協同組合も社会的企業も一本の法律へ──韓国が13年かけて通した社会連帯経済基本法、2027年に動き出す
韓国国会が2026年8月20日の本会議で、社会連帯経済基本法を可決した。出席181人のうち賛成145、反対25、棄権11。最初の法案が提出されたのは2014年4月で、成立までに4,495日かかっている。
これまで韓国では、社会的企業は雇用労働部、協同組合は企画財政部、マウル企業(地域密着型の住民出資企業)は行政安全部、自活企業は保健福祉部と、似た性格の組織が別々の法律と別々の省庁の下に置かれていた。その縦割りを一本の基本法でまとめ直す、というのが今回の中身だ。
施行は公布から6か月後。実際に制度が動き出すのは2027年前半になる。
- 可決日:2026年8月20日(賛成145/反対25/棄権11)
- 対象:社会的企業、協同組合、マウル企業、自活企業、ソーシャルベンチャー、農協・漁協・信用協同組合なども包含
- 中身:大統領直属委員会+5年ごとの基本計画、公共調達での優遇、投資・融資・保証を担う「社会連帯金融」の法的根拠
- 施行:公布から6か月後(2027年前半の見込み)
何が変わるのか──「窓口が違う」を法律でまとめる
一番大きいのは、政策の司令塔ができることだ。
大統領直属委員会と5年計画
法律は大統領直属の社会連帯経済発展委員会を置き、5年ごとの基本計画と年次実行計画をつくると定めた。これまで各省庁がばらばらに組んでいた支援メニューを、一つの計画の下で調整する。ただし社会的企業育成法などの個別法はそのまま残る形で、既存の枠組みを廃止して置き換えるわけではない。
現場に直接効く二つの柱
制度論よりも、事業者の資金繰りと売上に直結するのは次の二つだ。
- 公共調達の優遇:国や自治体の物品・サービス購入で社会連帯経済組織からの調達を拡大し、公共サービスの民間委託でも優先的に扱う
- 社会連帯金融:投資・融資・保証を行う仕組みを法律に位置づけ、国の資金を扱う専門機関と、投融資の実務を担う中間支援機関を置く
韓国の社会的企業・協同組合の多くは、補助金が切れた後の運転資金で詰まってきた。融資・保証を「予算事業」ではなく法定の仕組みとして据えたことが、今回の実務上の分かれ目になる。銀行圏の社会連帯経済向け融資は2026〜2028年で4兆3,000億ウォン規模が見込まれている。
ここがポイント: 新しい補助金を積む法律ではなく、省庁の縦割りを一本化し、調達と金融という出口側を制度化した法律だと読むのが正確です。
なぜ4,495日も止まっていたのか
法案自体は、決して一方の陣営だけのものではなかった。
2014年、第19代国会では与野党142人の議員が共同提案し、当時セヌリ党の劉承旼(ユ・スンミン)氏も名を連ねている。その後も第20代、第21代と提出されたが、いずれも会期満了で自動廃案になった。
止まった理由は複数ある。
- 国の管理が強まり、組織の自律性が損なわれるのではないかという懸念
- 性格の違う組織を一つの基準にまとめてよいのかという線引きの争い
- 信用協同組合や貯蓄銀行を含めるかどうか
- 財源の作り方と、どの省庁が主管するか
政治的な摩擦もあった。2024年4月に採決が止まった局面について、法案を推した共に民主党の卜奇旺(ポク・ギワン)議員は、「社会」という語だけを取り出して「社会主義法」と呼ぶ反対論があったと批判している。卜氏は2024年10月に党の社会連帯経済委員長となり、政府・野党・市民団体に分かれていた案を一本化して押し切った。
今回も反対は消えていない。与党内からも「財政負担の拡大」「特定集団への優遇」への懸念が出た。推進側は、ばらばらに配っている予算を統合するほうが効率的だと反論している。
政府が掲げる数字は、かなり強気だ
政府は2026年6月末に長期目標を示している。社会連帯経済がGDPに占める比率を現在の0.8%から2030年に7%、2035年に10%へ。雇用に占める比率は1.8%から6%へ。2035年までに年商100億ウォンまたは従業員100人以上の先導企業を2,000社育てる、という内容だ。
4年で0.8%を7%に、という数字は、現状の積み上げというより政策目標としての性格が強い。実際にどこまで届くかは、次の点で見え方が変わる。
- 調達が実際に動くか:優遇規定が自治体の発注実務にどう落ちるか。既存業者との競合調整が残る
- 金融が回るか:専門機関と中間支援機関の設計、審査能力、焦げ付きの扱い
- 政権交代後の継続性:韓国の社会的経済政策は過去に予算削減で大きく揺れた経緯がある
日本の読者にとってどこが効くか
日本にも近いテーマの法律がある。2022年10月に施行された労働者協同組合法だ。ただし設立実績は2025年2月時点で127法人にとどまり、韓国のような省庁横断の基本法や、公共調達・専用金融まで含む包括的な枠組みにはなっていない。
日本側で具体的に効いてくるのは、次の場面だ。
- 韓国の自治体案件に入る事業者:福祉、介護、地域エネルギー、リサイクルなどの公共委託で、現地の社会連帯経済組織が優先される場面が増えうる。入札条件の変更時期は施行後の基本計画が出てからになる
- 協同組合・NPO関係者:ケア統合、地域再生、エネルギー転換を「社会連帯経済」という一つの政策カテゴリで扱う設計は、日本の縦割り議論の比較材料になる
- インパクト投資・社会的金融の実務者:国の資金を扱う専門機関と中間支援機関という二層構造が、どの程度機能するかの実例になる
今後の注目点
- 公布日と施行日の確定:施行は公布から6か月後。最初の基本計画がいつ、どの範囲で出るかが最初の実質的な判断材料になる
- 主管省庁と委員会の人選:長年の争点だった主管をどう整理するか。大統領直属委員会の構成に、市民セクターがどれだけ入るか
- 調達と金融の運用ルール:優遇の対象基準と、融資・保証の審査基準。ここが緩ければ「特定集団への優遇」批判が再燃し、厳しすぎれば現場に届かない
13年かけて法律はできた。効果が出るかどうかは、2027年に出てくる基本計画と、自治体の発注書の書きぶりで決まる。
