雇用率2.7%時代に問われる「働き続けるための配慮」 企業と本人はどこまで話し合うのか
2026年7月1日、民間企業の障害者法定雇用率は2.5%から2.7%へ上がりました。ただし、人数を満たせば対応が終わるわけではありません。
職場に求められる合理的配慮とは、障害のある人が応募し、仕事を続け、能力を発揮するうえで生じる具体的な支障を、本人と事業主が話し合って取り除くことです。一律の優遇でも、本人の希望をすべて受け入れる制度でもありません。
この記事の要点は次の4つです。
- 法定雇用率と合理的配慮は、別の義務
- 配慮の内容は、障害名ではなく仕事上の支障から決める
- 費用や事業への影響が過重なら、別の方法を話し合う
- 採用時だけでなく、配置転換や体調変化の後も見直す
2.7%への引き上げで、対象企業は37.5人以上に
今回変わったのは雇用する人数の基準であり、合理的配慮の義務が新設されたわけではありません。
2026年7月1日から、民間企業の法定雇用率は2.7%になりました。これに伴い、障害者を1人以上雇用する義務が生じる事業主の範囲は、常用労働者40人以上から37.5人以上へ広がっています。
国や地方公共団体などは3.0%、都道府県などの教育委員会は2.9%です。福岡労働局や福島労働局など各地の労働局も、地域の企業や公的機関に向けて引き上げを周知しています。
千葉県では2026年3月、千葉県知事、千葉市長、千葉労働局長が連名で、法定雇用数を下回る企業に雇用促進を要請しました。数字の引き上げが地域の採用現場へ具体的に波及している例です。
一方、合理的配慮の提供は、改正障害者雇用促進法により2016年4月から事業主の義務になっています。雇用率が「何人雇うか」を定めるのに対し、合理的配慮が扱うのは採用の機会と、採用後の働き方です。
合理的配慮は「同じ条件で力を出せるようにする」措置
判断の出発点は診断名ではなく、応募や仕事のどこで支障が生じているかです。
厚生労働省の指針は、募集・採用時には均等な機会を確保し、採用後には均等な待遇や能力発揮を妨げる事情を改善するため、必要な措置を講じるよう事業主に求めています。
具体例には、次のようなものがあります。
- 視覚障害のある応募者に、点字や音声などで採用試験を実施する
- 聴覚障害のある社員との会議で、筆談や文字情報を使う
- 発達障害のある社員に、作業手順を図や文書で明確に伝える
- 精神障害のある社員について、定期面談や業務量の調整を行う
- 車いすを使う社員のため、机の高さや移動経路を調整する
- 通院や体調に合わせ、休憩、勤務時間、配置を検討する
これらは完成済みの正解集ではありません。同じ障害名でも、担当業務、通勤経路、職場の設備、本人の経験によって必要な対応は変わります。
また、合理的配慮の対象は、障害者雇用率の算定対象と完全には一致しません。愛知労働局の事業主向け資料は、障害者手帳がなくても、高次脳機能障害などによる仕事上の支障が確認できる場合には対象となり得ることを示しています。
ここがポイント: 合理的配慮は「特別扱いの一覧」ではなく、本人が仕事をする際の障壁を確認し、その職場で実行可能な方法を個別に決める手続きです。
誰が決め、どのような順番で進めるのか
最終的に措置を講じる責任は事業主にありますが、本人の意向を無視して一方的に決める制度ではありません。
1. 仕事上の支障を具体化する
募集・採用時は、原則として本人からの申し出を起点に、必要な配慮を確認します。採用後は、事業主が障害を把握している場合、申し出がなくても職場で支障がないか確認することが求められます。
本人が伝えるときは、「配慮してください」だけでなく、次のように整理すると話し合いやすくなります。
- どの作業や時間帯で支障が出るか
- 現在はどのような方法で補っているか
- どの対応なら仕事を進められるか
- 配慮に必要な情報を、誰まで共有してよいか
2. 本人と事業主が実行方法を検討する
事業主は申し出を受けたら、本人の意向を十分に尊重し、職務内容や職場の状況を踏まえて措置を検討します。直属の上司だけに判断を任せず、人事、産業保健スタッフ、就労支援機関などを交える方法もあります。
希望された方法をそのまま実施できなくても、そこで話を終えるのではありません。例えば大規模な改修が難しい場合に、勤務場所の変更、補助機器の導入、担当業務の組み替えなどで同じ支障を軽減できないかを探ります。
3. 実施後も見直す
一度決めた配慮が、ずっと適切とは限りません。配置転換、業務システムの変更、症状や体調の変化によって、新たな支障が生じるためです。
面談の時期、連絡先、見直しの条件を決めておくと、問題が深刻になる前に調整できます。配慮を「採用時の一回限りの確認」にしないことが、離職を防ぐうえでも重要です。
費用は原則として事業主、ただし公的助成もある
「費用がかかる」という理由だけで直ちに断れるわけではありません。
合理的配慮に必要な費用は、措置を実施する事業主が負担するのが基本です。ただし、厚生労働省の指針は、次の要素を総合して「過重な負担」に当たるかを個別に判断するとしています。
- 事業活動やサービス提供への影響
- 機器、人材、設備を確保する難しさ
- 費用と事務負担の程度
- 企業の規模と財務状況
- 利用できる公的支援の有無
過重な負担と判断した場合も、事業主には実施できないことを伝え、求められれば理由を説明することが必要です。そのうえで、負担の小さい代替措置を本人と話し合います。
設備改修などには、高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成制度があります。障害者作業施設設置等助成金は、作業施設や設備の設置・整備、賃借にかかる費用の一部を助成する制度です。
地域障害者職業センター、ハローワーク、同機構の都道府県支部では、雇用管理や助成制度について相談できます。地域によって利用できる自治体独自の支援も異なるため、企業の所在地で確認する必要があります。
見落とされやすいのは「採用数」より定着の仕組み
雇用率を達成するための採用と、働き続けられる職場づくりは分けて考えられません。
法定雇用率が上がると、企業の関心は採用人数へ向かいがちです。しかし、業務指示が曖昧なまま、相談相手も決まっていなければ、採用後に本人と現場の双方が行き詰まります。
合理的配慮は、障害のある社員だけに関係する特別な設備投資とは限りません。手順の文書化、会議内容の文字共有、定期面談、静かな作業場所の確保など、職場運営の見直しで実現できる対応もあります。
同時に、現場の同僚へ負担を移すだけでは長続きしません。誰が調整を担うのか、業務量をどう配分するのか、本人の障害情報をどこまで共有するのかを、組織として決める必要があります。
次に見るべきは、雇用率ではなく「対話の記録」
2026年7月の引き上げ後、注目すべきなのは採用数だけではありません。企業や自治体が、個別の申し出を受け止め、実施できない場合にも理由と代替案を示せているかが問われます。
働く本人と事業主が確認したい点は、次の3つです。
- 支障と必要な措置が、具体的な言葉で共有されているか
- 誰が実施し、いつ見直すかが決まっているか
- 希望どおりにできない場合、理由と代替案が示されているか
雇用率2.7%は入口です。次の分岐点は、採用された人が数か月後、数年後にも力を発揮できているか。その結果を左右するのは、配慮の有無だけでなく、状況が変わったときに話し合いをやり直せる職場かどうかです。
