空き家900万戸でも「住める家」が見つからない 空き家バンクを止める3つのずれ
空き家バンクで成約が進みにくい最大の理由は、空き家の数と、移住者が実際に選べる住宅の数が一致しないからです。
所有者が貸し出せない家、修繕費が読めない家、仕事や交通などの生活条件に合わない家は、統計上の空き家であっても移住先の候補にはなりません。サイトの閲覧数を増やすだけでは、このずれは埋まりません。
- 全国の空き家は2023年時点で900万2千戸
- 全国版空き家・空き地バンクは2026年6月末時点で1,146自治体が参加
- 掲載中は742自治体、累計成約は約2万6千件
- 成約には「登録前」「物件選び」「契約後」の3段階で壁がある
空き家900万戸と登録物件は同じ母集団ではない
空き家の多さだけを見ても、空き家バンクで選べる物件の量は分かりません。
総務省の2023年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最多でした。
ただし、この数字には賃貸住宅の空室、売却中の住宅、別荘なども含まれます。さらに、空き家バンクへ載せるには、所有者が売却または賃貸の意思を示し、権利関係や建物の状態を確認し、情報公開に同意しなければなりません。
つまり、次の家は存在していても登録に至らないことがあります。
- 相続人が複数いて、売却や賃貸の合意がまとまらない
- 仏壇や家財が残り、所有者が片付けや処分を決められない
- 思い出のある実家を「知らない人には貸したくない」と感じる
- 雨漏りや傷みがあり、調査や修繕に費用がかかる
- 低価格の物件で、民間業者が仲介業務を引き受けにくい
東京財団政策研究所が自治体への聞き取りなどを整理した調査でも、仏壇や祭祀、地域住民への配慮、所有権の整理などが、空き家を手放しにくい要因として挙げられています。
ここで起きているのは、需要不足だけではありません。市場に出る前の供給詰まりです。
成約を止める3つのミスマッチ
空き家バンクは、物件を一覧に載せれば自動的に契約が成立する仕組みではありません。所有者と利用希望者の条件が、少なくとも三つの段階で重なる必要があります。
1.売りたい所有者と、借りたい移住者がかみ合わない
所有者は、管理負担や固定資産税から解放される売却を望みやすい一方、移住希望者は、地域との相性を確かめるために賃貸から始めたいことがあります。
購入には住宅代だけでなく、登記、仲介、家財処分、修繕などの費用も必要です。移住後の仕事が固まっていない世帯にとって、最初から中古住宅を買う判断は重くなります。
反対に、所有者から見れば、賃貸には設備故障への対応や退去後の管理が残ります。「安くても売りたい」と「まず借りたい」が向き合ったまま、交渉に入れないケースが生まれます。
2.安い購入価格と、安く住めることは別
空き家の販売価格が低くても、入居までの総額が低いとは限りません。
確認すべき費用には、次のようなものがあります。
- 屋根、外壁、給排水、電気設備の修繕
- 耐震性や断熱性を高める工事
- くみ取り式トイレや浄化槽への対応
- 家具、農機具、仏壇など残置物の処分
- 境界確認や未登記部分の整理
- 冬季の暖房費、自家用車の購入・維持費
国土交通省の資料は、地方・農村部の住宅について、伝統的な木造住宅が現代の間取りや性能に合わないこと、地域の大工や職人が減っていることを課題に挙げています。「戸建て空き家×移住」資料では、自治体の関与を、情報提供だけの方式、改修費を助成する方式、自治体が借り上げて改修後に貸す方式に分けて紹介しています。
補助金があっても、対象工事、申請時期、居住年数、市内業者の利用といった条件は自治体ごとに異なります。契約や着工の後では申請できない制度もあるため、物件価格だけで資金計画を立てるのは危険です。
3.住宅の条件と、暮らしの条件が切り離されている
移住者が選んでいるのは建物だけではありません。
通勤できる仕事があるか。学校や病院、スーパーまで何分かかるか。雪かきや草刈りを続けられるか。自治会活動にはどの程度の参加が求められるか。こうした情報が不足すると、写真では魅力的な住宅でも候補から外れます。
一方、所有者や地域側は、長く住み、家を手入れし、地域活動にも参加する人を望むことがあります。二地域居住や短期賃貸を希望する人とは、住宅条件が一致しても利用目的が合いません。
ここがポイント: 空き家バンクのミスマッチは、検索条件の不足だけではありません。「貸すか売るか」「入居までにいくら必要か」「その地域で生活を続けられるか」を一つの案件として確認する必要があります。
