EUの国際配送バンに運転時間規制、軽商用車にもタコグラフ義務|2026年8月2日版
EUでは2026年7月1日から、国境を越えて荷物を運ぶ一部の小型バンにも、トラックと同様の運転・休憩時間規制が適用されました。対象車両には第2世代スマートタコグラフの搭載も必要です。
ポイントは、街中を走るすべての配送バンが対象になったわけではないこと。最大許容重量が2.5トン超〜3.5トンで、報酬を得て国際貨物輸送または他国での国内輸送を行う車両が中心です。
- 運転は原則1日9時間、週56時間まで
- 4時間30分の運転ごとに45分の休憩が必要
- 運転、休憩、国境通過などをスマートタコグラフで記録
- 長距離ドライバーだけでなく、小型バンを使う越境配送事業者にも影響
7月1日から何が変わったのか
これまでEUの運転・休憩時間規制は、主に3.5トンを超える貨物車を対象としていました。新たに対象へ加わったのが、国際輸送などに使われる2.5トン超〜3.5トンの軽商用車です。
欧州労働機関(ELA)は、この変更を「Light vehicles. Big changes」として周知しています。大型トラックより小回りの利くバンであっても、国境を越えて有償で貨物を運ぶなら、運転時間を管理し、疲労を防ぐルールから外れないという考え方です。
主な基準は次の通りです。
- 1日の運転時間は原則9時間。週2回まで10時間に延長可能
- 1週間の運転時間は最大56時間
- 連続する2週間では最大90時間
- 4時間30分の運転後に合計45分の休憩
- 原則として24時間ごとに11時間の休息
荷物の積み下ろし、車両の清掃・整備、輸送に伴う事務作業などは、運転時間とは別でも労働時間に含まれます。個人事業主であっても、顧客の指示を待ちながら車両のそばにいる時間などが労働時間となる場合があります。
対象になる配送、ならない配送
制度を理解するうえで最も重要なのは、車体の大きさだけで判断しないことです。重量、輸送範囲、業務の性質を組み合わせて対象を確認する必要があります。
対象の中心
- 最大許容重量が2.5トンを超え、3.5トン以下の軽商用車
- EU域内で国境を越える有償の貨物輸送
- 事業者の設立国とは別の国で行うカボタージュ輸送
- 雇用されている運転手だけでなく、条件に該当する自営業の運転手
カボタージュとは、外国の運送事業者が別の国の国内区間で荷物を運ぶことです。たとえば、ある加盟国の事業者が別の加盟国内で集荷と配達を完結させる輸送が該当します。
一律には対象とならない例
EUの案内は、すべての小型バンやすべての業務輸送を新制度の対象とはしていません。
- 2.5トン以下の車両
- 一つの国の中だけで完結する輸送
- 有償の国際貨物輸送に当たらない利用
- 規則で個別に除外される輸送
材料や工具などを運転手自身の仕事に使うため、拠点から100キロ以内で運ぶ一定の車両などには例外があります。ただし、積載物や運行目的によって判断が変わるため、事業者は「バンだから対象外」と決めつけず、各国当局の案内を確認する必要があります。
ここがポイント: 今回の変更は一般の乗用車利用を広く規制するものではなく、小型バンによる有償の越境貨物輸送を、大型車に近い労務・安全管理の枠へ入れるものです。
スマートタコグラフは何を記録するのか
対象車両には、第2世代スマートタコグラフの搭載が求められます。タコグラフは、ドライバーの運転時間、休憩、休息、その他の作業時間などを記録する装置です。
第2世代機は衛星測位システムを利用し、車両位置や国境通過に関する情報も記録できます。路上検査では、当局が記録を使って運転・休憩時間や越境輸送のルールが守られているかを確認します。
この装置には三つの意味があります。
- 安全:長時間運転による疲労と事故の危険を抑える
- 労働条件:無理な配送日程を運転手だけに負わせにくくする
- 公正な競争:休憩を削って速く安く運ぶ事業者が有利になる状況を防ぐ
車両へ機器を取り付けるだけでは対応は終わりません。事業者側には、ドライバーカードの用意、記録データの管理、運行計画の見直し、運転手への操作教育も必要になります。
小型バンの機動力に「休憩を含む計画」が必要に
小型バンは、大型トラックが入りにくい地域や少量貨物の配送で使いやすく、国境をまたぐ機動的な輸送にも向いています。一方、従来は対象重量の違いから、大型車と同じ運転時間管理を受けないケースがありました。
新制度後は、到着予定だけで配送計画を組むことが難しくなります。たとえば4時間30分を超えて運転するなら、途中で45分の休憩を確保しなければなりません。渋滞や国境付近での待ち時間も見込み、休息場所や交代要員まで考える必要があります。
影響が出やすいのは次のような現場です。
- EU加盟国をまたいで小口貨物を運ぶ物流会社
- 他国で短距離配送を請け負う事業者
- 展示会用品、部品、機材などを短納期で運ぶ専門輸送
- 越境ECの中継・地域配送を担う委託先
消費者がすぐに目にする変化は限定的かもしれません。ただ、無理な即日配送や深夜までの連続運転に依存した運行は組みにくくなります。運送会社が所要時間や配車を見直せば、企業向け配送の締め切りや追加料金に波及する可能性があります。
日本企業もEU内の委託先を確認したい
規則の直接の対象はEUの道路輸送ですが、日本企業にも無関係ではありません。EU域内で製品、部品、催事用品などの輸送を委託している場合、現地の運送会社が小型バンを使って国境を越えることがあります。
発注側が確認したいのは、次の3点です。
- 委託先が対象車両と対象運行を正しく判定しているか
- 配送予定に法定の休憩・休息時間が織り込まれているか
- 緊急便や短納期便の条件、料金、到着予定に変更がないか
特に展示会や設備保守では、「翌朝までに国境を越えて届ける」といった時間指定が起こります。従来と同じ距離でも、運転可能時間の上限に達すれば、その場で休憩または休息が必要です。発注時には最短到着時刻だけでなく、どの車両で、どの区間を、何人で運ぶのかまで委託先と確認することが現実的です。
今後の注目点は3つ
制度は始まったばかりです。次に見るべきなのは、規則の存在そのものより、各国の検査と物流現場への定着です。
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国境をまたぐ運行で検査がどう統一されるか
同じEU規則でも、現場での案内や検査体制には国ごとの差が生じる可能性があります。 -
小規模事業者が機器と記録管理へ対応できるか
車両改修だけでなく、運転手の教育やデータ管理を継続しなければなりません。 -
短納期配送の契約が見直されるか
荷主が従来どおりの到着時間を求め続ければ、運転手や運送会社に負担が集中します。
この規制の成否は、タコグラフを搭載した台数だけでは測れません。荷主が休憩込みの納期を認め、運送会社が現実的な運行計画を組み、検査当局が国境を越えて一貫した運用をできるか。そこが次の焦点です。
