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有休取得率66.9%でも残る壁――「年5日」で止まる職場を変えるには

休暇中の空席をチームで補う日本の職場を表したイメージ。

有休取得率66.9%でも残る壁――「年5日」で止まる職場を変えるには

日本の年次有給休暇の取得率は過去最高の66.9%まで上がりました。それでも、付与された休暇を十分に使い切れない人は少なくありません。

理由は明快です。年5日の取得義務は最低限の法令順守を促す制度であり、残りの日数を取りやすくする人員配置や業務設計まで保証するものではないからです。

この記事の要点は次の4つです。

  • 2024年の年休取得率は66.9%、平均取得日数は12.1日で、いずれも過去最高
  • 年5日の取得義務は、年10日以上の年休を付与される労働者が対象となる最低ライン
  • 休めない主因は、仕事量、代替要員の不在、同僚への遠慮など職場側の事情
  • 取得率をさらに上げるには、申請の奨励より「誰かが休んでも回る仕事」への変更が必要
目次

過去最高でも「取り切れた」とは言えない

取得率の改善と、休みたい日に十分休めることは別の問題です。

厚生労働省が2025年12月に公表した「令和7年就労条件総合調査」によると、2024年に企業が付与した年次有給休暇は労働者1人平均18.1日でした。平均取得日数は12.1日、取得率は66.9%です。取得日数と取得率は、比較可能な1984年以降で最高となりました。

一方、単純に平均値を比べると、付与日数と取得日数の間には6.0日の開きがあります。繰越分を含む取得などがあるため、この差をそのまま「失効した日数」とは扱えませんが、全国平均でも付与分の約3分の1に相当する余地が残っていることは確かです。

企業規模別の取得率は次の通りです。

  • 1,000人以上:69.0%
  • 300~999人:66.8%
  • 100~299人:65.5%
  • 30~99人:64.9%

規模による差は以前より縮まっているものの、大企業ほど取得率が高い傾向は残っています。調査対象が常用労働者30人以上の民営企業である点にも注意が必要です。小規模な事業所を含むすべての働き手の実態を、そのまま表す数字ではありません。

業種による差はさらに大きい

2025年調査では、取得率が最も高かった「電気・ガス・熱供給・水道業」は75.2%でした。これに対し、「宿泊業、飲食サービス業」は50.7%にとどまっています。

この差を、働く人の意識だけで説明するのは無理があります。宿泊施設や飲食店では、営業時間中に一定人数を置く必要があり、繁忙期には来客が集中します。少人数の現場で1人が休めば、同僚の勤務変更や残業に直結しやすいからです。

有休を申請できる制度があっても、代わりに業務を担う人がいなければ使いにくい。数字が映しているのは、休暇への姿勢だけでなく、各業種の人員配置と仕事の組み方です。

「年5日」の義務が解決する範囲

法律が確実にしたのは最初の5日であり、有休の完全取得ではありません。

2019年4月以降、使用者は、年10日以上の年次有給休暇を付与される労働者に対し、付与日から1年以内に5日を取得させる必要があります。正社員だけでなく、条件を満たすパートタイム労働者、有期雇用労働者、管理監督者も対象です。

5日は、次のいずれかで取得した日数を合算します。

  • 労働者が自ら請求して取得した日
  • 使用者が本人の意見を聴いたうえで時季を指定した日
  • 労使協定に基づく計画的付与で取得した日

すでに本人が5日を取得していれば、使用者が追加で時季指定する必要はありません。逆に取得が5日に届かなければ、使用者側が不足分の日を指定して休ませなければなりません。

ここで起きやすい誤解が、「5日取らせれば会社の対応は完了」という受け止めです。法令上の義務への対応としては一つの区切りでも、労働者が持つ年休はそれで尽きません。勤続6年6か月以上の通常の労働者には、原則として年20日が付与されます。

ここがポイント: 年5日は取得の上限でも標準でもなく、使用者が必ず確保すべき最低日数です。6日目以降を使えるかどうかは、職場の人員、業務の共有、申請のしやすさに大きく左右されます。

時間単位年休も「義務の5日」には数えられない

通院や子どもの送迎、行政手続きなどでは、1日休むより数時間だけ離席できる方が便利です。労使協定があれば、年5日分まで時間単位で年休を取得できます。

ただし、時間単位で取得した分は、使用者が確実に取得させるべき5日から差し引けません。生活上の使いやすさを高める制度と、まとまった休息を最低限確保する義務は、別に設計されているためです。

また、会社が労働者に対し、日単位の申請を時間単位へ一方的に変えるよう強制することもできません。

なぜ休暇を残すのか――申請より前にある3つの壁

取り残しの中心にあるのは、本人の計画不足ではなく、休んだ後に仕事がどうなるかという不安です。

厚生労働省の2024年度意識調査では、希望どおりの日数の年休を取得できなかった人が挙げた理由の上位は、次の通りでした。

  • 仕事量が多過ぎて、休んでいる余裕がなかった:48.4%
  • 休みの間に仕事を引き継ぐ人がいなかった:35.3%
  • 休むと職場の他の人に迷惑になると考えた:32.5%
  • 上司がよい顔をしない様子だった:17.1%
  • 取得予定と仕事の都合が合わなかった:15.9%

