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「今の仕事」に値段が付く時代へ――職務給で転職・昇進・給料はどう変わる?

職務内容と能力評価を確認しながらキャリアを考える会社員。

「今の仕事」に値段が付く時代へ――職務給で転職・昇進・給料はどう変わる?

職務給と職能給の最大の違いは、給与を「担当している仕事」で決めるか、「本人が持つ能力」で決めるかにあります。

職務給では、難易度や責任が大きいポストへ移ることが昇給につながります。職能給では、同じ仕事を続けていても、経験を積み、社内で能力等級が上がれば昇給できます。この違いは、転職時に評価されるものや、社内で昇進を目指す方法まで変えます。

この記事で押さえたい要点は次の4つです。

  • 職務給は「何ができる人か」ではなく「現在どの仕事を担うか」を重視する
  • 職能給では、異動を通じた育成や長期的な能力向上を給与に反映しやすい
  • 職務給が強まると、転職では年齢や社歴より職務経験を説明する力が重要になる
  • 日本企業では、どちらか一方へ全面移行するより、職務給・職能給・役割給などを組み合わせるケースが現実的
目次

職務給と職能給は、給料を決める「主語」が違う

職務給は仕事に、職能給は人に賃金を結び付ける仕組みです。

厚生労働省は職務給を、従業員の能力や特徴ではなく、仕事内容や役割の重要さに基づいて給与を決める制度と説明しています。一方の職能給は、職務を遂行するために本人が持っている能力を基準に基本給を決めます。

職務給:担当ポストが変われば給与も動く

職務給では、企業が仕事の内容、責任、難易度、必要な知識などを整理し、それぞれの職務に等級や賃金水準を設定します。

例えば、同じ人事部門でも、定型的な手続きを担う職務と、全社の人事制度を設計する職務では、責任や判断の範囲が異なります。後者の職務等級が高く設定されていれば、そのポストに就く人の給与も高くなる仕組みです。

重要なのは、「優秀だから自動的に上がる」とは限らない点です。能力を伸ばしても、現在の職務が変わらなければ基本給が上がりにくい制度もあります。厚生労働省の手引きも、経験年数を完全に考慮しない場合、より高い賃金を得るには上位の職務へ挑戦する必要があると指摘しています。

職能給:能力等級が上がれば、ポストがなくても昇格できる

職能給では、知識、技能、経験、判断力などを基に本人を等級へ格付けします。同じ部署や役職にいても、評価によって能力等級が上がれば昇給する余地があります。

この仕組みは、会社が従業員を複数の部署へ配置し、幅広い業務を経験させる日本型の人材育成と相性がよいものです。厚生労働省が示す長所には、職種をまたぐ異動のしやすさ、多能工化を促せること、昇進と昇格を分けて運用できることが挙げられています。

ただし、能力の定義が曖昧なら、「なぜ自分より担当業務の軽い人の給与が高いのか」という不満につながります。過去の経験をどこまで現在の処遇へ反映するかも、企業ごとに差が出ます。

日本の給与は、すでに複数の物差しで決まっている

現実の賃金制度は、職務給か職能給かの二者択一ではありません。

労働政策研究・研修機構(JILPT)が企業を対象に行った調査では、2022年末時点で非管理職の月例賃金に職能給を取り入れている企業は57.8%、職務給は43.9%でした。年齢・勤続給も52.7%、役割・職責給も38.7%あり、複数回答の結果から、企業がいくつもの基準を併用している実態が分かります。

管理職では事情が少し変わります。最も多かったのは役割・職責給の67.5%で、職能給は53.3%、職務給は45.3%でした。管理職になるほど、本人の潜在能力だけでなく、部門を率いる責任や任された役割が給与へ強く反映されているのです。

ここがポイント: 「職務給を導入した会社では、勤続年数が一切評価されない」とは限りません。基本給の一部を職務給、別の部分を職能給や役割給とする設計もあります。制度名ではなく、給与の何割が何を基準に動くのかを見る必要があります。

JILPTの調査では、今後3年程度で職務給の比重を「以前より高める」とした企業は、非管理職で18.2%、管理職で19.2%でした。一方、職能給の比重を高める企業もそれぞれ26.1%、24.3%あります。

つまり、仕事基準への転換が進むとしても、能力基準が消えていくわけではありません。企業は、専門人材の採用には職務給、若手の育成や柔軟な配置には職能給、管理職には役割・職責給というように、対象を分けて使おうとしています。

転職では「社内評価」より職務の再現性が問われる

職務給が広がるほど、転職者は肩書ではなく、担当した仕事の中身を説明する必要があります。

職能給の色が強い会社では、勤続中に蓄積した知識や社内での信頼が能力等級へ反映されます。しかし、その等級は会社独自の基準です。「主任3級」「主査」といった肩書だけでは、別の会社が同じ価値を認めるとは限りません。

職務給を採る企業の中途採用では、求人側が求める職務と、応募者が経験した職務がどこまで一致するかが焦点になります。応募者が整理しておきたいのは、次のような情報です。

  • 担当業務の範囲と、自分が最終判断できた範囲
  • 管理した予算、人数、案件規模
  • 使用した技術、資格、業界知識
  • どの課題を、どの手順で解決したか
  • 成果のうち、自分の判断や行動で再現できる部分

例えば「営業部の課長だった」だけでは、既存顧客の管理が中心だったのか、新市場の開拓や価格決定まで担ったのかが分かりません。職務給の採用では、後者の具体性が給与水準を左右します。

