職員145人減でも「便利になった」とは限らない 関市の合併20年検証が映す生活圏の距離
市町村合併は、行政組織を小さくする面では効果を上げました。しかし、住民の暮らしまで一律に効率化したとは言えません。
岐阜県関市が2026年3月に公表した合併検証報告書では、職員数や議員数が減る一方、中心部と周辺部で暮らしやすさに大きな差が残りました。合併の成否は、市全体の経費だけでなく、通院、介護、移動、窓口利用に必要な時間まで見なければ判断できません。
この記事の要点は次の3つです。
- 関市の職員数は合併前の779人から2024年度の634人へ減少した
- 地域事務所を残しても、公共施設や交通、介護サービスの地域差は解消していない
- 今後は「施設をいくつ減らしたか」より、住民が必要なサービスへ到達できるかが重要になる
合併で組織は確かにスリムになった
人員と組織の重複を減らすという目的では、合併の効果が数字に表れています。
関市は2005年2月、旧関市と洞戸村、板取村、武芸川町、武儀町、上之保村の1市2町3村が合併して誕生しました。ごみ処理、消防、介護認定などは合併前から広域で処理しており、日常生活にも一定のつながりがありました。
合併後の主な変化は次の通りです。
- 普通会計の職員数:合併前779人から2024年度634人へ145人減
- 議員定数:合併直後の29人から2023年以降22人へ減少
- 首長などの特別職:旧自治体ごとの体制を一本化
- 行政事務:組織、システム、窓口サービスの基準を統合
財政面でも、2023年度末の基金残高は約388億6,000万円となり、地方債残高は減少傾向をたどりました。実質公債費比率は2023年度に2.0%で、報告書が示す類似団体平均6.7%を下回っています。
ただし、これを合併だけの成果とみなすのは早計です。基金には地域振興基金の造成や、近年40億円を超えて推移したふるさと納税寄付額も影響しています。合併特例債も19年間で337億7,890万円発行されました。
国の支援を受けて施設や道路を整備できた期間と、支援終了後に自前で維持する期間は分けて見る必要があります。
生活圏で見ると、効率化の別の顔が見える
市役所の帳簿でコストが下がっても、住民の移動時間や民間事業者の負担が増えれば、地域全体の費用が減ったとは限りません。
関市は旧町村地域に地域事務所を残し、証明書などの窓口業務、担当課への取り次ぎ、道路や上下水道の維持管理に対応しています。旧役場をすべてなくすのではなく、身近な行政拠点として残した形です。
それでも市の報告書は、本庁舎、主要な公共施設、公共交通が人口の多い中心部へ集中していると認めています。旧武儀郡地域では、少子化や利用者減少を背景に施設の統廃合も進みました。
訪問介護では「移動」が採算を左右する
見落としやすいのが、民間事業者に移った負担です。
周辺地域の訪問介護では、利用者宅までの移動時間が長く、利用者数も減っています。1件のサービスに必要な移動距離が延びれば、同じ時間に訪問できる人数は少なくなります。報告書は、採算悪化による事業者の撤退や縮小が進み、必要な介護を十分に受けにくい状況があると指摘しました。
この問題は「旧自治体を残せば解決した」と単純化できません。市は、より根本的な原因として急激な人口減少と高齢化を挙げています。一方、市域が広くなったことも移動負担へ影響したとしています。
つまり、合併と人口減少が重なった結果です。責任をどちらか一方へ押しつけるのではなく、広い地域にサービスを届ける費用を誰が負担するかが問われています。
ここがポイント: 行政の効率化は、市役所の職員数や施設数だけでは測れません。住民、介護事業者、交通事業者が負担する移動時間まで含めて検証する必要があります。
市平均79%の「住みよさ」に隠れた地域差
市全体の平均値が改善しても、周辺地域の不便さは見えなくなることがあります。
関市が16歳以上の市民3,000人を対象に毎年行っているアンケートでは、「住みよい」「どちらかといえば住みよい」と答えた割合が、2014年度の72%から2024年度には79%へ上昇しました。
一方、板取地区では2024年度に「住みにくい」「どちらかといえば住みにくい」とした人が約6割を占めます。市全体の結果とは逆方向です。
背景には、地域ごとに異なる人口構造があります。
- 関市全体の人口:合併時の9万4,911人から2025年2月の8万3,770人へ12%減
- 板取地区と上之保地区:20年間で人口が約半分に減少
- 高齢化率:市全体で30%、板取地区で60%、上之保地区で50%超
人口が減れば、商店、交通、介護、地域活動の担い手も少なくなります。施設を維持する1人当たりの負担は増え、サービスを集約すれば住民の移動距離が延びる。この板挟みが、合併後20年の生活圏に表れています。
市民の受け止めも一色ではありません。「今後も住み続けたい」と答えた割合は2022年度に82%で、武儀地区では87%でした。その一方、関市への誇りや愛着を感じる割合は、2014年度の65%から2024年度の63%へわずかに低下しています。
暮らしへの満足、定住意向、地域への愛着は同じ指標ではありません。どれか一つだけで合併を成功とも失敗とも判定できない理由です。
国・市・民間・住民は何を担うのか
広域化した自治体では、サービスを残す主体と費用を負担する主体を曖昧にしないことが重要です。
役割を整理すると、次のようになります。
- 国:地方交付税や合併特例債などで移行を支援し、広い市域や低い人口密度による需要を財政算定へ反映する
- 市:地域事務所、交通、福祉、公共施設の配置を決め、地域別の利用状況と到達時間を公開する
- 民間事業者:介護、交通、買い物などを担うが、採算が成り立たなければ撤退する可能性がある
- 住民:アンケートや地域協議の場で、残すべき機能と許容できる負担を具体的に示す
2018年の国会答弁では、全国の合併自治体で1999年度から2014年度までに職員が約10万2,000人減ったと説明されています。その一方、旧市町村地域の振興、公共施設の統廃合、住民の声を行政へ反映する仕組みが課題として挙げられました。
現在、国土交通省も、交通、買い物、医療・福祉・介護、教育を行政区域だけで考えない「地域生活圏」を推進しています。合併した市の境界内ですべてを完結させるのではなく、民間や隣接自治体ともつなぐ考え方です。
次に見るべきは「サービスまで何分か」
今後の分岐点は、自治体が削減額だけでなく、地域別の到達しやすさを政策目標にできるかです。
関市では公共施設の老朽化が進み、人口と税収が減るなかで、すべての施設を従来どおり維持することは難しくなっています。統廃合を避けるだけでは解決しません。
次の検証では、少なくとも以下の情報が重要になります。
- 各地区から窓口、医療、介護、買い物拠点までの所要時間
- 車を運転できない人が利用できる交通手段と運行頻度
- 訪問サービス1件当たりの移動時間と事業者の提供可能件数
- 地域事務所で完結できる手続きと、本庁へ行く必要がある手続き
- 施設再編後に増える住民負担と、それを補う移動支援の費用
合併で145人の職員を減らせたことは明確な成果です。次の20年で問われるのは、その数字を維持することではありません。板取や上之保を含む各地区で、車を使えない住民が必要なサービスへ何分でたどり着けるのか。そこまで測って初めて、暮らしにとっての行政効率が見えてきます。
