米軍がイラン南部を再攻撃、ホルムズ海峡の船舶減少が示す「封鎖」の現実|2026年7月16日版
米軍がイランへの新たな攻撃を完了し、ホルムズ海峡に面する主要港湾都市バンダルアッバース周辺も標的に含まれた。米国は商船への攻撃能力を低下させる措置だと説明するが、海峡を通る船の数はすでに減っている。今回の焦点は、軍事行動そのものだけでなく、エネルギーと物流の要衝で「安全に航行できる状態」を取り戻せるのかにある。
日本では直ちに原油不足と決めつける段階ではない。ただし、輸入先の代替を進めてきた後も、ホルムズ海峡の不安定化は調達コスト、船舶保険料、LNG価格を通じて家計と企業に波及し得る。
- 米軍は15日、イランのミサイル・無人機・沿岸防衛能力を狙った攻撃を実施したと発表した
- ロイター通信が確認した船舶データでは、米国がイラン港湾への海上封鎖を再開した翌日、海峡を通過する船舶が減少した
- ホルムズ海峡は2025年に世界の原油貿易の約34%に当たる日量約1,500万バレルが通過した、アジア向けエネルギーの大動脈だ
何が起きたのか――港湾・沿岸防衛を狙う攻撃へ
米中央軍は、イランの沿岸防衛システム、ミサイル・無人機拠点、海上能力を標的にしていると説明している。報道によると、最新の攻撃にはホルムズ海峡に面するバンダルアッバースが含まれた。
バンダルアッバースはイラン最大級の港湾都市で、海峡の出入り口に近い。ここを含む沿岸の軍事拠点が攻撃対象になったことで、問題は「戦闘が続くか」だけではなく、商船が通過できる海域を誰が、どのように安全だと保証するのかに移っている。
米国は、民間船舶と乗組員への脅威を減らすことが目的だと主張する。一方でイラン側は、米国による攻撃が続けば域内のインフラを広く攻撃し得ると警告している。双方の発信は対立しており、民間航行の安全が回復したと判断できる状況にはない。
ここがポイント: 海峡が地図上で「閉鎖」と宣言されるかどうかだけでは足りない。船主、保険会社、船員が危険を受け入れられなければ、通航量は減り、実務上の物流機能は細る。
なぜ世界の市場が敏感になるのか
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ狭い海路であり、湾岸産油国の原油やカタール産LNGが外洋へ出る経路である。国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年には日量約1,500万バレルの原油がここを通過し、その多くはアジア向けだった。
通航量の減少は、供給停止と同義ではない
船が減っても、すべての輸出が止まるわけではない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦には、紅海側の港へ原油を振り向けるパイプラインがある。ただし能力には限りがあり、海峡を使う量を丸ごと置き換えることはできない。
LNGはさらに代替が難しい。IEAは、ホルムズ海峡を経由するLNGの途絶が世界のガス市場に大きな供給ショックを与えると指摘する。カタールから出るLNGには海峡を避ける現実的な海上ルートがないためだ。
価格だけでなく、輸送の遅れが問題になる
16日の時点で、ブレント原油は戦争前より高い水準で推移している。市場が見ているのは原油価格だけではない。
- 船主が航行を見合わせる、または遠回りするか
- 保険料と用船料がどこまで上がるか
- 原油・LNG・石油製品の積み地から到着地までの日程がどれだけ乱れるか
- 一時的な軍事的緊張が、港湾利用や船員配置の長期的な制約に変わるか
このため、海峡の通航が一部再開しても、市場の緊張がすぐに解けるとは限らない。
日本への影響――「代替調達できる」と「無関係」は別の話
日本政府は中東情勢の悪化を受け、ホルムズ海峡に頼らない原油の調達を進めてきた。6月には、7月の原油調達量を前年同月比でおおむね100%まで回復させる見通しを示している。
これは重要な備えだ。調達先を北米、アジア太平洋、中央アジア、アフリカなどに広げれば、特定海峡の遮断が直ちに国内供給の途絶へつながるリスクを下げられる。
ただし、次の点は残る。
- 日本は原油輸入の中東依存度が依然として高い
- 代替原油には輸送距離、品質、精製設備との相性という制約がある
- 世界市場で原油・LNGの取り合いが起きれば、代替分を確保できても価格は上がり得る
- 製造業、航空、運輸、電力などは燃料費の変動を受けやすい
つまり、日本にとって問われるのは「物量を確保できるか」だけではない。長期化した場合に、どのコストを企業が吸収し、どこから最終価格へ転嫁されるかである。
今後は三つの分岐を見る
軍事行動の規模だけを追うと、危機の実像を見失いやすい。今後の展開は、次の三つのシナリオに分けて見るとよい。
1. 通航の安全確保へ向かう場合
攻撃の停止や緊張緩和の協議が進み、商船が継続的に海峡を通過できるなら、保険と運航のリスクは徐々に下がる。これは原油・LNG価格を落ち着かせる最短の経路だが、単発の通航再開だけでは十分ではない。
2. 低強度の衝突が続く場合
攻撃と報復が断続的に起き、船会社が慎重姿勢を維持する展開である。この場合、供給量の大幅な減少がなくても、輸送日数と保険料の上昇が市場の負担になる。
3. 周辺国・民間インフラへ影響が広がる場合
イラン側は域内インフラへの攻撃可能性を示唆している。湾岸諸国の港湾、石油・ガス施設、航空路に影響が及べば、海峡単体の問題を超え、地域全体の供給網の障害になる。
次に見るべき3点
- 通航実績:通過船舶数が数日単位で戻るのか、それとも低水準で固定化するのか
- 保険と船会社の判断:政府発表より先に、実際の航行可否を左右する
- 日本の調達状況:代替原油の確保量だけでなく、LNG価格と電力・燃料コストへの波及を確認したい
ホルムズ海峡をめぐる緊張は、軍事面では沿岸拠点への攻撃、経済面では「船が安全に動けるか」という問題として現れている。次の重要な指標は、声明の強さではなく、数日後の航行データと、湾岸からアジアへ向かう実際の貨物の流れだ。
