「古い管が増えた=すぐ交換」ではない 水道更新が何百年計算になる理由
水道管の更新が進まない最大の理由は、単なる予算不足ではありません。断水を避けながら道路を少しずつ掘り、限られた人員と料金収入で、事故時の影響が大きい区間から交換する必要があるためです。
栃木県さくら市は年間約1.5kmのペースで更新しており、全管路を同じペースで取り替えると単純計算で約325年かかると説明しています。ただし、これは「325年放置する」という意味ではありません。管の年齢だけで一斉交換せず、材質や状態、重要度を見て順番を決める考え方です。
- 「老朽化率」は法定耐用年数40年を超えた管の割合
- 「更新率」は1年間に交換した管の割合
- 40年を超えた管が直ちに使用不能になるわけではない
- 工事費だけでなく、断水回避や道路復旧、人手の確保も更新速度を左右する
年間1.5kmでは「約325年」になる
さくら市の数字は、水道管更新の遅さを現場の規模で理解できる例です。
市によると、水道管の更新費は1km当たり約1億~1.5億円。年間1.5kmなら、管路本体を取り替える費用だけでも単純計算で年約1.5億~2.25億円になります。労務単価や材料価格の上昇で、工事価格も増えているといいます。
しかも、地中の古い管を新しい管に置き換えるだけでは終わりません。市が示す工程には、次の作業が含まれます。
- 試掘して下水道管やガス管の位置を確認する
- 必要に応じて仮設の水道管を設置する
- 古い管を少しずつ撤去し、新しい管を入れる
- 各家庭などへ延びる給水管をつなぎ替える
- 仮設管を撤去する
- 道路を舗装して元に戻す
水を送り続けながら進める工事なので、一日に施工できる距離には限界があります。交通規制や沿道との調整も必要です。予算だけを急に増やしても、同じ割合で施工距離を増やせるとは限りません。
老朽化率と更新率は、別々に読む
二つの率は「危険な管の割合」と「問題を解消できる速度」を直接示す数字ではありません。
老朽化率は40年超の割合
管路経年化率、いわゆる老朽化率は、全管路のうち法定耐用年数の40年を超えた管が占める割合です。国の資料では、2021年度の全国平均は22.1%でした。
ただし、40年は会計や更新計画で使う基準です。国の検討会でも、材質や防食方法によっては法定耐用年数を超えて使用できる管があることが示されています。
したがって、老朽化率が高い自治体ほど直ちに危険、低い自治体なら安心、と単純には判断できません。見るべきなのは、管の材質、漏水履歴、地盤、耐震性、点検状況です。
更新率は、その年度に交換した割合
管路更新率は、全管路延長に対して、その年度に更新した延長の割合です。2021年度の全国平均は0.64%でした。
0.64%を単純に逆算すると全管路の一巡に約156年かかりますが、これも実際の交換周期そのものではありません。新しい管まで一律に取り替えるわけではなく、更新延長は年度ごとの大型工事にも左右されるからです。
ここがポイント: 老朽化率は「40年を超えた管の量」、更新率は「その年に交換できた量」です。どちらか一方だけで水道の安全性や自治体の努力を評価することはできません。
なぜ古い管から順番に替えないのか
更新順位を決める基準は、年齢だけでなく、壊れた場合の被害です。
同じ50年経過した管でも、住宅が少ない道路の細い配水管と、病院や避難所へ水を送る基幹管では、破損時の影響が異なります。地震で継ぎ手が抜けやすい管、過去に漏水が起きた区間、腐食しやすい環境にある管も優先度が上がります。
国土交通省は、水道事業者に点検、維持、修繕を求め、異常を把握した場合は速やかに対応するよう促しています。古い管を年齢順に総入れ替えするのではなく、点検結果を使って事故の確率と被害の大きさを見積もる「予防保全」が中心になります。
さくら市も、老朽度と事故時の影響度を考慮して計画的に更新すると説明しています。同市では、地盤変化に追従しやすい水道配水用ポリエチレン管への更新も進めています。交換は老朽化対策であると同時に、耐震化でもあるわけです。
工事費は誰が負担するのか
基本になるのは利用者が支払う水道料金ですが、料金だけで更新速度を上げるのは難しくなっています。
水道事業は原則として、自治体などの水道事業者が料金収入を使って運営します。住民は料金を払い、事業者は浄水、送水、点検、修繕、更新を担います。国や都道府県は制度整備、補助、広域連携の支援などを行い、民間企業は設計、施工、点検、運転管理などを受け持ちます。
ここで重くなるのが人口減少です。利用者と使用水量が減れば料金収入は細る一方、地中の管路が同じ割合で短くなるわけではありません。国土交通白書も、1970年代に集中整備された施設の老朽化に加え、人口減少による料金収入の減少、小規模事業者の弱い経営基盤を課題に挙げています。
水道料金の見直しをめぐる市民意見や報道では、主に二つの受け止めが見られます。
- 安全な水を維持するための負担は必要だという理解
- なぜ老朽化が進む前に備えられなかったのか、値上げ前に効率化の説明が必要だという疑問
どちらも生活者にとって自然な反応です。自治体側には、値上げ率だけでなく、更新対象、優先順位、年間施工距離、料金収入の使途を数字で示すことが求められます。
自分の地域では4項目を確認したい
水道の状態を知るには、料金表より先に更新計画と実績を見るのが近道です。
国土交通省は事業者別の状況を確認できる「水道カルテ」を公開しています。自治体の水道事業経営戦略や経営比較分析表と合わせ、次の4項目を確認すると実態が見えやすくなります。
- 管路経年化率は何%か
- 管路更新率は何%で、数年間にどのように動いたか
- 基幹管路、病院、避難所などへの耐震化を優先しているか
- 今後10年ほどの更新費と料金収入をどう見込んでいるか
更新率が低いという理由だけで、工事を怠っているとは断定できません。一方で、「古い管もまだ使える」という説明だけで更新を先延ばしにしてよいわけでもありません。
次の分岐点は、各自治体が管路の状態と事故時の影響をどこまで把握し、住民に公開できるかです。料金改定の議論が始まったときは、月額の増減とともに、その負担で年間何kmを更新し、どの重要施設への給水を守るのかまで確認する必要があります。
