は教育分野で43の重点領域を定め、短期・中期・長期の計画を進めると説明している。教育予算をGDP比5%へ引き上げる方針にも言及している。これは、学校の入口だけでなく、教員、教材、デジタル環境、職業教育、校舎整備まで含む広い課題だ。

一方、国際的な目安と比べると、足元の教育支出はまだ低い。UNESCOは教育支出についてGDP比4〜6%を重要な基準として示している。世界銀行データを基にした集計では、バングラデシュの教育支出は2024年時点でGDP比約2.03%とされる。

つまり、抽選をやめて試験を入れても、学校の数、教員の質、地域間格差がそのままなら、問題は入学時点に集中する。家庭は「良い学校」に入るために競争し、学校側は応募者をふるい分ける。教育制度全体の底上げが進まなければ、入口のルール変更だけが目立つことになる。

日本から見ると何が示唆的か

日本の読者にとって、この話は遠い国の制度変更に見えるかもしれない。だが、論点はかなり身近だ。人気校、抽選、入試、塾、家庭の負担、公平性。どれも日本の学校選択や受験制度でも繰り返し出てくる言葉だ。

バングラデシュの今回の動きから見えるのは、次の問いである。

  • 幼い子どもの選抜で、何を「能力」として測るのか
  • 抽選で機会を配る場合、学校間格差をどう埋めるのか
  • 試験を使う場合、塾に頼らない家庭をどう守るのか
  • 制度変更の前に、保護者や学校へどこまで説明するのか

入学制度は、単なる事務手続きではない。親がどの学校を信じるか、子どもが何歳から競争に入るか、学校が地域でどんな役割を持つかを決める。

今後の注目点

2027年度までに見るべき点は、抽選廃止そのものよりも、新制度の中身だ。

  • 1年生向けのテストをどこまで簡素にするのか
  • 定員超過時の追加基準を公開するのか
  • 塾依存を防ぐため、問題例や評価基準を事前に示すのか
  • 障害のある子ども、低所得世帯、地方の学校にどんな配慮を置くのか
  • 教育予算の拡大が、人気校だけでなく普通の学校の改善につながるのか

抽選をやめるだけなら、制度変更は一日で発表できる。難しいのは、その後だ。バングラデシュ政府が2027年度までに示すべきなのは、「くじ引きではない入学方法」ではなく、子どもと家庭が納得できる選抜のルールである。

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