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英国、働くと住宅支援が急減する「崖」を緩和 31万5000人に新ルール|2026年8月3日版

支援付き住宅の入居者が支援員と給与明細や住宅給付の書類を確認している。

英国、働くと住宅支援が急減する「崖」を緩和 31万5000人に新ルール|2026年8月3日版

英国政府は、支援付き住宅や一時宿泊施設で暮らす就労年齢の人を対象に、収入が増えた際の住宅給付(Housing Benefit)の計算方法を見直します。働く時間を増やした結果、手元に残るお金がかえって減る「崖」を緩和するのが狙いです。

新ルールは2026年10月5日に施行され、政府は31万5000人に影響すると見込んでいます。ただし、住宅費支援を巡る複雑な制度そのものが一本化されるわけではありません。

  • 支援付き住宅・一時宿泊施設の就労年齢の入居者が対象
  • 住宅給付の計算に5種類の新たな勤労所得控除を導入
  • 施行日は2026年10月5日
  • 改正後も、収入の申告や個別の給付計算は必要
目次

何が変わるのか

今回の改正では、住宅給付を計算するとき、給与所得の一部を収入として数えない「勤労所得控除」が新たに5種類設けられます。控除額は毎年改定される予定です。

対象となるのは、支援付き住宅や一時宿泊施設に住み、住宅費について住宅給付を受ける就労年齢の人です。英国政府は、既存の受給者集団が今回の変更によって不利になることはないと説明しています。

変更の意味は、単なる給付額の引き上げではありません。短時間の仕事を始める、勤務日を増やす、より賃金の高い職に移るといった場面で、追加収入の多くが住宅給付の減額に消える問題を抑えることにあります。

政府発表によると、制度変更は次の流れで実施されます。

  1. 2026年7月6日に改正規則を議会へ提出
  2. 住宅給付の計算に5種類の勤労所得控除を追加
  3. 2026年10月5日から新しい計算方法を適用
  4. 以後、控除額を毎年見直し

なぜ「働くほど苦しくなる」状態が生まれたのか

問題の背景には、住宅費を支える二つの制度のずれがあります。

多くの就労年齢世帯では、家賃支援はユニバーサル・クレジットに統合されています。一方、支援付き住宅や一時宿泊施設では、家賃が一般住宅より高くなることや制度上の扱いから、住宅給付が引き続き重要な役割を担っています。

二つの計算がかみ合わない

入居者が就職したり勤務時間を増やしたりすると、ユニバーサル・クレジットと住宅給付の双方が収入に応じて変わります。ところが、従来の住宅給付にはユニバーサル・クレジットより不利な所得計算が残っていました。

その結果、給与は増えても住宅給付が大きく減り、世帯全体の週収入が低下する場合がありました。英国政府の制度見直し資料も、これは就労に対する「金銭的なペナルティー」になっていたと認めています。

支援付き住宅の運営者が家賃収入の減少を懸念し、入居者に就労を勧めにくいという問題も政府発表で指摘されました。制度上の不一致が、本人だけでなく、支援現場の判断にも影響していたのです。

ここがポイント: 今回の改正は「働けば給付が減る」こと自体をなくすものではなく、給与の増加より給付の減少が大きくなる局面を抑える措置です。

誰の生活に影響するのか

支援付き住宅は、住まいとともに見守りや生活支援を必要とする人の受け皿です。ホームレス状態を経験した人、家庭内暴力から避難した人、障害や依存症などを抱える人が利用する場合があります。一時宿泊施設には、自治体が住居を確保できない世帯を緊急に入居させるケースもあります。

今回の変更が現れるのは、たとえば次のような場面です。

  • 入居者が週数時間の仕事を始める
  • 体調や生活が安定し、勤務時間を段階的に増やす
  • 訓練的な就労から通常雇用へ移る
  • 一時宿泊施設にいる世帯の収入が増える

元受刑者の就労を支援する慈善団体Working Chanceは、支援付き住宅の入居者が住居支援と仕事のどちらかを選ばされにくくなるとして、改正を歓迎しました。英国公認住宅協会(CIH)も、以前から指摘してきた「雇用のわな」が法改正によって緩和されると評価しています。

ここで重要なのは、就職率という数字だけではありません。収入を増やして住まいを失う危険が高まるなら、入居者は生活再建の次の段階へ進みにくくなります。就労への移行を滑らかにすることは、本人の自立だけでなく、支援付き住宅の空きを必要な人へ回すことにもつながります。

改正後も残る三つの課題

今回の措置は対象を絞った改善です。住宅支援制度全体の複雑さは残ります。

1. すべての人の「崖」が完全になくなるとは限らない

政府は、大半の対象者について急激な収入減を解消し、残る人についても大幅に縮小すると説明しています。つまり、世帯構成、賃金、家賃、他の給付との組み合わせによって改善幅は異なります。

「仕事を増やせば必ず同じ額だけ得をする」という一律の仕組みではありません。入居者や支援担当者には、変更後の個別計算を確認できる案内が必要です。

2. 収入を二つの窓口へ伝える場面が残る

支援付き住宅の入居者は、生活費をユニバーサル・クレジット、住宅費を自治体が扱う住宅給付から受け取ることがあります。この場合、就職や収入の変化を一方へ伝えただけでは足りない可能性があります。

施行に合わせて問われるのは、自治体、住宅運営者、就労支援機関が「どこへ、いつ、何を申告するか」を分かりやすく伝えられるかです。計算方法が改善されても、通知漏れから過払いと返還請求が生じれば、入居者の不安は消えません。

3. 支援付き住宅の質と供給は別の問題

英国政府は、住宅給付を支援付き住宅の新たな免許制度と結び付ける方針も示しています。質の低い事業者を排除する狙いがある一方、免許を取得できない事業者の入居者に家賃滞納や住居喪失の危険が及ぶとの懸念も寄せられました。

勤労所得控除は就労の壁を低くしますが、適切な支援を伴う住宅が十分にあるか、家賃支援が安定して届くかまでは解決しません。

日本から見るべき制度設計の焦点

日本でも、収入が一定額を超えたときに給付や減免が縮小し、追加で働いた分ほど手取りが増えない問題は起こり得ます。英国の改正から読み取れるのは、単独の制度だけでなく、複数の給付を合算した後の手取りを確認する必要性です。

制度を評価するときは、次の順序で見ると実態を捉えやすくなります。

  • 給与が1万円増えたとき、各給付と負担がいくら変わるか
  • 申告先が複数に分かれていないか
  • 支援者が事前に手取りを試算できるか
  • 就労後に家賃滞納や退去の危険が高まらないか

英国で10月以降に注目すべきなのも、対象者31万5000人という規模だけではありません。自治体が新しい控除を正しく適用できるか、入居者が勤務時間を増やした後に実際の可処分所得を保てるか、過払いと返還請求を防ぐ案内が届くか。この三点が、制度改正の成否を決めます。

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