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海辺のサザエは拾っていい? 横須賀の注意喚起から読み解く漁業権の仕組み

横須賀の岩礁海岸に貝や海藻が見える夏の磯辺。

海辺のサザエは拾っていい? 横須賀の注意喚起から読み解く漁業権の仕組み

海辺で見つけたサザエやアワビ、ワカメを「少しだけ」「自分で食べる分だけ」と持ち帰る――。場所と種類によっては、それでも漁業権の侵害になるおそれがあります。

一方、漁業権が設定された海だからといって、海水浴や釣り、磯遊びが一律に禁止されるわけではありません。確認すべきなのは「場所」「対象となる魚介類」「採り方」の3点です。

  • 横須賀市は2026年4月、沿岸で密漁が多発しているとして注意を呼びかけた
  • 漁業権は海そのものの所有権ではなく、特定の漁業を排他的に営む権利
  • 一般の人が採れない魚介類は、海域ごとの免許内容によって異なる
  • 漁業権とは別に、都道府県の規則で道具、時期、大きさも制限される
目次

横須賀市が「アワビやサザエを採らないで」と呼びかけ

今回の注意喚起で最も重要なのは、レジャーの延長でも漁業権侵害になり得るという点です。

横須賀市は2026年4月30日、市沿岸で密漁行為が多発しているとして、アワビやサザエなどを採らないよう市のウェブサイトで呼びかけました。

市によると、横須賀市域だけでなく、神奈川県沿岸のほとんどの海域に共同漁業権が設定されています。その海域で漁業権の対象になっているアワビ、サザエ、イセエビ、ワカメなどを組合員以外が採ると、漁業権侵害になるおそれがあります。

ここで誤解しやすいのが、「売らなければ問題ない」「1個なら大丈夫」という考え方です。判断の基準は販売目的や量だけではありません。自分や家族で食べるために採った場合でも、対象種と海域が重なれば問題になります。

政府広報も「自分で食べるだけなら」という認識を、レジャー時の密漁につながる代表的な誤解として取り上げています。行政がQ&Aや注意ページを繰り返し設けていることからも、海辺で何を採れるのかが生活者に伝わりにくい実情が見えてきます。

漁業権は「海を所有する権利」ではない

漁業権が守っているのは海への立ち入りではなく、一定の水面で特定の漁業を営む利益です。

水産庁は漁業権を「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」と説明しています。大きく分けると、次の3種類があります。

  • 共同漁業権:漁協の管理の下で、採貝・採藻、刺し網、小型定置網などを共同で営む権利
  • 区画漁業権:区切られた水面で魚類、貝類、海藻類などを養殖する権利
  • 定置漁業権:一定の場所に大型の定置網を設置して漁業を営む権利

磯遊びで特に関係するのは、共同漁業権のうち、貝類や海藻類、定着性の水産動物を対象にする第一種共同漁業権です。

サザエ、アワビ、アサリ、ウニ、タコ、イセエビ、ワカメなどが対象になることがあります。ただし、対象種は全国一律ではありません。同じ生き物でも、海域ごとの免許内容を確認する必要があります。

泳ぐことや通常の釣りまで禁止されるのか

漁業権があるだけで、海水浴や磯遊び、対象外の魚を釣る行為が直ちに禁止されるわけではありません。

ただし、漁業者の操業を妨げたり、網や養殖施設を壊したり、漁場としての価値を損なったりすれば、採捕をしていなくても問題になる可能性があります。海上のブイ、いけす、定置網などには近づかないことが大切です。

ここがポイント: 漁業権は「この海には一般の人が入れない」という制度ではありません。「この区域で、この漁業を営む権利を守る」という制度です。

なぜ海の資源を早い者勝ちにしないのか

主な理由は、動きにくく採りやすい資源ほど、自由採捕にすると短期間で減りやすいからです。

魚のように広い海域を移動する生き物と比べ、岩場にいる貝やウニ、沿岸に生える海藻は場所を見つければ繰り返し採れます。多くの人が同じ場所で採れば、親となる個体まで減り、翌年以降の漁獲にも響きます。

横須賀市は、採ってよい人を限定し、自主的な管理を行うことで、水産物を持続的に供給することが漁業権の目的だと説明しています。

これは単なる「漁師の取り分」の設定ではありません。漁協や漁業者は、漁業権行使規則に基づいて、操業できる人、時期、漁具や漁法などを調整します。資源を採り尽くせば自らの仕事が成り立たなくなるため、地域の漁場を継続して使える状態に保つ責任も負います。

