手前の商品を選ぶだけで廃棄は減る? データで見る「てまえどり」の実力と限界
買ってすぐ食べる食品なら、棚の手前にある期限の近い商品を選ぶ「てまえどり」は、店舗の廃棄削減に効果があります。京都市と京都生活協同組合の検証では、重点的に呼びかけた4品目の廃棄率が前年同月比で約6割減りました。
ただし、ポスターを掲示するだけで食品ロス問題が解決するわけではありません。最新の消費者調査では、言葉を知っていても実践していない人が40.3%に上ります。効果を広げる鍵は、買い物客への呼びかけと店舗側の売り切り策を組み合わせることです。
この記事の要点は次の4つです。
- てまえどりは、とくに牛乳や豆腐など期限の短い食品で効果が見込める
- 京都の検証では、PR対象4品目の廃棄率が前年同月比59.6%減少した
- 認知率は約7割だが、「知っているが実践しない」人も40.3%いる
- 長期保存する商品まで無理に手前から選ぶ必要はなく、「すぐ食べるとき」が基本になる
てまえどりで何が変わるのか
変わるのは、期限の近い商品が売れ残る順番です。
スーパーやコンビニでは、一般に期限の近い商品を手前に、新しい商品を奥に並べます。多くの客が奥の商品だけを選ぶと、まだ安全に食べられる手前の商品が販売期限を迎え、値引きや廃棄の対象になります。
てまえどりは、この偏りを小さくする行動です。買い物客が今日の昼食や夕食用の商品を手前から選べば、店は期限の迫った在庫を売り切りやすくなります。
影響を受ける主体と役割は明確です。
- 国:食品ロス削減の方針や啓発資材を示し、全国の推計値を公表する
- 自治体:地域の小売店に参加を呼びかけ、ポスターや棚用POPを提供する
- 店舗:期限順に陳列し、対象商品を分かりやすく示しながら値引きや発注調整も行う
- 消費者:食べる時期を考え、すぐ使う商品は手前から選ぶ
2026年2月には神奈川県も、県内のコンビニエンスストアでてまえどりを呼びかける取り組みを案内しました。同県は店頭で使える啓発資材を公開しており、店舗はそれを掲示し、買い物客は追加料金や特別な手続きなしで参加できます。
店舗の廃棄率はどこまで下がったのか
地域の実証では大きな減少が確認されていますが、数字の読み方には注意が必要です。
京都市は環境省のモデル事業として、京都生活協同組合の市内12店舗と市民モニター119人を対象に効果を検証しました。店舗ではポスターやPOPによる呼びかけに加え、販売期限を延ばす取り組みも実施しています。
結果は次の通りでした。
- 食料品全体の廃棄率:前年同月比13.2%減
- PR対象4品目の廃棄率:前年同月比59.6%減
- 対象品目:食パン、牛乳、豆腐、うどん
- 廃棄率の減少が大きかった順:食パン、牛乳、豆腐、うどん
期限が短く、前年に廃棄率が高かった品目ほど減少幅も大きくなりました。これは、てまえどりがどの商品にも同じように効くのではなく、期限の迫った在庫が日常的に発生する売り場で力を発揮することを示しています。
一方、この59.6%をすべて買い物客の行動だけによる成果とみなすことはできません。実証では販売期限の延長も同時に行われたためです。発注量、値引きの時間、天候、客数といった条件も廃棄率を左右します。
ここがポイント: てまえどりの効果は実店舗で確認されている。ただし、最も強い結果は店舗の販売期限延長などと組み合わせた数字であり、POP単独の効果とは区別して読む必要がある。
「知っている」と「実践する」の間に残る壁
最大の課題は認知不足より、知っていても行動に移さない人の多さです。
消費者庁が全国の5,000人を対象に実施した2025年度第1回消費生活意識調査では、回答は次のように分かれました。
- 知っていて実践している:31.6%
- 知っているが実践していない:40.3%
- 知らないが実践している:6.9%
- 知らず、実践もしていない:21.1%
認知している人は合計71.9%です。それでも、実践者は「知らないが実践している人」を含めて38.5%にとどまります。名前を広めるだけでは、棚の前での選択までは変わりにくいことが分かります。
奥の商品を選ぶ人にも事情がある
民間のインターネット調査では、奥から取る理由として「新鮮なものを選びたい」のほか、他人が触れた商品への不安や、手前の商品は汚れていそうだという懸念が挙げられました。
こうした受け止めを、単なるマナー違反として片づけるべきではありません。数日後に使う食品を買う人や、まとめ買いする世帯にとって、期限の長さは家計と家庭内の食品ロスに直結します。店頭で廃棄を減らしても、家庭で食べ切れなければ問題が移るだけです。
呼びかけには「必ず手前から」ではなく、次の条件を明記する必要があります。
- 今日か明日に食べる予定がある
- 表示された期限内に使い切れる
- 容器の破損や保存状態に問題がない
- 長期保存や備蓄を目的とした購入ではない
この条件なら、消費者は品質や家計を犠牲にせず参加できます。
日本全体では小さな行動をどう位置づけるべきか
てまえどりは有効ですが、年間461万トンの食品ロスを単独で解決する施策ではありません。
農林水産省などが2026年6月に公表した2024年度推計では、日本の食品ロスは年間461万トンでした。内訳は家庭系が約224万トン、事業系が237万トンです。
事業系237万トンのうち、食品小売業は48万トンを占めます。てまえどりが直接働きかけるのは、主にこの小売段階で発生する売れ残りです。食品製造業の規格外品や、外食店の食べ残し、家庭での作り過ぎには、それぞれ別の対策が要ります。
店舗側では、てまえどりと次の施策を組み合わせる必要があります。
- 需要予測を改善し、過剰発注を抑える
- 期限が近づいた商品を適切な時期に値引きする
- 販売期限を必要以上に短く設定しない
- 少量サイズやばら売りを用意する
- 売り切れを過度に恐れず、閉店間際の在庫を見直す
消費者の善意に任せるだけでは、発注や販売の失敗まで買い物客に負わせることになります。行政には啓発資材の配布だけでなく、参加店舗から品目別の廃棄量を集め、どの売り場で実際に減ったのかを検証する役割があります。
買い物で迷ったときの判断基準
「いつ食べるか」を先に決めれば、てまえどりは無理なく続けられます。
今日食べる弁当、帰宅後に使う豆腐、翌朝に開ける牛乳なら、手前の商品で期限が足りるかを確認します。足りるなら、その商品を選ぶ。数日分をまとめて買う場合は、予定に合う期限の商品を選びます。
店舗の取り組みを見るときは、POPの有無だけでなく次の点にも注目してください。
- 「すぐ食べるなら」と条件が分かりやすく書かれているか
- 期限の近い商品が見つけやすいか
- 値引きや小容量商品など、別の選択肢もあるか
- 店舗や自治体が削減実績を数字で公表しているか
次の分岐点は、全国的に高まった認知を実践へつなげられるかです。今後の自治体や小売店の発表では、参加店舗数やポスターの枚数ではなく、対象品目の廃棄量が実際に何%減ったのかを確認する必要があります。
