免許を出しても先生は増えない 神戸市の募集から見える教員不足の「三つの詰まり」
教員不足が臨時免許状だけで解消しない最大の理由は、免許状が人材を生み出す制度ではないからです。学校側が候補者を見つけ、教育委員会が適格性を審査し、本人が実際の勤務条件を受け入れて初めて教壇に立てます。
神戸市は2026年7月24日、中学・高校の数学、理科、美術などを対象に、臨時免許状の授与を前提とする3学期任用の募集を始めました。免許を持たない人にも入口を広げる試みですが、募集から任用までは約5カ月。目の前の欠員を直ちに埋める仕組みではありません。
この記事の要点
- 臨時免許状は、学校側が採用候補者を確保した後に授与される
- 2025年度は始業日時点で全国4,317人、5月1日時点でも3,827人が不足した
- 正規採用の拡大で、従来の臨時講師候補が正規教員へ移り、代替要員の層が薄くなった
- 解決には免許の柔軟化だけでなく、採用時期、配置方法、仕事量を一体で変える必要がある
神戸市が広げたのは「入口」であって即応要員ではない
神戸市の募集が示すのは、臨時免許状にも選考と準備の時間が必要だという事実です。
市の制度では、普通免許状を持つ人を採用できない場合に限り、人物、学力、実務経験、健康状態について教育職員検定を行います。検定に合格し、兵庫県教育委員会から臨時免許状が授与された後、市が臨時的任用教員として任用します。
2026年度3学期任用の日程は次の通りです。
- 出願受付:2026年7月24日~8月23日
- 面接選考:9月9日~15日
- 合格発表:9月25日
- 任用開始:2027年1月4日
対象は中学校・高等学校の数学、理科、美術と幼稚園です。教科を限定しているのは、免許が「教員」という一括資格ではなく、学校種や教科に対応しているためです。
ここに最初の詰まりがあります。ある学校で数学担当が不足しても、地域にいる社会人なら誰でも配置できるわけではありません。必要な専門性を持ち、選考を通り、年明けから学校で働ける人を確保する必要があります。
全国9,898件の授与でも、3,827人の欠員が残った
臨時免許状はすでに相当数使われています。それでも不足が残るため、単なる制度の未活用では説明できません。
文部科学省によると、2024年度の臨時免許状授与件数は全国で9,898件でした。内訳は小学校4,604件、中学校2,037件、高校2,381件、特別支援学校610件などです。
一方、2025年度の「教師不足」調査では、始業日時点で4,317人を配置できませんでした。5月1日時点でも不足は3,827人で、学校に配当された定数に対する不足率は0.45%です。
- 小学校:1,699人、0.44%
- 中学校:1,031人、0.47%
- 高校:508人、0.33%
- 特別支援学校:589人、0.71%
臨時免許状の授与件数は1年間のフローであり、不足数は特定時点の欠員です。対象者や集計方法も異なるため、両者を単純に差し引くことはできません。
それでも、年間約1万件の臨時免許状が授与される一方で数千人規模の欠員が残ったことは重要です。免許状を発行できることと、必要な学校へ必要な時期に人を置けることは別問題なのです。
ここがポイント: 臨時免許状は「採用できない法的障壁」を下げますが、候補者の発見、勤務地との一致、勤務条件への納得、着任までの研修を自動では解決しません。
不足を生む主因は「代替要員のプール」が細ったこと
現在の不足は、新卒採用だけでなく、産休や病休を代替してきた臨時講師層の縮小によって起きています。
正規採用が増えるほど臨時講師候補は減る
文部科学省は、教員の年齢構成を背景に大量退職と採用拡大が進んだ結果、従来は臨時講師として働きながら採用試験に再挑戦していた人が正規採用されたと分析しています。
正規採用が増えること自体は望ましい動きです。しかし学校現場は、産休・育休、病気休職、年度途中の退職が出た際、臨時講師の登録者から代替者を探してきました。正規枠を満たすほど、その登録名簿に残る人が少なくなるという逆説が生じます。
採用試験の既卒受験者は2015年度から2025年度にかけて47.1%減少しました。民間企業に就職する人や、すでに別の学校で働いている人もいます。臨時免許状を出せるようにしても、応募する本人がいなければ配置には至りません。
若手の増加が代替需要も押し上げる
大量採用で若手教員が増えると、産休・育休を取得する教員も増えます。これは休暇制度が利用されている結果であり、取得そのものを問題視すべきではありません。
