ザンビア大統領選、ヒチレマ氏が約60%で再選――銅資源と民主主義をめぐる次の焦点|2026年8月18日版
ザンビア選挙管理委員会は8月18日、現職のハカインデ・ヒチレマ大統領の再選を宣言しました。得票率は約60%で、約38%を獲得した最大の対立候補ブライアン・ムンドゥビレ氏を上回り、決選投票を回避しました。
ただし、結果だけを見て「安定した圧勝」と片付けることはできません。開票は投票所への襲撃を受けて一時中断され、野党関係者の逮捕も起きました。次の焦点は、選挙への疑念を抑えながら、債務再編の成果を雇用や生活費の改善へつなげられるかです。
- ヒチレマ氏は約60%を得票し、2期目を確保
- 投票・開票過程では死者、投票用紙の盗難、野党関係者の逮捕が発生
- ザンビアは世界有数の銅生産国で、中国と米国の双方が関心を強めている
- 政権の課題は、経済指標の改善を家計と雇用の実感へ変えること
何が起きたのか
8月13日に行われた大統領選では、約879万人の登録有権者が投票の対象となりました。大統領候補が有効票の過半数を得れば当選する制度で、ヒチレマ氏はこの条件を満たしました。
AP通信の報道によると、ヒチレマ氏の得票率は約60%、ムンドゥビレ氏は約38%でした。これにより、9月に予定されていた可能性のある決選投票は不要となります。
一方、選挙過程は平穏ではありませんでした。
- 一部の投票所で職員への襲撃や投票用紙の盗難が発生
- 警察によると、投票所で政党関係者1人が死亡
- 開票作業が一時中断され、首都ルサカの集計所周辺に軍と機動隊が展開
- 野党関係者が捜査機関の急襲で逮捕され、現場では銃声も報告
ザンビアは1991年に複数政党制へ復帰して以来、おおむね平和的な選挙を重ねてきました。それだけに、今回の混乱は例外的です。得票差が大きくても、手続きの公正さをめぐる疑問が消えるとは限りません。
なぜこの選挙が国際的に重要なのか
中心にあるのは銅です。人口約2200万人のザンビアは、電力網、電気自動車、再生可能エネルギー設備に欠かせない銅の主要生産国です。
中国と米国が同じ資源を見ている
中国企業はザンビアの鉱業に長年投資してきました。一方、米国も重要鉱物の供給網で中国への依存を減らすため、ザンビアへの関心を強めています。
これは単なる大国間競争ではありません。ザンビア政府にとっては、鉱山への投資を呼び込みながら、採掘した銅を輸出するだけでなく、国内で加工し、雇用と税収を増やせるかが問われます。
世界銀行も、銅の付加価値化には次の障害があると指摘しています。
- 安定した電力供給の不足
- 原材料や資金へのアクセス
- 投資環境の非効率
- 輸送時間と物流コスト
ここがポイント: ヒチレマ氏の再選は資源政策の継続を意味しますが、銅価格や外国投資が伸びても、電力不足と加工能力の弱さが残れば、国民が受け取る利益は限られます。
日本にも関係する供給網の問題
銅は送配電設備、車載部品、データセンターなど幅広い産業で使われます。ザンビアの鉱山投資や輸送網が安定すれば、供給先の多様化につながります。
逆に、政治的な混乱や電力不足で増産が遅れれば、銅を大量に使う日本企業にとっても調達価格と納期の不確実性が増します。日本から見るべきなのは選挙結果そのものだけでなく、新政権が鉱山、発電、輸送を一体で整備できるかです。
経済改革は進んだが、生活の不満は残る
ヒチレマ政権は2021年の発足後、2020年の債務不履行で行き詰まった対外債務の再編を進めました。国際通貨基金(IMF)は2026年5月時点で、再編対象の約94%をカバーする合意が成立したとしています。
主要指標にも改善が見られます。
- 2026年4月のインフレ率は6.8%まで低下
- 外貨準備は輸入額の4.4カ月分に相当する64億ドルへ回復
- 2025年の基礎的財政収支はGDP比3.1%の黒字
しかし、選挙で問われたのはマクロ経済の数字だけではありません。生活費への不満が残り、若い人口に十分な仕事を用意できるかも大きな課題です。
IMFは2026年の成長率見通しを4.3%へ下方修正しました。鉱業生産の弱さ、電力制約、中東情勢の波及などが理由です。年末のインフレ率も、燃料価格の影響で8.5%になると見込んでいます。
つまり、政権は債務危機からの立て直しで評価を得た一方、2期目には成果の配分を問われます。食料や燃料が再び値上がりすれば、財政規律を守るだけでは支持を維持できません。
今後考えられる3つの展開
選挙後のザンビアには、複数の道筋があります。
1. 改革継続と銅投資が成長を押し上げる
政治的な安定が維持され、債務再編の残る交渉が進めば、鉱山と電力への民間投資を呼び込みやすくなります。銅の国内加工まで拡大できれば、輸出額だけでなく雇用も増やせます。
ただし、干ばつに弱い水力発電への依存を減らし、安定した電力を確保することが前提です。
2. 選挙をめぐる対立が長引く
野党が結果や捜査機関の行動に異議を唱え、抗議や法的手続きが続く可能性があります。政府が治安維持を理由に野党や市民社会への圧力を強めれば、投資家が重視する制度への信頼も損なわれます。
見るべきなのは、抗議の有無だけではありません。逮捕された野党関係者の扱い、選挙中の暴力に対する捜査、国内外の選挙監視団による評価が重要です。
3. 外部ショックで生活費が再上昇する
ザンビア経済は銅価格、燃料価格、干ばつの影響を強く受けます。銅価格の下落は輸出収入を減らし、燃料高は輸送費と物価を押し上げます。降雨不足は発電と農業の双方を直撃します。
政権が制御できない要因も多いからこそ、産業の多角化と社会支出の維持が試されます。
次に見るべき3つのポイント
ヒチレマ氏の勝利で大統領選の数字は確定しました。しかし、政治的な決着と経済的な成果はこれからです。
- 選挙の信頼性:監視団の評価、暴力事件の捜査、野党関係者の扱い
- 改革の生活への波及:食料・燃料価格、若年層の雇用、社会支出の維持
- 銅の利益を国内に残せるか:発電能力、鉱石の加工、輸送網への投資
特に最初の試金石となるのは、選挙後の捜査と野党への対応です。そこで法に沿った透明な手続きを示せなければ、約60%という得票率があっても、2期目の政治的な土台は弱くなります。
