相続登記だけでは解けない「所有者不明土地」 地域に残る3つの壁
所有者不明土地が増えた最大の理由は、土地を相続しても名義変更が義務ではなかった時代が長く続き、世代交代のたびに相続人が増えたことです。2024年4月に相続登記が義務化されましたが、新たな放置を防ぐ制度だけで、すでに複雑化した土地の権利関係や管理問題が直ちに解消するわけではありません。
国の2024年調査では、不動産登記簿だけでは所有者の所在が分からない土地が全国の23%に上りました。ただし、この数字には追加調査で所有者へ連絡できる土地も含まれます。「国土の23%が完全に持ち主不明」という意味ではない点には注意が必要です。
この記事の要点は次の4つです。
- 相続未登記は、所有者不明土地が生まれる原因の約3分の2を占める
- 2024年4月より前の相続も義務化の対象で、原則として2027年3月31日が重要な期限になる
- 義務化は新規発生の抑制には効くが、過去の相続人調査や荒れた土地の管理までは代行しない
- 地域では、自治体の人員、境界情報、土地の利用需要という別の課題が残る
なぜ持ち主が分からなくなったのか
登記簿の名義と、現在その土地を受け継いでいる人が一致しなくなったことが出発点です。
土地の所有者が亡くなると、その権利は相続人へ移ります。しかし、以前は相続登記の申請が任意だったため、売却や融資の予定がない土地では名義変更を後回しにする例がありました。
その状態で次の相続が起きると、問題は一段複雑になります。例えば、祖父名義の土地を子ども3人が相続し、その3人も亡くなってそれぞれの子へ権利が移れば、話し合うべき人は各地に広がります。戸籍をたどって相続人を確認し、連絡先を調べ、合意を得なければならない場面も出てきます。
法務省によると、所有者不明土地の発生原因の約3分の2は相続登記の未了です。残りには、所有者が住所変更を登記しておらず、登記簿上の住所へ連絡しても届かないケースなどがあります。
「価値が低い土地ほど後回し」になりやすかった
もう一つの背景は、すべての土地が売れる資産ではなくなったことです。
人口減少が進む地域の山林、農地、細い道路にしか接していない宅地などは、維持や税負担がある一方、買い手がすぐに見つかるとは限りません。相続人が遠方に住んでいれば、現地確認や草刈りにも時間と費用がかかります。
登記をしても土地の市場価値が上がるわけではないため、手続きの優先順位が下がる。そうして名義が古いまま次の世代へ持ち越されてきました。
相続登記の義務化で何が変わったのか
2024年4月1日以降、相続で不動産を取得したと知った人は、原則3年以内に相続登記を申請する必要があります。
正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の対象となります。遺産分割が成立して不動産を取得した場合も、成立日から3年以内に、その内容に沿った登記が必要です。
特に確認しておきたいのは、制度開始前の相続も対象になることです。
- 2024年4月1日より前に相続を知り、未登記の不動産がある場合:原則2027年3月31日まで
- 2024年4月1日以降に相続による取得を知った場合:知った日から3年以内
- 遺産分割で取得者が決まった場合:遺産分割成立日から3年以内
期限は一律に「亡くなった日から3年」ではありません。いつ不動産の取得を知ったか、遺産分割がいつ成立したかによって判断が変わります。
話し合いがまとまらないときの「相続人申告登記」
遺産分割が期限内にまとまらない場合に備え、相続人申告登記も設けられました。自分が登記名義人の相続人であることを法務局へ申し出れば、申請義務を簡易に履行できます。登録免許税はかかりません。
ただし、これは最終的な所有者や持ち分を確定する手続きではありません。後に遺産分割が成立した場合は、その内容を反映した相続登記が別途必要です。
ここがポイント: 相続人申告登記は「期限に間に合わせる入口」であり、土地を売却・活用できる状態まで権利関係を整理する手続きではありません。
2026年2月には、亡くなった人が登記名義人となっている不動産を一覧化する「所有不動産記録証明制度」も始まりました。遠方の土地を含め、家族が把握していなかった不動産を確認しやすくする仕組みです。
義務化後も地域に残る3つの壁
法律が登記を促しても、土地を調べ、管理し、使い道を決める仕事は地域に残ります。
1.過去の相続人を探す作業は消えない
名義が数世代前のままなら、自治体や事業者は戸籍などをたどり、現在の相続人を確認しなければなりません。相続放棄の有無や、海外に住む相続人への連絡が問題になることもあります。
国土交通省が自治体職員向けに所有者探索のガイドラインを用意しているのは、通常の登記簿確認だけでは解決できない案件があるためです。道路整備、防災工事、農地の集約などで土地が必要になって初めて、古い権利関係が表面化する場合もあります。
