MENU

水道は戻ったのに、井戸は2か月出ないまま──八代市4500世帯の「井戸断水」と、足りない掘削業者|2026年9月29日版

民家の井戸のそばに給水用のポリタンクが並び、奥に井戸掘削車が止まっている様子

水道は戻ったのに、井戸は2か月出ないまま──八代市4500世帯の「井戸断水」と、足りない掘削業者

熊本県八代市では、7月の地震で止まった上水道はもう復旧しています。それでも、市内の約4500世帯では井戸の水が濁ったり、枯れたりしたままです。八代市は市民の約半数が井戸水で暮らしている町なので、「断水」はまだ半分しか終わっていません。

国は災害救助法の支援対象に井戸の修理を加え、1世帯あたり75万7000円を上限に補助を始めました。ただ、井戸を掘り直すと数百万円以上かかります。しかも掘削業者が足りず、予約は数か月先まで埋まっています。

補助の上限と実際の工事費の差、そして工事を担う業者の少なさ。この2つが、八代市の井戸の復旧を遅らせています。

この記事の要点
  • 2026年7月28日の熊本地震(M7.1)で、八代市は震度6強。水道普及率52.1%の町で、約4500世帯の井戸が被害を受けた
  • 9月中旬の時点で、改善した井戸は数十件にとどまる。清掃しても約6割は直らず、掘り直しが必要
  • 県は井戸の修理に1世帯最大75万7000円を補助。ただし掘り直しには数百万円以上かかる
  • 掘削業者は県が登録した11社だけ。9月25日から全国で業者の募集を始めた
目次

何が起きているのか──「水道が戻った後」も続く断水

2026年7月28日午後4時27分ごろ、熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が起きました。宇城市と氷川町では震度7を観測しています。隣の八代市も震度6強の揺れに見舞われ、建物の倒壊が相次ぎました。

上水道は、一時は最大10万8000戸で断水しました。8月中旬には7380戸まで減り、その後は解消に向かっています。ところが、水道の数字だけを見ていると、八代市の実態は見えてきません。

市民の半数が井戸で暮らす町

八代市の水道普及率は52.1%で、熊本県内で最も低い水準です。球磨川が運ぶ豊富な地下水があるため、昔から井戸を生活用水に使ってきました。人口約11万7500人の町で、市民の約半数が井戸に頼っていることになります。

地震のあと、次のような被害が目立っています。

  • 井戸の水がまったく出なくなった、または量が減った
  • 灰色がかった茶色の濁り水が出る、細かい砂が混じる
  • においがして生活用水に使えない

地元のKAB(熊本朝日放送)の取材に、住民は「地震の日から出なくなった」と話しています。別の住民は「地下水がおいしいと言われてきた地域なのに、思わぬ被害を受けた」と語りました。

数字で見る復旧の遅れ

被害の件数は、報道のたびに増えています。

時点状況出典
8月中旬井戸被害は約4400世帯。市の職員が8月11〜14日に調査熊本日日新聞
8月19日国土交通省と県による「井戸水対応チーム」が、原因の調査と井戸の清掃を始める熊本日日新聞
9月10日ごろ申請は約3400件。調査を終えたのは約300件で、復旧したのは30〜40件熊本日日新聞
9月15日時点不調の届け出は3517件。調査済みは1374件で、改善したのは61件時事通信・朝日新聞

調査件数は、集計の時点と数え方によって差があります。それでも、改善したのは届け出の2%足らずという点は、どの報道でも変わりません。

なぜ直らないのか──清掃では効かず、掘り直しが必要になる

最初の支援は、井戸にたまった砂を取り除き、中を洗う作業でした。8月には作業員が送水管にたまった砂をかき出す様子も報じられています。

ところが朝日新聞によると、清掃した井戸のうち約6割は改善しませんでした。地震で地下の水の通り道が変わったり、井戸そのものが壊れたりした場合は、新しく掘り直すしかありません。

1本に1〜2週間、予約は4〜5か月先

井戸の掘り直しには、1本あたり1〜2週間かかります。専用の機械と技術者が必要で、どの建設業者でもできる仕事ではありません。

  • 県の登録業者は、熊本・福岡両県の11社だけ(9月25日時点)
  • 9月14日からは九州各地の業者も現地調査に加わった
  • 全国さく井協会九州支部の岩隈一幸支部長は「遠くは北海道の業者にも来てもらっているが、圧倒的に人数が足りない」と話す
  • 業者の予約は「4〜5か月先」という状況が報じられている

