英国の通販安全規制、焦点は「売った人」から「並べた平台」へ|2026年6月8日版
英国政府が進めている製品安全ルールの見直しで、オンラインマーケットプレイスの責任が大きな焦点になっている。ポイントは、危ない商品を出した個別の販売者だけでなく、商品を並べ、検索させ、購入までつなぐ平台側にも安全確認や出品者管理を求める方向へ進むことだ。
背景にあるのは、ネット通販で買える安価なバッテリー、充電器、変換キットなどが家庭内の火災リスクと結びついている現実だ。英国政府の相談手続きは2026年6月23日に締め切られる予定で、今後の制度設計によっては「通販サイトで買ったから安心」とは言えない部分を、法律でどこまで埋めるかが問われる。
- 英国政府は2026年3月31日、製品安全制度を大きく見直す複数の協議を開始した
- 現行制度は2005年の一般製品安全規則を土台にしており、越境ECや平台型販売に追いつきにくい
- オンラインマーケットプレイスには、危険商品の掲載防止、出品者確認、購入前情報の表示などが求められる可能性がある
- e-bikeやe-scooter用のリチウムイオン電池火災が、制度見直しの具体的な圧力になっている
何が変わろうとしているのか
英国政府の狙いは、製品安全の責任を「メーカー」「輸入者」「販売者」だけで閉じず、オンライン上で商品流通を支える事業者にも広げることにある。
政府の新しい製品安全枠組みの協議文書は、オンラインマーケットプレイスを新たな対象として扱い、危険な商品が消費者の前に出る前に止める仕組みを求めている。
特に重要なのは次の3点だ。
- 危険商品の掲載防止: 平台側が、非適合または危険な商品を掲載させないための措置を取る
- 出品者の管理: 問題のある出品者が別アカウントで再出品するような抜け道に対応する
- 購入前の情報表示: 消費者が買う前に、警告、使用説明、安全情報を確認できるようにする
これまでの通販トラブルでは、消費者が問題のある商品を買った後に、販売者が海外にいる、連絡先が不明、平台は「場を提供しただけ」といった形で責任の所在がぼやけることがあった。今回の見直しは、そのぼやけた部分に制度上の線を引こうとしている。
なぜバッテリーが象徴的な問題になったのか
制度文書の中で目立つのが、リチウムイオン電池への言及だ。e-bike、e-scooter、変換キット、交換用バッテリー、充電器は、便利で安い一方、品質や互換性を誤ると火災につながる。
英国政府の発表も、リチウムイオン電池を使うe-bikeなどの火災を、制度更新が必要な具体例として挙げている。
問題は「製品」だけではない
バッテリー火災は、単に不良品が混じるという話にとどまらない。消費者がネットで安価な交換部品を探し、正規品ではない充電器や変換キットを組み合わせる場面でリスクが高まる。
ロンドン消防隊は2026年5月のe-bike火災の発表で、変換e-bike用リチウム電池の故障が原因とみられる火災に触れ、購入者に安全確認を促している。これは、制度論が実際の住まい、廊下、充電場所の問題につながっていることを示している。
消費者団体のElectrical Safety Firstも、政府協議への声明で、オンラインマーケットプレイスを危険な商品の主要な流入経路と位置づけ、e-bikeやe-scooter用バッテリーへの第三者認証などを求めている。
ここがポイント: 英国の議論は「ネット通販を便利にするか、規制するか」ではなく、平台が商品を見せ、売り、再出品を許す力を持つなら、安全面でも相応の役割を負うべきか、という問いに移っている。
企業側には何が重くなるのか
政府は別の市場監視・執行制度の協議も同時に進めている。ここでは、150を超える製品安全・計量関連の法令が重なり、執行が複雑になっていることが問題視されている。
企業側から見ると、主な負担は次のように整理できる。
- 商品が安全基準を満たすことを、販売後ではなく販売前から確認する
- 出品者の連絡先や事業実態を確認し、違反を繰り返す相手を排除する
- 当局から危険商品の削除や情報提供を求められたとき、迅速に対応する
- 紙のラベルだけでなく、デジタル表示も含めて安全情報を分かりやすく出す
ただし、これは平台側だけの問題ではない。英国市場に商品を出すメーカー、輸入者、販売代行業者、小規模な越境EC事業者にも影響する。政府は「責任ある事業者に公平な競争条件をつくる」と説明しているが、実務では安全情報の整備、取引先確認、記録保存が以前より重要になる。
日本の読者にとっての見どころ
日本でも、ネット通販で安価なバッテリー、充電器、家電、子ども用品を買うことは日常になっている。英国の制度見直しは、その買い方が普及した後で、行政がどこに責任を置き直すのかを見る材料になる。
特に注目したいのは、次の3点だ。
1. 平台責任の線引き
オンラインマーケットプレイスは、個々の商品を作っていない。それでも検索順位、出品者登録、レビュー表示、決済、配送導線を握っている。英国がどこまで平台側の義務を明文化するかは、日本の消費者保護やEC規制を考えるうえでも参考になる。
2. 危険商品の「再出品」対策
一度削除された商品や出品者が、名前やカテゴリを変えて戻ってくる問題は、多くの国で共通している。英国政府の文書は、こうした回避行為を前提に制度を作ろうとしている点が現実的だ。
3. 安全情報のデジタル化
政府は、UKCAマークや輸入者情報などを物理表示だけでなくデジタル形式でも扱えるようにする方向を示している。便利になる半面、消費者が購入前に必要な情報へ確実にたどり着ける設計が欠かせない。
今後の注目点
協議は2026年6月23日に締め切られる。そこから政府回答、二次法令、詳細ガイダンスへ進むため、すぐに全ルールが変わるわけではない。
それでも、見るべき点ははっきりしている。
- オンラインマーケットプレイスにどこまで法的責任を負わせるのか
- 小規模事業者に過度な負担をかけず、危険商品を止める実務が作れるのか
- e-bike、e-scooter、交換用バッテリーのような高リスク商品に追加認証が入るのか
- 消費者が購入前に安全情報を確認できる表示ルールになるのか
通販の安全は、もはや「買う人が気をつける」だけでは足りない。英国の見直しは、画面上の出品ボタン、検索結果、配送まで含めて、誰がどの段階で危険を止めるのかを制度で問い直している。
参照リンク
- GOV.UK: The UK’s new product safety framework
- GOV.UK: Major updates to product safety laws to ensure they’re fit for the modern age
- GOV.UK: Product regulation: market surveillance and enforcement framework
- Electrical Safety First: Statement Responding to the Government consultation on product safety
- London Fire Brigade: E-bike fire – West Ealing