この結果からは、申請フォームを簡単にするだけでは越えられない壁が見えます。

1. 仕事が減らず、休み明けに戻ってくる

担当者が休んでも締め切りや顧客対応が動かなければ、仕事は休みの前後へ寄ります。1日休んだ代わりに前日と翌日の残業が増えるなら、労働者は取得をためらいます。

必要なのは「休んでよい」という声かけだけではありません。締め切りの調整、案件数の上限、繁忙期の応援要員など、休暇を前提に仕事量を組み直すことです。

2. 業務が特定の人に集中している

顧客との経緯、ファイルの保存場所、判断の基準を担当者しか知らない職場では、休暇が業務停止につながります。その状態で同僚に引き継ぎを頼めば、「迷惑をかける」という感覚も強まります。

属人化は、有休だけの問題ではありません。急病、介護、退職、災害時にも同じ弱点が表れます。手順書の整備、案件情報の共有、副担当の設定は、休暇促進と事業継続の両方に効きます。

3. 病気や家族の事情に備えて残す

年休には休養や余暇だけでなく、急な通院、子どもの発熱、家族の介護に備える「予備日」の役割もあります。有給の病気休暇や看護・介護に使える休暇が十分でなければ、元気なうちに年休を使い切る判断は難しくなります。

そのため、未取得日があることをすべて職場風土の問題とみなすのも正確ではありません。本人が将来の必要に備えて意図的に残す場合と、本当は休みたいのに休めない場合を分けて見る必要があります。

取得率だけでは見落とすもの

平均取得率は全体の前進を示しますが、休暇の質や職場内の偏りまでは示しません。

同じ取得率でも、実態は大きく異なり得ます。

  • 多くの従業員が希望日に休めている職場
  • 年末に未取得者へ一斉取得させ、5日だけ達成する職場
  • 一部の人は使い切る一方、代替の利かない担当者がほとんど休めない職場
  • 夏季休暇の代わりに年休を計画付与し、自由に選べる日が少ない職場

計画的付与は、労使協定を結び、年休のうち本人が自由に使える5日を残した範囲で取得日を割り振る仕組みです。閑散期に連続休暇を置くなど、全員が休みやすくなる使い方には効果があります。

一方で、会社の休日だった日を年休日へ置き換えるような感覚が強いと、労働者は「休みが増えた」と感じにくくなります。制度の評価には、取得率に加えて次の点も必要です。

  • 本人が希望した時季に取れたか
  • 連続して休めたか
  • 休暇中に連絡対応を求められなかったか
  • 休暇の前後に過大な仕事が集中しなかったか
  • 部署、雇用形態、役職による取得格差がないか

職場が変えるべき順番

有休を取り切れる職場への近道は、取得を呼びかける前に不在時の運営方法を決めることです。

厚生労働省が紹介する取得促進企業の例では、週ごとのミーティングなどで進捗を上司だけでなく同僚も把握し、仕事を個人ではなくチームで進めています。担当者が休んでも、残った人が状況を確認できる形です。

実務では、次の順序が現実的です。

業務と取得状況を見えるようにする

まず、年休の残日数だけでなく、誰が休むと何の業務が止まるかを洗い出します。申請が少ない人へ取得を迫る前に、その人が抱えている案件と代替可能性を確認します。

休む人の代わりを当日探さない

主要業務には副担当を置き、共有フォルダ、顧客対応履歴、判断基準を日常的に更新します。引き継ぎを休暇直前の特別作業にしないことが重要です。

年間計画に休暇を先に入れる

基準日に年間の取得予定を置き、繁忙期や締め切りと早めに調整します。ただし、予定日は固定し過ぎず、本人の事情に応じて変更できる余地を残します。

管理職の評価項目を変える

「部下に申請を促したか」だけでなく、休暇中に業務が滞らなかったか、特定の人へ負担が偏らなかったかを見るべきです。取得率を上げる責任を労働者側だけに置かないためです。

働く側が確認しておきたいこと

制度を知ることは、休めない構造を一人で解決するものではありませんが、不適切な運用に気づく手掛かりになります。

年休は、原則として労働者が請求した時季に与えるものです。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に別の時季へ変更する権限がありますが、単に「忙しい」「人が少ない」と言えば常に変更できるわけではなく、個別具体的な判断が必要です。

確認したい点は次の通りです。

  • 自分の年休の基準日、付与日数、残日数
  • 会社が定める申請手続きと期限
  • 計画的付与や時間単位年休の有無
  • 申請を断られた場合の理由と代替日の提示
  • 年5日に満たない場合、会社がいつ取得させる予定か

取得を繰り返し妨げられる、理由を尋ねられて申請しにくい、5日の取得さえ確保されないといった場合は、記録を残したうえで会社の人事・労務担当、労働組合、都道府県労働局などへ相談する選択肢があります。

次に見るべきは「6日目以降」の実態

年休取得率66.9%は、日本の職場が前進したことを示す数字です。しかし、政府が掲げてきた70%という水準にもまだ届かず、業種間の差も大きく残っています。

今後、企業や行政が確認すべきなのは、5日の達成率だけではありません。

  • 6日目以降の取得が止まっていないか
  • 希望日数と実際の取得日数にどれだけ差があるか
  • 取得の少ない部署で、仕事量や属人化が放置されていないか
  • 病気や家族対応のために年休を温存せざるを得ない人がいないか

有休を取り切れない問題は、「もっと積極的に申請しよう」という個人への呼びかけでは解けません。次の一歩は、休む人を増やすことではなく、誰かが休んでも仕事が回る状態を通常運転にすることです。

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