2.「所有者」と「境界」は別の問題
所有者が判明しても、土地の境界が明確とは限りません。隣接地との境界が未確認なら、売買や公共工事を進める前に測量や調整が必要になります。
地籍調査は、市町村などが一筆ごとの所有者、地番、境界、面積を確認する事業です。しかし2023年度末の全国平均進捗率は53%で、細かく分割された都市部や、足場の悪い山村部では調査が難しい地域もあります。
相続登記と地籍調査は役割が違います。前者は名義を現在の権利関係へ近づけ、後者は現地の土地情報を明確にするものです。どちらか一方だけでは、土地を安全に利用できる状態にならないケースがあります。
3.持ち主が分かっても、使い手が見つからない
見落とされやすいのが、所有者不明と低利用の問題は同じではないことです。
登記が済んで所有者へ連絡できても、山間部の狭い土地や接道条件の悪い宅地に利用希望者が現れるとは限りません。草木の繁茂、害虫、土砂崩落などの懸念があれば、所有者だけでなく周辺住民や自治体にも管理上の負担が及びます。
国は、市町村が所有者不明土地対策計画を作り、所有者探索や土地の適正管理、低未利用地の活用に取り組む場合の補助制度を設けています。所有者不明土地を公園、防災施設など地域のために使う「地域福利増進事業」もあります。
それでも、制度を使うには対象地の調査、事業計画、住民との調整、管理主体の確保が必要です。担当職員や専門家が少ない自治体ほど、制度があっても案件化まで進めにくいという差が生じます。
国・自治体・住民は何を担うのか
所有者不明土地対策は、国がルールを作るだけでも、相続人が登記するだけでも完結しません。
役割を分けると、問題の所在が見えやすくなります。
- 国・法務局:登記制度を運用し、相続人申告登記や所有不動産記録証明制度を提供する
- 自治体:公共事業や防災、空き地対策などの必要に応じて所有者を探索し、対策計画や地域での活用を検討する
- 司法書士・弁護士など:相続関係が複雑な案件で、登記申請、書類作成、法律関係の整理を支援する
- 土地所有者・相続人:相続や住所変更を登記し、土地の状態を確認して管理・売却・活用を判断する
- 地域住民や民間団体:周辺への危険や管理不全を把握し、自治体への相談や地域利用の担い手となる
費用も一つの主体だけが負担するわけではありません。相続人には戸籍などの取得費、登録免許税、専門家へ依頼する場合の報酬が発生します。一方、自治体には所有者調査や安全対策、事業化の費用がかかり、国の補助制度がその一部を支えます。
なお、一定の相続登記には2027年3月31日まで登録免許税の免税措置があります。対象には、評価額100万円以下の土地などが含まれますが、申請内容によって扱いが異なるため、法務局の案内を確認する必要があります。
ネットで目立つ「登記しても土地を手放せない」という声
オンライン上で目立つのは、義務化そのものへの反対より、利用価値の低い土地を相続した後の出口が乏しいという不安です。
具体的には、次のような受け止めが見られます。
- 遠方の山林や農地をどのように調べればよいか分からない
- 登記や戸籍収集、専門家への依頼に費用がかかる
- 名義を変更しても買い手や管理の担い手が見つからない
- 国や自治体へ簡単に引き取ってもらえるわけではない
こうした投稿は個別の経験や意見であり、世論全体を示すものではありません。ただ、「登記の義務」と「不要な土地を手放せる仕組み」が同じではないという戸惑いは、制度を理解するうえで重要です。
土地を国庫へ帰属させる制度もありますが、審査があり、建物がある土地などは対象外となり得ます。承認後には負担金も必要です。相続登記の義務化を、土地の無条件な引き取り制度と混同しないことが大切です。
まず家族で確認したいこと
2027年3月31日の期限が近づくなか、最初にするべきなのは、家族が所有する不動産の所在と名義を確認することです。
特に、次のような事情があれば早めの確認が必要です。
- 固定資産税の通知に、現在の家族が使っていない土地が載っている
- 実家、山林、農地の名義が祖父母や曽祖父母のままになっている
- 遺産分割の話し合いが止まっている
- 相続人の一部が遠方や海外に住んでいる
- 土地の場所や境界を家族が正確に説明できない
不動産の所在地を管轄する法務局では登記手続案内を利用できます。権利関係が複雑なら司法書士や弁護士、境界や未登記建物の調査が必要なら土地家屋調査士への相談が選択肢になります。周辺への危険や管理不全が生じている土地については、所在する自治体の担当窓口への相談も必要です。
今後の分岐点は、期限までに相続登記がどこまで進むかだけではありません。自治体が古い案件を処理できる人員と専門知識を確保できるか、所有者が判明した土地に管理者や使い手を見つけられるかが問われます。
名義を現在へつなぎ直すことは第一歩です。その次に、誰が土地を管理し、地域でどう扱うかを決められるかが、2027年以降の本当の課題になります。
