MENU

オランダ、住宅不足に2035年まで70億ユーロ 「建てる予算」だけでは解けない三つの壁|2026年9月17日版

建設が進むオランダの集合住宅と周辺インフラ。

オランダ、住宅不足に2035年まで7​​0億ユーロ 「建てる予算」だけでは解けない三つの壁|2026年9月17日版

オランダ政府は、深刻な住宅不足に対応するため、2035年までに70億ユーロを投じる住宅建設パッケージを発表しました。自治体への建設奨励金だけでなく、高齢者向け住宅、学生らが設備を共有する住まい、中間所得層向け賃貸住宅まで対象に含めます。

ただし、資金を用意すれば直ちに住宅が増えるわけではありません。許認可にかかる時間、送電網や水道の容量、建設用地の確保が、実際の供給を左右します。

  • 2035年までの住宅政策に70億ユーロを投入
  • 手頃な住宅1戸につき自治体へ7,000ユーロを支給
  • 高齢者、学生、初めて住宅を買う人への支援を拡充
  • 許認可やインフラ不足を解消できるかが成否の分かれ目
目次

70億ユーロは何に使われるのか

今回の政策は、単一の巨大団地を造る計画ではありません。中央政府、自治体、住宅協会、民間投資家がそれぞれ動けるよう、複数の資金枠を組み合わせています。

オランダ政府の発表による主な配分は次の通りです。

  • 23億ユーロ:手頃な住宅を完成させた自治体への奨励金。1戸当たり7,000ユーロ
  • 9億4,000万ユーロ:大規模な住宅開発地区の整備
  • 6億5,000万ユーロ:採算が取りにくい建設計画を前進させる住宅建設支援
  • 2億500万ユーロ:建設手法の革新、規模拡大、既存建物の活用
  • 1億8,000万ユーロ:自治体による早期の用地取得

注目すべきは、政府が自治体に「計画を作ること」ではなく、手頃な住宅を実際に供給することへの金銭的な動機を設けた点です。土地の購入や不採算部分にも公費を入れ、着工前に止まりやすい案件を動かそうとしています。

不足は38万4,000戸、若者だけの問題ではない

政府系住宅情報サイトの2026年推計では、オランダの住宅需要は42万7,000戸。これに対して、長期間空いていて入居可能とされる住宅は4万3,000戸で、統計上の不足は約38万4,000戸に達します。

不足率は住宅総数の4.6%です。需給が安定するとされる約2%まで下げるだけでも、さらに21万3,000戸が必要になります。

影響を受けるのは、初めて独立する若者だけではありません。

高齢者が移りやすい住宅を増やす

政府は高齢者向け住宅に6億3,500万ユーロを追加します。既存枠の4億2,000万ユーロと合わせ、介護に対応できる住宅や、高齢者がまとまって暮らせる住宅の供給を促します。

高齢者が家族向けの広い住宅から適切な住まいへ移れば、その住宅に子育て世帯が入れる可能性があります。つまり、新築戸数だけでなく、既存住宅の住み替えを連鎖させる政策でもあります。

学生向けには「共有型」を支援

学生などを念頭に、浴室やキッチンを共有する住宅への補助も拡充されます。政府はこの枠に4億5,000万ユーロを充て、自治体には1戸当たり最大9,000ユーロを支給します。

全戸を独立型の住居として建てるより、限られた建物や土地を効率よく使えるのが利点です。一方で、共有設備の管理や居住環境の質をどう保つかは、自治体や運営者に残る課題です。

中間所得層と初回購入者も対象

社会住宅の入居要件を超える一方、市場価格の住宅には手が届きにくい世帯も支援対象です。

  • 中間所得層向け賃貸住宅への補助に5億ユーロ
  • 初回購入者向け基金に1億ユーロを追加
  • 民間投資家の不動産取得税を2027年に8%から7%へ引き下げ
  • 住宅協会同士が社会住宅を譲渡する場合の取得税を撤廃

住宅協会には、税制などの措置を通じて約280億ユーロの追加投資余力が生まれると政府は説明しています。ただし、これは政府が同額を直接支出するという意味ではなく、住宅協会が将来にわたって投資できる財務余力の試算です。

ここがポイント: 70億ユーロは建物だけに使う資金ではありません。自治体の土地取得、採算不足の穴埋め、住み替え、民間資金の呼び込みを組み合わせ、住宅が完成するまでの流れ全体を動かす設計です。

最大の障害は「予算の外側」にある

政策の規模は大きいものの、建設を遅らせる要因のすべてを資金だけで解決できるわけではありません。

計画から完成までが長い

EU理事会のオランダへの政策勧告は、同国の計画・許認可手続きに平均6~7年を要する場合があると指摘しました。補助金の交付が決まっても、用途変更や環境審査、住民との調整が進まなければ住宅は完成しません。

政府は2026年秋、住宅建設を速める50項目の行動計画を示す方針です。今後は、手続きの短縮が住環境や住民参加を損なわない形で実行されるかが焦点になります。

電気、水、交通が住宅建設を制限する

9月15日の国王演説では、新たな大規模住宅開発地を選ぶ際、送電網への接続、飲料水、交通などの条件を考慮する必要が示されました。

家を建てる土地があっても、電力網が新規接続を受け入れられなければ入居にはつながりません。道路や公共交通を後から整備すれば、事業費と工期も膨らみます。政府が既存インフラを活用できる場所を優先するのは、このためです。

住宅協会の余力には地域差がある

住宅協会は、オランダの社会賃貸住宅を支える中心的な存在です。しかし、政府が6月に公表した財務分析では、投資資金が協会や地域ごとに偏っていることが課題とされました。

全国合計で投資余力が増えても、住宅不足が深刻な地域の協会に十分な資金がなければ建設は進みません。協会間で資金を融通する仕組みも想定されていますが、必要な再配分の規模が大きく、政府自身が実行面への懸念を認めています。

日本から見ると「完成時に払う支援」が重要

日本でも、人口が増える都市部では住宅価格が上がる一方、地方では空き家が増えるという地域差があります。オランダの施策をそのまま移せるわけではありませんが、自治体の行動を完成戸数に結び付けた点は参考になります。

特に確認したいのは次の三つです。

  • 補助金が計画件数ではなく、実際の完成と入居に結び付いているか
  • 住宅政策と送電網、水道、公共交通への投資を同時に進めているか
  • 高齢者、学生、中間所得層など、必要な住宅の種類を分けて支援しているか

戸数だけを目標にすると、必要な場所に必要な住まいができない恐れがあります。反対に、対象を細かくしすぎれば手続きが複雑になり、建設が遅れます。オランダの政策は、その両方を避けられるかが試されます。

今後の注目点

今回の発表は資金面の大枠です。成果を判断するには、予算額より次の数字を見る必要があります。

  1. 自治体への奨励金で何戸の手頃な住宅が完成したか
  2. 計画・許認可に要する期間が6~7年からどこまで短くなったか
  3. 高齢者向け住宅の増加が、家族向け住宅の住み替えにつながったか

最初の分岐点は、2026年秋に示される50項目の建設加速策です。 70億ユーロを確保した後、土地、許認可、電力、水道という現場の詰まりをどこまで解消できるか。そこが、38万4,000戸という不足を実際に縮められるかどうかを決めます。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次