転職しやすくなる人、慎重さが必要な人

専門性が明確で、他社でも使える経験を持つ人にとっては、職務給が追い風になります。社内の昇格順を待たず、市場でより高く評価されるポストへ応募できるためです。

一方、社内調整、人脈、幅広い補助業務など、価値を数値や職務記述へ落とし込みにくい仕事では注意が必要です。実際には組織を動かす重要な働きであっても、職務評価の設計が粗ければ処遇に反映されない恐れがあります。

また、「ジョブ型」「職務給」と書かれた求人でも、採用後の異動範囲や評価方法が明確とは限りません。応募時には、少なくとも次の点を確認したいところです。

  • 職務記述書にない業務を命じられる範囲
  • 職務等級を見直す時期と手続き
  • 同じ職務内で昇給する仕組みの有無
  • 組織改編でポストがなくなった場合の扱い
  • 上位職務へ応募する社内公募制度の有無

昇進は「年次を待つ」から「上位の仕事を取る」へ変わる

職務給の下では、昇進と昇給が上位ポストへの就任に直結しやすくなります。

職能給では、管理職ポストが空いていなくても能力等級を上げ、給与を引き上げる運用ができます。会社は将来の配置を見越して人を育てやすく、従業員も長期的な能力向上を評価してもらえます。

職務給では、現在のポストが要求する役割を超えた能力を身に付けても、それだけで賃金が上がるとは限りません。上位の職務へ移る、専門職としてより難しい仕事を担う、管理職になるといった具体的な変化が必要になります。

この違いは、日々のキャリア行動も変えます。

職能給で評価されやすい行動

  • 担当外も含めて幅広い業務を経験する
  • 社内固有の手順や製品知識を身に付ける
  • 異動に対応できる総合的な能力を伸ばす
  • 上司の評価を通じて能力等級を上げる

職務給で評価されやすい行動

  • 目指すポストの要件を確認する
  • 不足する経験や資格を逆算して習得する
  • 社内公募や中途採用で上位職務へ応募する
  • 担当職務の市場相場を継続的に調べる

ただし、職務給なら評価が自動的に公平になるわけではありません。どの仕事を高く評価するかを決めるのは企業です。管理職や売上部門だけが高く評価され、バックオフィス、現場の調整、後進育成などが過小評価されれば、別の不公平が生まれます。

給料が下がる可能性はあるのか

職務が下位の等級へ変われば賃金も下がり得ますが、企業が自由に減額できるわけではありません。

職務給では、担当する仕事と賃金の対応が強いため、組織改編や役割変更によって職務等級が下がる場面が問題になります。能力を基準にする職能給では、保有能力が低下しない限り基本給を下げにくい点と対照的です。

一方、賃金は重要な労働条件です。中央労働委員会の労使関係セミナー資料では、職務や役割の変更に伴って等級を引き下げ、基本給を減額するには、労働者の同意や、就業規則上の合理的な規定が基本的に必要と整理されています。

従業員にとって確認すべきなのは、単に「職務給を導入する」という説明ではありません。

  • 現在の職務を誰が、どんな基準で評価するのか
  • 制度移行時に給与を維持する経過措置があるか
  • 異動により等級が下がる条件は何か
  • 評価結果への異議申立てができるか
  • 育児、介護、病気などによる一時的な職務変更をどう扱うか

企業側にも難題があります。職務を細かく固定しすぎると、繁忙部署への応援や若手の育成が難しくなります。反対に、「関連業務全般」と広く書けば、仕事と給与を対応させる職務給の利点が薄れます。

厚生労働省の資料が、一部専門職だけに職務給を導入する方法や、職務給と職能給を組み合わせる方法を示しているのは、この両立が簡単ではないからです。

働く人の受け止めが分かれる理由

歓迎と不安の分かれ目は、評価基準が見えるか、本人に職務を選ぶ機会があるかです。

職務と給与の関係が明確になることには、「成果や責任に見合う給料を得やすい」「専門性を生かして転職しやすい」という期待があります。厚生労働省が紹介する導入企業でも、求める役割・職務の要件が明確になることや、仕事に応じた賃金を支払えることがメリットとして挙げられています。

その一方で、働く側から見れば、ポスト変更による減給、経験を積んでも職務が変わらなければ昇給しないこと、会社が一方的に職務価値を決めることへの不安が残ります。制度への賛否というより、運用の透明性を求める受け止めが中心になるのは自然です。

納得感を左右する条件は絞れます。

  • 職務等級と賃金レンジが従業員に公開されている
  • 上位職務へ応募でき、選考理由も説明される
  • 評価者による差を点検する仕組みがある
  • 職務変更と減給のルールが導入前に示される
  • 研修や実務経験を得る機会が一部の社員に偏らない

仕事の価値を明確にしても、その仕事へ挑戦する入口が閉じていれば、賃金制度は人材育成ではなく固定化の道具になってしまいます。

次に見るべきは「制度名」ではなく運用ルール

転職者も在職者も、職務給か職能給かという看板だけで待遇を判断しないことが大切です。

日本企業の給与は、職務、能力、役割、成果、勤続年数を組み合わせて決められています。同じ「職務給導入企業」でも、専門職だけが対象なのか、基本給の一部だけなのか、全社員の等級制度を変えるのかで影響は大きく異なります。

今後の注目点は次の3つです。

  • 求人票や職務記述書で、責任範囲と賃金レンジがどこまで具体化されるか
  • 上位職務への社内公募、研修、異議申立てが制度として整うか
  • 組織改編や家庭事情で職務が変わったとき、賃金をどう扱うか

職務給が転職と昇進を変えるのは、年功という物差しを仕事の価値へ置き換えるからだけではありません。従業員自身が、次に担う仕事を選び、その要件を満たすために動くことを求めるからです。次の給与明細を見る前に確認すべきなのは、制度の名称ではなく、自分の職務等級が何によって上がり、どんな場合に下がるのかです。

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