給食を地元産だけにできない理由 愛知の取り組みに見る「価格・量・規格」の現実
学校給食の地産地消は、すべての食材を地元産に替えれば完成するものではありません。現実的なのは、米や牛乳など安定調達しやすい品目を土台に、旬の野菜や魚を計画的に増やす方法です。
愛知県は2026年度も、県内の公立小中学校などで年3回「愛知を食べる学校給食の日」を実施しています。一方、食材価格によっては内容を変更・中止する可能性も明記しました。ここに、地産地消の理想と給食運営の現実が表れています。
- 愛知県の県産食品使用割合は、2024年実績の54.7%から2026年に57%以上を目指す
- 県内の学校給食では米と牛乳を県産で統一している
- 野菜や魚は収穫時期、必要量、調理機械に合う規格が障壁になる
- 地元産を増やす鍵は、単発イベントより年間を通じた発注調整と公費負担にある
愛知県は「全部地元産」ではなく57%を目指す
愛知県の目標は、地元産100%ではなく、金額ベースで県産食品57%以上です。
県が2026年3月に策定した「あいち食育いきいきプラン2030」では、学校給食に占める県産食品の割合を、2024年の54.7%から2026年に57%以上へ引き上げる目標を設定しました。
文部科学省の2025年度調査では、愛知県の地場産物使用割合は58.6%、国産食材は90.3%でした。全国平均はそれぞれ57.2%と90.0%です。調査時期や集計対象が異なるため県計画の数値とは単純比較できませんが、地場産物と国産食材の間に約30ポイントの開きがある点は重要です。
国産品を確保できても、それを県内産、市町村内産へ絞ると調達が難しくなります。産地を近づけるほど、供給できる農家、品目、季節が限られるためです。
年3回の献立で地域の食を見せる
愛知県の取り組みは、6月、秋、翌年1月の年3回です。2026年度の例では、次のように地域ごとの産物と学習を組み合わせています。
- 安城市:市産のキュウリ、チンゲンサイ、タマネギを使い、中学生が考案した丼を提供
- 南知多町:地元農家と連携し、有機野菜やシラスなど地域の農水産物を献立に活用
- ひいらぎ特別支援学校:県産タマネギやブロッコリーを使い、栽培活動や献立紹介につなげる
単に産地を表示するだけでなく、生徒が献立を考えたり、地域の農業や漁業を学んだりする点に意味があります。給食が「生きた教材」になるからです。
なぜ地元産を毎日使うのは難しいのか
最大の壁は、給食が決められた日時に、同じ品質の食材を大量に必要とすることです。
家庭なら、店頭にある野菜を見て夕食を変更できます。しかし、学校給食は栄養量やアレルギー対応を確認し、食材を発注したうえで、限られた時間内に数百食、共同調理場なら数千食を作ります。収穫量が急に減ったからといって、直前に献立を組み替えるのは簡単ではありません。
価格――安さだけを求めると続かない
地元産は輸送距離が短くても、必ず安いとは限りません。少量の集荷や選別、決められた時間への配送には費用がかかります。市場価格が上がれば、生産者だけに安値を求めることもできません。
愛知県内でも食材費は上昇しています。蟹江町は2026年度、小学校の1食単価を300円から330円、中学校を340円から370円へ変更しました。新城市も小中学校とも40円引き上げています。両自治体は公費を組み合わせ、保護者負担の抑制を図りました。
つまり、地元産を増やすかどうかは献立担当者だけでは決められません。自治体が価格上昇分をどこまで予算で支えるかという判断も必要です。
量――豊作でも必要な日に届くとは限らない
農産物の収穫量は天候に左右されます。同じ市内で十分な種類と量を一年中そろえられる地域ばかりではありません。
一方、給食側は「来週の火曜日に何キロ」という単位で確実な納品を求めます。生産者が個別に学校へ届ければ配送負担が重くなり、給食センターが多数の農家へ別々に発注すれば事務が複雑になります。
この間をつなぐのが、JA、納入業者、学校給食会、地産地消コーディネーターなどです。作付け前に必要量を伝え、複数の生産者から集め、欠品時の代替品まで決めておく。こうした調整役がいなければ、善意だけでは継続しません。
規格――「規格外なら安く使える」とは限らない
見落とされやすいのが調理設備です。農林水産省と文部科学省のガイドブックは、皮むき器や野菜スライサーに適した大きさが必要だと説明しています。
形が不ぞろいな野菜も、包丁で処理できる家庭なら問題にならないことがあります。しかし大量調理では、極端に大きさが違うと下処理に時間がかかり、加熱のむらも生じます。洗浄、異物確認、衛生管理まで含めると、規格外品の受け入れには人手と設備の余裕が欠かせません。
ここがポイント: 地元産を増やすには、農家に給食の規格を一方的に求めるのではなく、調理場が受け入れられる範囲を広げ、形や大きさに応じた価格を事前に決める必要があります。
誰が何を担うのか
地産地消の成否は、生産者と学校の間を誰が調整するかで決まります。
役割を分けると、課題が見えやすくなります。
- 国:調査、ガイドブック、モデル事業、コーディネーター派遣などで支援する
- 都道府県・市町村:目標と予算を決め、教育委員会、農政部門、調理場をつなぐ
- 生産者・JA・納入業者:作付け、集荷、選別、配送、欠品時の連絡を担う
- 学校・給食センター:献立、衛生、アレルギー、調理能力を踏まえて発注条件を示す
- 保護者・住民:給食費や公費負担、食材の品質について情報を確認し、意見を伝える
愛知県議会で紹介された学校給食に関する自由記述には、量や温度への不満に加え、国産品や無農薬食材を望む声もありました。オンラインでも地元産や有機食材を歓迎する投稿は見られますが、個別投稿だけで保護者全体の意見とは判断できません。
大切なのは「地元産なら良い」「価格が高いから無理」という二択にしないことです。産地への期待と、量、価格、安全性を同じ場で検討できる情報公開が要ります。
現実的に増やすための3つの手順
まず一品、次に一季節、最後に年間契約へ進むのが現実的です。
1. 安定する品目を土台にする
愛知県が米と牛乳を県産でそろえているように、一定量を継続確保できる品目から始めます。地場産物の使用率だけでなく、何を何日使えたかを見ることも重要です。
2. 献立を旬に合わせる
旬の収穫期に合わせて献立を作れば、量と価格の両面で調達しやすくなります。学校側が必要日を固定するだけでなく、収穫可能な期間に幅を持たせる工夫も有効です。
3. 追加コストの負担者を決める
選別や小口配送に費用がかかるなら、給食費、自治体予算、国の補助のどこで負担するのかを明確にします。給食無償化が進んでも、食材費そのものが消えるわけではありません。地元産を増やす政策には、継続的な財源が必要です。
次に見るべきは「イベント後の日常」
愛知県の年3回の取り組みは、子どもが地域の食を知る入口になります。ただし、地産地消が根づいたかどうかは、特別献立の日だけでは測れません。
今後確認したいのは次の点です。
- 県産食品57%以上という目標が、どの品目で達成されたか
- 価格高騰や不作時に、地元産の使用がどこまで維持されたか
- 生産者の配送・選別負担に見合う価格が支払われたか
- 調理場が受け入れ可能な規格を広げられたか
- 特別な日以外の献立にも地元産が定着したか
学校給食の地産地消を左右するのは、華やかな一日の献立より、翌月も同じ農家から無理なく納品できる仕組みです。2026年の57%目標を評価する際は、数字の達成だけでなく、その調達が翌年度も続けられるかを見たいところです。
