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宅配ドライバーが路線バスを運転する日|宮崎・日向入郷で10月1日に始まる「ねこみやバス」|2026年9月23日版

山あいのバス停に停まるワンボックス車と、荷物スペースの脇で乗車を待つ住民のイメージ。

宅配ドライバーが路線バスを運転する日|宮崎・日向入郷で10月1日に始まる「ねこみやバス」|2026年9月23日版

10月1日の朝、宮崎県の「道の駅とうごう」を出発する路線バスは、見慣れた大型のバスではなくなる。代わりに停留所に現れるのは、大型ワンボックスカーだ。後部には宅急便の荷物が積まれ、ハンドルを握るのはヤマト運輸の集配ドライバーである。

乗客の側から見ると、変わるのは車両と運転手だけだ。バス停も運賃も支払い方法も従来の路線バスと同じで、事前予約もいらない。手を挙げて乗れば、これまで通り買い物にも通院にも使える。

ただし定員は4人。そこに、この試みの可能性と限界が両方詰まっている。

目次

まず要点

  • 宮崎交通とヤマト運輸が、宮崎県の日向・入郷地域(日向市・美郷町・諸塚村・椎葉村)で路線バス型の公共ライドシェア「ねこみやバス」を10月1日に開始する
  • 対象は「道の駅とうごう」を起点とする、おし谷線・神門線・池野線の3路線
  • 人と荷物を同時に運ぶ路線バス型の公共ライドシェアは九州で初めて
  • 実証運行は2027年3月31日まで。課題を洗い出したうえで、27年4月以降の継続を見込む

10月1日から何が変わるのか

置き換わるのは、既存の3路線そのものだ。路線の骨格は残したまま、運ぶ器だけが小さくなる。

路線区間距離運行便数
おし谷線道の駅とうごう〜塚原〜おし谷49.9km8便/日
神門線道の駅とうごう〜神門・浜砂橋30.6km9便/日
池野線道の駅とうごう〜池野5.7km2便/日

使うのは大型ワンボックスカー3台。荷物は車両後部の専用スペースに積み、途中のバス停で待機する集配ドライバーに引き渡す。つまり停留所が、乗客の乗降場所であると同時に荷物の中継地点になる。

国土交通省と宮崎県、そして日向市・美郷町・諸塚村・椎葉村の4自治体が支援に入っている。

誰の困りごとを解いているのか

背景には、性格の違う二つの行き詰まりがある。

  • バス側:人口減少と高齢化で利用者が減り、そこに燃料価格の高騰と運転手不足が重なった。買い物や通院という日常の足を、今の形のまま維持し続けるのが難しい
  • 物流側:ヤマト運輸はこの地域の集配に、日向営業所から片道およそ90分かけて1日2往復していた。サービス品質を落とさずに効率を上げる方法が見つからない

ねこみやバスが成立すれば、ヤマトの集配は1日2往復から1往復に減る見込みだ。片道90分の山道を1往復分減らせるなら、ドライバー1人分の時間がまるごと浮く。その浮いた時間を路線の運行に充てる、というのが今回の設計の核心である。

「荷物がバスに乗る」から「宅配車が路線になる」へ

貨客混載そのものは新しくない。ヤマト運輸は2015年6月に岩手県で路線バスによる宅急便輸送を始め、宮崎県でも同年10月から実施している。その後、北海道、熊本、兵庫、長野、和歌山、徳島へと広がった。

ただ、それらはいずれもバスの荷室を宅配便に貸す形だった。主役はバスで、荷物は相乗りである。

今回はそこが反転する。運行を担うのはヤマトのドライバーで、車両も宅配の集配に使えるワンボックスカーだ。荷物の動線の上に、旅客の機能を載せている。路線バスを維持するために荷物を使うのではなく、荷物の運行を路線として地域に開く――そう言い換えたほうが実態に近い。

ここがポイント: 利用者の体験(バス停・運賃・予約不要)は据え置いたまま、その裏側の運行主体と車両を丸ごと入れ替えた。住民が手続きを覚え直す必要がないことが、この方式の最大の設計上の配慮になっている。

定員4人が突きつけるもの

一方で、車両が小さくなる以上、避けられない論点がある。

  • 乗客は最大4人。予約不要である以上、先に乗った人で埋まっていれば、次のバス停で乗れない可能性が残る
  • 荷物と旅客が同じ車両を共有するため、繁忙期にどちらを優先するのかという判断が現場に生じうる
  • 運転するのは宅配ドライバー。旅客運送と集配業務を1人が担う働き方を、労務面でどう管理するか

通院や買い物で本当に困るのは、乗れなかった1本の後に次が2時間来ない地域だ。池野線は1日2便である。実証期間の半年で洗い出すべきは、まさにこの「乗れなかった人」が何人いたかだろう。

なお、この取り組みは物流系メディアでは効率化の事例として、交通系メディアでは廃止代替の事例として報じられた。同じ1台のワンボックスカーが、どちらの課題の答えにも見えるという点が、この試みの位置づけをよく表している。

日向だけの話で終わらない理由

国土交通省の調べでは、公共交通が十分に確保されていない「交通空白」の地区は全国892自治体の2,740地区にのぼり、そこに約1,700万人が暮らす。予備軍とされる1,498地区(約610万人)を足せば、影響が及びうる人口は約2,300万人に達する。

国は2026年3月に地域公共交通活性化再生法の改正案を閣議決定し、8月4日には全市区町村を対象とする「持続可能な地域公共交通の実現に向けた体制づくりの認定制度」の募集を始めた。29項目・140点満点で審査し、ゴールド/シルバー/プラチナの3段階で認定する仕組みだ。2025〜2027年度の集中対策期間で、300市区町村をトップランナーとして育てる目標が置かれている。

制度の枠組みは整いつつある。足りないのは、その枠に流し込める実際に回る運行の型のほうだ。ねこみやバスが半年後にどんな数字を出すかは、同じ悩みを抱える全国の山あいの自治体にとって、そのまま検討材料になる。

今後の注目点

  • 2027年3月31日までの実証で、乗車できなかったケースがどれだけ出るか
  • ヤマトの集配が実際に1日1往復へ減らせたか。減らなければ、どちらの課題も解けていない
  • 27年4月以降の本格運行に移る際、運賃や便数が据え置かれるのか見直されるのか
  • 旅客と集配を兼ねるドライバーの拘束時間と労務管理をどう整理するか
  • 九州初の事例として、同じ入郷地域内や他県の交通空白地区へ横展開されるか

山あいの3路線で走るワンボックスカー3台は、全国2,740地区の縮図でもある。半年後に出てくるのは、成功談ではなく「どこで乗れなかったか」の記録であってほしい。使える材料になるのは、そちらのほうだ。

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