一方で、漁業権があるだけで資源が自動的に守られるわけではありません。海水温の変化、藻場の衰退、担い手不足、監視の負担などは、権利の設定だけでは解決できない課題です。漁協による管理の実態や漁場の利用状況を、行政が継続して確認する必要があります。

誰が漁業権を決め、誰が管理するのか

漁業権は漁協が独自に宣言するものではなく、都道府県知事の免許によって成立します。

手続きのおおまかな流れは次の通りです。

  1. 都道府県が海域の利用状況を調べ、海区漁場計画の案を作る
  2. 漁業者や新規参入希望者など、利害関係人から意見を聴く
  3. 漁業者代表や学識経験者らで構成される海区漁業調整委員会の意見を聴く
  4. 都道府県知事が計画を決定し、申請を受けて免許する
  5. 免許を受けた漁協などが規則に沿って漁場を利用・管理する

神奈川県では、現在の海区漁場計画を2023年9月1日から2028年8月31日までの期間として公表し、漁業権の区域図や免許内容も公開しています。計画づくりでは素案への意見募集も行われました。

役割を整理すると、国は漁業法など制度全体の枠組みを定め、都道府県は海域ごとの計画、免許、調整規則を担当します。漁協と漁業者は、免許された範囲で漁場を使い、操業を調整します。市町村は免許の主体ではありませんが、横須賀市のように住民や来訪者へ地域のルールを伝える役割を担います。

行政手続きや取締りには公費が使われますが、沿岸漁場の日常的な管理や操業上の負担は漁協・漁業者側にもあります。海面の共同漁業権について、一般の来訪者が一律の利用料を払えば対象種を採れる、という仕組みではありません。

「対象外なら自由」とも限らない

海で何かを採るときは、漁業権だけでなく都道府県の漁業調整規則も確認しなければなりません。

神奈川県では、一般の遊漁者が使える漁具・漁法として、竿釣り、手釣り、たも網、投網、一定の条件を満たすくまで、徒手採捕などが定められています。

しかし、認められた道具にも条件があります。

  • やすやいそがねは夜間に使用できず、水中眼鏡との併用もできない
  • くまでは幅15センチ以下に限られる
  • 集魚灯を使った採捕はできない
  • カニ網や、網・かごが付いた「忍者くまで」は使用できない
  • 魚介類によって禁漁期や採捕できる大きさが定められている

県によって認められる道具や条件は異なります。旅行先で地元と同じ感覚のまま採捕すると、知らずに規則へ抵触しかねません。

また、アワビ、ナマコ、シラスウナギは悪質な密漁の対象になりやすいため、漁業権や許可に基づく場合などを除き、採捕そのものに重い罰則が設けられています。政府広報によると、違反した場合は3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金の対象です。

通常の漁業権侵害についても、100万円以下の罰金が科されることがあります。横須賀市は、神奈川県漁業調整規則への違反について、6月以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくはその併科と案内しています。

海辺へ出かける前の確認手順

判断に迷ったら、その場で採らず、都道府県の水産担当部署へ確認するのが最も確実です。

スマートフォンで調べるときは、次の順に確認すると整理しやすくなります。

  1. 都道府県の漁業権区域図で、現在地に共同漁業権があるか調べる
  2. その区域の免許対象となっている魚介類や海藻を確認する
  3. 都道府県の遊漁ルールで、使える道具と採り方を確認する
  4. 禁漁期、体長・殻長の制限、海区漁業調整委員会の指示を確認する
  5. 表示が分かりにくい場合は、都道府県の水産担当部署へ問い合わせる

海岸に看板が見当たらなくても、漁業権や採捕規制がないとは限りません。反対に、漁業権区域だからといって、一般の釣りや海水浴がすべて排除されるわけでもありません。

横須賀市の注意喚起が示す課題は、違反者への罰則だけではなく、海辺に着いた人がその場で対象種と区域を判断しにくいことです。今後は区域図のスマートフォン対応、現地表示、外国語を含む案内、釣具店や観光事業者との情報共有がどこまで進むかが注目点になります。

この夏、磯で見慣れない貝や海藻を見つけたときの実用的な基準は明快です。調べる前には採らない。区域・種類・道具の3点を確認してから海を楽しむ。それが、地域の漁業とレジャー利用を両立させる最初の一歩です。

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