西日本新聞は、復旧までの見通しを「数年待ち」という見出しで伝えました。1本に1〜2週間かかる工事を、限られた業者が数千件こなす計算になるので、この見立ては大げさではありません。

毎日120リットルの水を運ぶ暮らし

井戸が直るまで、住民は給水所や防災井戸から水を運んでいます。83歳の男性は熊本日日新聞の取材に「1日に120リットルの水が必要だ。毎日運ぶのはきつい」と話しました。

風呂は銭湯に通い、洗濯はコインランドリーでする。そんな暮らしを続けながら「いつまで続くのか分からない」と不安を口にする住民もいます。高齢の世帯ほど、水を運ぶ負担は重くなります。

補助75万7000円は何を意味するのか

井戸は本来、災害救助法の支援対象に入っていません。住宅の「応急修理制度」は、屋根や壁などを直して自宅に住み続けられるようにする仕組みで、井戸は対象外でした。

今回、熊本県と内閣府が協議し、井戸の修理を住宅の応急修理として扱うことを決めました。県は9月11日に発表し、八代市は同じ日から市役所で申請の受け付けを始めています。

ここがポイント: 「井戸が直れば自宅で暮らせる世帯」を「半壊相当」とみなし、住宅と同じ応急修理の枠で井戸の掘り直しを補助する。井戸が命綱になっている地域の実情に合わせて、制度の解釈を広げた。

対象になる世帯・ならない世帯

熊本日日新聞によると、条件は次のとおりです。

  • 災害救助法が適用された市町村に住んでいる
  • 上水道を使っていない
  • 清掃だけでは直らず、掘り直しなどが必要
  • 家が全壊している場合は原則として対象外
  • 4世帯以下で1本の井戸を共有している場合は、上限額×世帯数まで補助する

注意したいのは、支払いを済ませた工事は対象にならないことです。県は、まだ支払っていない人に対して「速やかに市町村に相談してほしい」と呼びかけています。自分で業者を見つけて先に工事を済ませてしまうと、補助を受けられなくなるおそれがあります。

それでも残る「差額」

75万7000円は、住宅の応急修理と同じ上限額です。一方、全国さく井協会によると、井戸の掘り直しには数百万円以上かかります。深く掘るほど費用は増えます。

時事通信の取材に、83歳の住民は「掘り直しができるのか、費用を払えるのか分からない」と話しました。補助を受けても数百万円の差額が残る世帯が出てきます。その場合、自己負担で掘るか、水道につなぐか、あきらめるかを選ぶことになります。

県の次の一手と、これから見るべき点

県は9月25日、全国から掘削業者の募集を始めました。条件は次の3つです。

  • 建設業の許可を持っている(業種は問わない)
  • 専門の許可がなくても、深さ30メートルを超える井戸を掘った経験がある
  • 自社の機材や資材を熊本まで運べる

登録された業者の名簿は、市町村のウェブサイトや窓口、電話で住民に案内されます。住民が自分で業者を探し回る手間を減らし、県外の業者に依頼しやすくする狙いがあります。

八代市も、まだ水が出る井戸から出ない世帯へ水を分ける方法を検討しています。特別チームを立ち上げて、応急の対策を探っているところです。

今後の注目点

  • 業者は何社増えるか:今の11社からどこまで増やせるか。数千件を「数年待ち」から縮められるかは、ここで決まる
  • 補助の上限は見直されるか:75万7000円と数百万円の差を、県や市が独自の上乗せで埋めるかどうか
  • 水道への切り替えは進むか:水道普及率52.1%の町で、掘り直しをやめて水道につなぐ世帯が増えれば、市の水道計画にも影響する
  • 冬を越せるか:水運びや銭湯通いが長引けば、寒くなる季節に高齢世帯の負担は一段と重くなる

井戸を使う家は、八代市だけでなく全国の地方にあります。水道の復旧だけを「ライフラインの回復」と数えると、井戸で暮らす世帯の被害は統計から漏れてしまいます。自宅の水が井戸だけという家庭にとっては、災害の前に水の確保手段と、修理を頼める業者を確かめておくことが現実的な備えになります。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次