課題は、年度途中に必要となる代替者をあらかじめ確保できていないことです。さらに、特別支援学級の在籍者は2015年度の20万1,493人から2025年度には41万9,700人へ増加しました。学級数が増えれば、必要な担任や支援担当も増えます。
つまり現場では、次の二つが同時進行しています。
- 臨時講師になり得る人は正規採用や民間就職によって減る
- 産育休や特別支援学級への対応で代替・増員需要は膨らむ
免許制度だけでは埋められない第二の詰まりです。
「採用」と「配置」のずれが年度途中に表面化する
人数が足りていても、必要な時期・地域・教科が合わなければ学校では不足になります。
教員採用は通常、翌年度の児童生徒数、学級数、退職者数などを見込んで進められます。しかし、病休や退職、特別支援学級の増設は見込みを上回ることがあります。
文部科学省の調査では、5月1日時点で小学校の学級担任1,086人に代替が必要となり、299校で担任不足が発生していました。別の教員が担任に回ると、本来予定していた少人数指導、児童支援、教務などの担当が空きます。
表面上は学級担任が置かれていても、学校の中では次のような調整が起こり得ます。
- 指導体制を充実させるための教員を担任へ回す
- 主幹教諭や教務主任が学級を担当する
- 校長、副校長、教頭が授業や校務を補う
- 非常勤講師の勤務時間を組み合わせる
欠員の影響は「授業が完全に止まる」場合だけではありません。本来なら複数の教員で行う支援が縮小し、残った教員の授業準備や保護者対応が重くなる形でも現れます。
免許を広げても働き方が同じなら応募は増えにくい
第三の詰まりは、入職資格を緩めても、その先にある仕事の重さは変わらないことです。
教員志望経験のある学生を対象とした調査では、教職科目を履修しなかった理由として、民間企業などへの志望が強かったとの回答が55.9%でした。必要単位の多さは29.9%、学校関係者から聞いた勤務実態への不安は21.8%、報道で知った勤務実態への不安は21.2%です。
臨時免許状は履修単位という入口の負担を軽くできます。しかし、着任後に担当するのは授業だけではありません。学級運営、成績処理、保護者との連絡、校内会議、生徒指導などが加わります。
しかも臨時的任用は、正規採用と異なり任期を伴います。学校が求めるのがフルタイム勤務である一方、候補者が現在の仕事を辞めずに週数日だけ教えたい場合、条件が合いません。
文部科学省が短期間の欠員に対応する「日本版サプライティーチャー」の実証や、企業に在籍したまま教員として勤務する方法を検討しているのは、このミスマッチを小さくするためです。
ネットでは「質への不安」と「まず環境改善を」の声
受け止めは、免許を柔軟にすることへの期待だけでなく、教育の質や待遇への懸念にも分かれています。
福岡県の「県民の声」には、臨時免許状の発給で教育の質が低下しないかという意見が寄せられました。県教育委員会は、校長や市町村教育委員会が適格性と教科指導力を認めた候補者について申請し、県が法令に基づいて審査すると回答しています。
SNS上でも、専門性を持つ社会人が学校へ入ることを評価する声がある一方、教員不足の深刻さへの驚きや、免許の入口を広げる前に仕事量と待遇を改善すべきだという反応が見られます。
この二つは必ずしも対立しません。多様な人材を受け入れるなら、選考後の研修、授業準備への支援、相談できる教員の配置までセットにする必要があります。現職教員の負担を減らすことは、新しく入る人が定着する条件にもなります。
次に見るべきは「何枚出したか」ではなく定着と配置
今後の判断軸は、臨時免許状の発行件数より、欠員がいつ埋まり、誰が仕事を支え、その人が残れたかです。
文部科学省は、正規教員比率の向上、産育休代替者の前倒し任用、支援スタッフの拡充、免許保有者向け研修、人材バンクの構築などを対策に挙げています。いずれも、免許制度の外側にある採用・配置・働き方へ踏み込むものです。
保護者や地域住民が自分の地域で確認したいのは、次の点です。
- 年度当初だけでなく、年度途中の欠員数を公表しているか
- 担任不足を校内の兼務だけで補っていないか
- 臨時・非常勤教員に研修や相談担当者を用意しているか
- 事務作業や連絡業務を支える職員が配置されているか
- 正規採用と代替者確保を別々に計画しているか
神戸市の募集で採用された人が教壇に立つのは2027年1月です。それまでの欠員を誰が支えるのか。そして着任後、本人が次年度も学校で働きたいと思えるのか。この二つへの答えがなければ、臨時免許状を増やしても不足は繰り返されます。