自治体は仲介業者ではない
空き家バンクの中心的な役割は情報をつなぐことであり、自治体がすべての取引責任を負うわけではありません。
国土交通省の空き家・空き地バンク導入のポイント集では、自治体と宅地建物取引業者が連携する運営例が示されています。一般的な役割分担は次のようになります。
- 国:全国版サイトの構築支援、制度整備、モデル事業やデータ集約
- 自治体:所有者相談、登録審査、物件情報の公開、移住支援制度の案内
- 宅建業者:現地調査、価格査定、重要事項の説明、契約の仲介
- 建築・改修事業者:劣化状況の確認、工事内容と費用の見積もり
- 所有者:権利関係の整理、情報開示、家財処分、売却・賃貸条件の決定
- 利用希望者:現地確認、資金計画、生活条件の確認、契約判断
自治体職員だけで、物件の掘り起こし、撮影、相談、移住支援、宅建・建築の専門判断まで担うのは困難です。特に小規模自治体では、一人の担当者が複数業務を兼ねることもあります。
この人手不足は掲載内容にも表れます。写真が少ない、修繕履歴が分からない、通信環境や冬の生活費が書かれていないといった状態では、遠方の希望者は内見へ進みにくくなります。
全国版で見つけやすくなっても、成約率は別問題
全国横断の検索は入口を広げましたが、出口まで保証する仕組みではありません。
国土交通省によると、全国版空き家・空き地バンクには2026年6月末時点で1,146自治体が参加し、742自治体が物件を掲載しています。自治体アンケートなどで把握した累計成約は約2万6千件です。
ただし、この累計値を単純に全国の空き家900万戸で割って「ほとんど成約していない」と評価するのは適切ではありません。空き家統計とバンク登録物件では対象が異なり、成約の集計期間や報告方法にも注意が必要だからです。
一方で、国が2025年度の空き家対策モデル事業として、岡山県真庭市を予定地域に、成約要因を分析する事業を採択したことは重要です。
この事業では、成約データに人口動態や災害リスク、写真、説明文、価格などを組み合わせ、どの要素が成約に関係するかを調べます。掲載方法の改善、自治体業務の軽減、AIによる文案作成も検討対象です。
注目点は、単に広告を増やすのではなく、どの情報をどう示せば判断しやすくなるかをデータで確かめようとしていることです。ただし、掲載文を整えるだけでは、権利関係、改修費、交通、仕事といった物件外の問題は解消しません。
ネット上の期待は「格安物件」、現場の焦点は「総費用」
空き家を扱うネット上の投稿では、「低価格で家を持てる」「自分で改修するのが楽しそう」といった期待が見られる一方、耐震性や修繕費、車が必要な生活への不安も語られています。
この受け止めには、空き家バンクを「安い中古住宅の検索サイト」と見る視点があります。しかし現場で問われるのは、購入価格より広い条件です。
- 入居できる状態まで、何円と何カ月が必要か
- 補助金を使う前提でも自己負担に耐えられるか
- 通勤、通学、通院を日常的に続けられるか
- 数年後に転居するとき、売却や賃貸が可能か
- 地域との付き合いや住宅管理を誰が担うか
安さへの期待を否定する必要はありません。ただし、物件紹介に改修の必要性や生活コストが示されなければ、問い合わせが増えても内見や契約の段階で離脱が起きます。
成約を増やす鍵は、登録件数より「判断できる情報」
改善の焦点は、掲載数だけでなく、所有者と希望者が早い段階で現実的な判断を下せる状態をつくることです。
自治体側には、次の取り組みが考えられます。
- 所有者相談に司法書士、宅建業者、建築士をつなぐ
- 売買だけでなく、賃貸や段階的な利用の選択肢を検討する
- 写真、間取り、修繕履歴、残置物、災害リスクを共通項目にする
- 病院、学校、買い物、交通、通信環境まで物件情報と一緒に示す
- 補助金について、対象者、上限、自己負担、申請期限を一覧化する
- 問い合わせ数だけでなく、内見辞退や不成立の理由も記録する
利用希望者も、内見前に「物件価格」「入居前費用」「毎月の生活費」の三つを分けて確認する必要があります。ホームインスペクションや改修見積もりを契約前に行えるか、自治体窓口へ尋ねることも有効です。
今後の分岐点は、真庭市を予定地域とするモデル事業などで、成約を左右する情報項目と自治体の実務負担がどこまで可視化されるかです。
写真や説明文の改善で内見が増えるのか。それとも、賃貸物件の不足や改修費の大きさが最後まで壁として残るのか。次に見るべき数字は登録件数だけではなく、問い合わせから内見、契約へ進めなかった理由です。
