豊岡市が基金27億円を取り崩す理由 自治体の「貯金」は多ければ安心なのか
自治体の基金は、単なる余ったお金ではありません。税収が落ちた年や災害時に行政サービスを止めないための資金であり、借金返済や施設整備など、使い道を決めて積み立てるものもあります。
兵庫県豊岡市の2026年度当初予算では、財政調整基金から計27億円を取り崩します。うち17億円は一般財源の不足を埋め、10億円は経営が厳しい公立豊岡病院組合への貸付原資に充てる計画です。問うべきなのは残高の多さだけではなく、何に備え、どのペースで使い、再び積み立てられるかです。
- 基金には、自由度の高いものと使途が限定されたものがある
- 豊岡市の財政調整基金は、2026年度当初予算時に約27億1,000万円となる見込み
- 一時的な取り崩しと、毎年の収支不足を埋める取り崩しは意味が違う
- 住民は基金残高だけでなく、使途と今後の収支見通しを確認したい
豊岡市では何が起きているのか
基金が、日常の予算不足と地域医療の緊急支援という二つの役割を同時に担っています。
豊岡市が公表した2026年度予算資料によると、2025年度末に約53億8,700万円を見込む財政調整基金は、当初予算時に約27億800万円まで減る計画です。
主な取り崩しは次の二つです。
- 歳出に対する一般財源の不足を補うための17億円
- 公立豊岡病院組合への貸付に充てる10億円
病院組合への支援は、地域振興基金から取り崩す9億1,350万円と合わせ、豊岡市分で19億1,350万円です。構成市の朝来市と合わせた支援総額は25億円。豊岡市議会は2026年3月、この貸付予算を認めました。
その後に示された貸付条件は、期間15年、最初の3年間は返済を据え置き、年0.55%の固定金利です。給付ではなく貸付なので、契約どおりなら元利金は市へ戻ります。ただし、病院側が返済できるかは今後の経営改善に左右されます。
公立豊岡病院組合は但馬地域で県立病院に代わる重要な役割を担う一方、2024年度に12億5,000万円の赤字を計上しました。市の説明では、2025年度も単年度で約16億円の赤字が見込まれています。基金の取り崩しは数字上の穴埋めにとどまらず、地域医療を維持するための緊急措置という面があります。
基金は一つの財布ではない
基金を見るときの第一歩は、種類ごとに使える目的が違うと知ることです。
財政調整基金
税収の急減、災害、物価高による経費増など、年度ごとの収支変動に対応する基金です。家庭に例えるなら、用途を細かく固定していない生活防衛資金に近い存在です。
今回の豊岡市では、一般財源の不足と病院への貸付の双方に使われます。自由度が高いからこそ、減り方を継続的に確認する必要があります。
減債基金
地方債、つまり自治体の借金を返すための基金です。将来の返済時期に備えて積み立てるため、残高があっても、すべてを新しい住民サービスへ回せるわけではありません。
特定目的基金
公共施設の整備、福祉、教育、地域振興など、条例で定めた目的のために積み立てます。豊岡市が病院支援に使う地域振興基金も、この分類です。
地方自治法241条は、自治体が特定の目的のために財産を維持したり、資金を積み立てたりする基金を設けられると規定しています。目的を限定した基金は、原則としてその目的に沿って処分しなければなりません。
ここがポイント: 自治体の基金残高を「自由に使える貯金」とみなすと実態を誤ります。財政調整基金、借金返済用、特定事業用を分けて見る必要があります。
なぜ積み立てが増えると「貯め込み」に見えるのか
全国の積立基金残高は大きな金額になるため、住民サービスにもっと使えるのではないかという疑問が生まれます。
総務省の地方財政白書によると、地方公共団体の積立金現在高は2022年度末で27兆6,360億円となり、前年度末から7.1%増えました。総務省は、税収が当初見込みを上回ったことに加え、災害や公共施設の老朽化対策などを見据えた積み立てが行われたと説明しています。
ただし、この全国総額だけでは個々の自治体が余分に抱えているかどうかは判断できません。人口や予算規模、災害リスク、公共施設の更新予定、地方交付税への依存度が異なるからです。
地方財政法7条も、決算で剰余金が出た場合、その2分の1以上を基金への積み立てか地方債の繰り上げ償還に回すよう定めています。決算の黒字がそのまま翌年度の新規事業へ向かう仕組みではないことも、残高が増える一因です。
「備え」と判断できる三つの条件
基金の積み立てが合理的な備えかどうかは、金額ではなく説明と計画から判断できます。
1. 使う目的と時期が見える
公共施設の改修や災害対応など、想定する支出と時期が示されていれば、積み立ての必要性を検証できます。目的だけを掲げ、使用時期や必要額を長年更新していない基金は、見直しの対象になり得ます。
2. 通常収入で賄えない一時的支出に使う
大規模災害や病院への緊急支援など、一度に発生する支出を平準化するのは基金本来の役割です。
一方、職員人件費や施設の通常運営費など、毎年発生する経費を継続的に基金で補う状態は長続きしません。豊岡市の場合も、病院支援だけでなく、一般財源不足を埋める17億円の取り崩しが続くかどうかが重要です。
3. 取り崩した後の回復策がある
基金は使うためにありますが、使った後も同じ支出構造が続けば残高は減り続けます。歳入の見通し、事業の見直し、貸付金の返済計画まで示されて初めて、備えを使った後の道筋が見えます。
誰が決め、住民はどこを確認できるのか
基金の設置や目的は条例で定められ、積み立てや取り崩しは予算・決算を通じて扱われます。予算案を作るのは市長部局ですが、原則として議会の議決が必要です。
住民が負担する市税を直ちに追加徴収して基金を使うわけではありません。それでも、基金が減れば次の災害や税収減に対応する余力が小さくなり、将来のサービス水準や借金に影響する可能性があります。
自分の自治体を確認するときは、公式サイトの「当初予算」「決算」「財政状況資料集」で、次の項目を見ると実態をつかみやすくなります。
- 基金を種類別に分けた残高
- 当年度の積立額と取り崩し額
- 取り崩しの具体的な使途
- 今後3~10年程度の残高見通し
- 毎年の一般財源不足を基金で補っていないか
- 貸付の場合は返済期間、金利、据置期間、回収リスク
基金をめぐる受け止めは、「住民へ還元すべきだ」という見方と、「災害や施設更新に残すべきだ」という見方に分かれがちです。しかし、どちらか一方では判断できません。今年使わなかった理由と、将来いつ使うのかを数字で説明できるかが、両者を分ける現実的な基準です。
次に見るべきは病院の返済計画と17億円の不足
豊岡市の基金取り崩しは、地域医療を守る緊急性が明確です。ただし、基金があるから病院経営の問題が解決したわけではありません。
今後の分岐点は次の三つです。
- 公立豊岡病院組合の構造改革で赤字幅が縮小するか
- 3年間の据置期間後、貸付金の返済を始められるか
- 一般財源不足を補う17億円規模の取り崩しが翌年度以降も続くか
病院への貸付金が戻り、通常予算の収支も改善すれば、今回の取り崩しは危機に備えた基金が役割を果たした例になります。反対に、赤字補填が繰り返されれば、残高の多寡ではなく財政構造そのものが問題になります。次年度予算でまず確認したいのは、基金の残額よりも、この二つの支出がどう変化したかです。
