英国がベイプ店・賭博店の出店規制へ、自治体は商店街を選べるようになるか|2026年8月28日版
英国政府は、ベイプ専門店や賭博店が地域の商店街に集中するのを抑えるため、自治体の権限を強化する方針を打ち出しました。核心は、空き店舗に何が入るかを市場任せにせず、地域への影響を踏まえて自治体が判断できるようにすることです。
ただし、発表された施策の多くはまだ実施前です。出店を一律に禁止する制度ではなく、計画許可や営業許可の段階で地域が拒否できる余地を広げる改革として見る必要があります。
- ベイプ専門店には、新たに計画許可を求める方針
- 賭博店の許可を後押ししてきた「Aim to Permit」の原則を撤廃する意向
- 自治体や住民が、店舗の集中や地域への影響を判断しやすくなる
- 一方で、空き店舗、ネット通販、自治体の執行体制といった問題は残る
何が変わるのか
今回の改革は、ベイプ専門店と賭博関連施設に対する二つの仕組みを見直すものです。
ベイプ専門店は計画許可の対象へ
英国政府の説明によると、現在は一般の小売店だった物件をベイプ専門店に変えても、用途上は同じ店舗として扱われ、改めて計画許可を得ずに営業できる場合があります。
政府はこの扱いを改め、ベイプ専門店を開く際に自治体の計画許可を必要とする方針です。自治体は、学校や住宅との位置関係、同種店舗の集中、商店街全体の構成などを審査に反映しやすくなります。
一方、コンビニエンスストアなどが商品の一部としてベイプ製品を販売する場合との線引きは簡単ではありません。店名ではなく、売り場面積や売上構成などを含めて「ベイプ専門店」をどう定義するかが、制度の実効性を左右します。
賭博店では「許可を目指す」原則を撤廃へ
より制度的に大きいのが、2005年賭博法の「Aim to Permit」と呼ばれる原則の見直しです。
英国議会下院図書館の解説では、現行制度の下で自治体は、個々の申請を需要の有無とは切り離して審査し、法の目的と整合する限り許可する方向で判断するよう求められています。つまり、「この地域にはすでに賭博店が多い」「住民が別の業種を必要としている」という理由だけでは拒否しにくい仕組みです。
政府はこの原則を撤廃し、新しい賭博店や24時間営業の成人向けゲームセンターが地域に適しているかについて、自治体の裁量を広げる考えです。
ここがポイント: 今回の方針は、ベイプや賭博そのものを全国一律で禁止するものではありません。店舗の立地と集中を、自治体が地域単位で調整できるようにする改革です。
なぜ商店街の店舗構成が政策課題になったのか
背景には、英国の「ハイストリート」と呼ばれる地域商店街の変化があります。
政府は、2016年以降にパブやバーが約1,800店減る一方、ベイプ・たばこ関連店は約2,200店増えたとの民間分析を引用しています。また、英国政府の集計では、成人向けゲームセンター約1,450施設の半数超が、所得などの指標で最も困窮している20%の地域に立地しています。
この数字が重要なのは、店舗数の増減だけを表しているからではありません。空き物件が増えた商店街では、短期間で開業でき、一定の需要を見込める業種が集まりやすくなります。その結果、住民が日常的に使う食料品店、飲食店、金融・公共サービスなどとのバランスが変わります。
ただし、ベイプ店や賭博店を減らせば、別の店が自動的に入るわけではありません。英国では小売売上の約3分の1がオンラインに移ったと報じられており、家賃、事業税、客足の減少という構造的な問題もあります。
出店を断る権限と、望ましい店を呼び込む力は別物です。 今回の改革が商店街再生につながるかは、この差を埋められるかにかかっています。
自治体に裁量を渡すメリットと難しさ
地方自治体側は、政府方針をおおむね歓迎しています。地方自治体協会(LGA)は、用途区分の変更によってベイプ店に計画許可を求められることや、地域に必要な店舗・サービスを自治体が形づくりやすくなる点を評価しました。
自治体が得るとみられる選択肢は、次のようなものです。
- 学校の近くなど、立地条件を踏まえて申請を審査する
- 特定の通りに同種店舗が集中するのを抑える
- 住民から寄せられた治安、健康、景観への懸念を判断材料にする
- 商店街の再生計画と個別の出店判断を結びつける
しかし、裁量が広がれば地域差も生じます。ある自治体では厳しく制限され、隣の自治体では許可される可能性があります。審査基準が曖昧なら、事業者にとって予見しにくくなり、不服申立てや訴訟が増えることも考えられます。
さらに、計画・許認可部門には専門職員と調査費用が必要です。権限だけを増やしても、違反店舗を調べ、証拠を集め、処分まで進める人員がなければ効果は限られます。
規制対象となる業界から見た争点
政府発表は、ベイプ店、賭博店、不正行為が疑われる事業者を商店街問題の文脈でまとめています。しかし、合法的に営業する事業者まで同一視してよいのかという論点は残ります。
賭博業界にとっては、地域の需要を理由に新規参入が制限されれば、既存店が有利になる可能性があります。ベイプ業界には、違法商品を扱う店への取締りと、法令を守る専門店への出店規制を分けるべきだという主張があり得ます。
行政が確認すべきなのは、看板の業種だけではありません。
- 違法商品の販売や年齢確認の不備があるか
- 犯罪収益の洗浄や脱税との具体的な関連があるか
- 店舗の集中が健康や治安にどのような影響を与えているか
- 規制後に空き店舗が増える場合、代わりの利用策があるか
店舗への印象ではなく、申請内容、違反歴、地域データに基づく審査にできるかが、公平性を保つ条件になります。
日本の商店街にも通じる論点
日本でも、空き店舗への出店を歓迎することと、地域に必要な業種を誘導することの間には隔たりがあります。自治体が補助金を出して開業を促しても、通常は民間物件の業種を自由に選べるわけではありません。
英国の動きから具体的に確認できるのは、規制を導入する前に次の三つを分けて考える必要があるという点です。
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問題のある営業を取り締まること
年齢確認、違法商品、営業時間、犯罪との関係などを既存法で監督します。 -
同じ業種の集中を調整すること
個々の店舗に違反がなくても、学校周辺や一つの通りへの集中を都市計画上の問題として扱います。 -
空いた物件の次の使い方を用意すること
家賃支援、創業支援、公共施設への転用などがなければ、規制後にシャッターが残るだけになりかねません。
英国の改革は、このうち二つ目を強化する試みです。商店街を構成する業種に自治体が関与する発想は注目に値しますが、三つ目まで実行できなければ、にぎわいの回復には届きません。
今後見るべき3つのポイント
現段階では政策方針の発表であり、実際の効果を評価するには制度の具体化を待つ必要があります。
- 施行時期と法的手続き:賭博法の改正や計画制度の変更が、いつ、どの地域に適用されるのか
- 対象店舗の定義:ベイプ製品も扱う一般小売店と専門店を、どの基準で区別するのか
- 空き店舗への対策:出店拒否と同時に、自治体が代替事業者を呼び込む資金や人員を持てるのか
最初の判定材料になるのは、規制対象の店舗数だけではありません。施行後に空き店舗率、生活サービスの数、違反摘発、住民の利用状況がどう変わるかです。「望まない店を止めたか」ではなく、「住民が使う商店街をつくれたか」まで測れる制度になるかが、次の焦点です。
