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ホバートが住宅地の新規民泊を止める理由、観光都市の家不足対策|2026年6月15日版

ホバートが住宅地の新規民泊を止める理由、観光都市の家不足対策|2026年6月15日版

オーストラリア・タスマニア州の州都ホバートで、住宅地にある一戸まるごとの新規短期貸しを原則止める計画が動き出しました。狙いは観光客向けの宿をすべて消すことではなく、住民が長く借りて暮らす家が短期滞在用に流れ続けるのを止めることです。

市の計画当局は6月10日の会合で、住宅系ゾーンに新しい「whole-dwelling visitor accommodation」を認めない方向の都市計画変更案を進めることを全会一致で決めたと現地紙が報じています。実現すれば、観光都市が住宅不足にどう向き合うかを示す、かなり踏み込んだ地方行政の実験になります。

  • 対象は主に、住宅地の「一戸まるごと」短期貸し
  • 商業地、中心業務地区、混合用途地区などは対象外
  • Battery Point は既に別の規制区域があるため今回案の対象外
  • 今後は28日間の公示、報告書作成、タスマニア計画委員会での審査や公聴会が予定される
目次

何が変わるのか

ポイントは、民泊そのものの禁止ではなく、住宅地で新たに家を丸ごと短期滞在施設へ転用する道を閉じることです。

現地報道によると、ホバート市の計画当局が進める案は「Hobart Visitor Accommodation Specific Area Plan」という区域計画を導入し、次の住宅系ゾーンで新規の一戸まるごと型短期貸しを認めない内容です。

  • inner residential
  • general residential
  • low-density residential

一方で、商業地や中心業務地区、都市型の混合用途地区などは対象外です。つまり、市は観光客向けの宿泊需要を否定しているのではなく、「住むための住宅地」と「泊まるためのエリア」を分け直そうとしています。

市の公式ページでも、ホバートでは短期滞在用の宿泊を「visitor accommodation」と呼び、Airbnb や Stayz などで予約される短期滞在を含むと説明しています。また、市は短期滞在用物件に対して差別的な料金設定を採用しているとも明記しています。

ここがポイント: ホバートの案は、既存の短期貸しを一斉に消す政策ではありません。住宅地でこれ以上「住む家」が「泊まる商品」に変わるのを抑える政策です。

なぜここまで踏み込むのか

背景にあるのは、ホバートの賃貸市場の薄さです。

現地紙の報道では、ホバートの短期滞在物件は民間賃貸市場の約9%に相当するとされています。これはシドニーの約4倍、メルボルンの約2倍という水準です。同時に、ホバートの賃貸空室率は0.5%から0.7%程度とされ、借り手が物件を選ぶ余地はかなり限られています。

市の報告に基づく現地報道では、最大840戸の一戸まるごと型短期滞在物件があり、その約半数は以前、長期賃貸として使われていた可能性があるとされています。

この数字が意味するのは単純です。観光客が泊まる部屋が増える一方で、地元の看護師、教員、飲食店スタッフ、学生、子育て世帯が借りられる部屋が減る。家賃が上がるだけでなく、働く人が街の近くに住めなくなれば、学校、薬局、郵便局、保育施設といった日常サービスの維持にも跳ね返ります。

料金引き上げだけでは足りないという判断

ホバート市は短期貸しをいきなり都市計画だけで止めようとしているわけではありません。これまでにも、短期滞在物件に対する税・料金面の負担を強めてきました。

現地報道によると、市は短期滞在物件へのレート差を導入しており、さらに2026年4月には物件を短期滞在用へ転用する申請手数料を435豪ドルから5,000豪ドルへ引き上げました。5月には一戸まるごと型短期貸しの固定資産関連負担をさらに重くする案も議論されています。

ただ、料金を上げても、観光需要が強ければ所有者は短期貸しを選び続ける可能性があります。今回の都市計画変更案は、そこで一段進んで「住宅地では新規転用を認めない」という入口規制へ踏み込むものです。

観光業との線引きはどこにあるのか

この政策が難しいのは、ホバートが観光都市でもあることです。タスマニア観光の入口であり、中心部にはホテル、飲食店、ツアー業者、文化施設が集まります。

そのため、市の案は短期滞在を全面禁止する形にはしていません。対象外のエリアを残し、商業地や中心部の宿泊機能は残す設計です。

整理すると、争点は次の3つです。

  • 住宅地で暮らす住民の家をどこまで守るか
  • 観光客を受け入れる宿泊容量をどこで確保するか
  • 既存オーナーの財産権や投資判断をどこまで制限できるか

住宅業界側からは、過度な規制は観光客向けの宿泊供給を減らし、宿泊料金を押し上げ、投資を冷やすという批判も出ています。これは無視できない論点です。短期貸しを減らしても、ホテル建設や既存宿泊施設の受け皿が増えなければ、観光ピーク時の料金上昇につながる可能性があります。

ただし、ホバートの案が注目されるのは、観光と住宅を同じ土俵で競わせたままにしない点です。住宅地の家は住民の生活基盤として扱い、観光宿泊は商業地や適した区域へ寄せる。地方都市としては、かなり明確な線を引いています。

日本から見ると何が参考になるか

日本でも、観光地や都心部では短期貸しと住宅供給の緊張が続いています。京都や大阪、東京の一部地域では、ホテル不足、民泊需要、住民生活、ゴミや騒音、家賃上昇が重なりやすい構図があります。

ホバートの動きから読み取れるのは、「民泊を何日まで認めるか」だけではなく、どの用途地域で、どんなタイプの短期貸しを、どこまで増やしてよいのかを決める必要性です。

特に見るべき点は、次の3つです。

  • 一室貸しと一戸まるごと貸しを同じ扱いにしない
  • 観光需要の高い地区と生活住宅地を分けて設計する
  • 申請手数料や税率だけでなく、都市計画上の入口規制を組み合わせる

日本の制度にそのまま移せるわけではありません。自治体の権限、旅館業法や住宅宿泊事業法、用途地域の運用は国によって違います。それでも、住宅地の家が短期貸しへ流れる速度をどう管理するかという問題は共通しています。

今後の注目点

ホバートの計画はまだ最終決定ではありません。市の会合で動き出した段階であり、今後の公示、住民や業界からの意見、タスマニア計画委員会での審査を経る必要があります。

次に見るべき点は絞れます。

  • 既存の短期貸し物件にどこまで影響が及ぶのか
  • 公示期間で住民、宿泊業、住宅業界がどんな意見を出すのか
  • 住宅地で止めた分の宿泊需要を商業地やホテルが受け止められるのか
  • 長期賃貸に戻る物件が実際に増えるのか

この政策の成否は、条例や区域計画の文言だけでは判断できません。数カ月後、住宅地の新規転用が止まり、長期賃貸の空きが少しでも戻るのか。そこが、観光都市ホバートの実験を見るうえで最も具体的なチェックポイントになります。

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