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スペインの「インターン法案」は何を変えるのか 無給実習の線引きが厳しくなり、大学と企業に重い宿題

スペインの「インターン法案」は何を変えるのか 無給実習の線引きが厳しくなり、大学と企業に重い宿題

スペイン政府は2026年3月3日、無給を含む学生実習の扱いを見直す「非労働型の実務研修に関する法案」を閣議決定し、議会に送った。結論を先に言えば、学生実習そのものを広げる法案ではなく、実習の名目で若者を安く使う余地を狭める法案だ。

とくに重要なのは、実習が正式な学位課程や職業訓練、公的就業サービスのコースに結び付いていなければ、実質的な雇用とみなされやすくなる点だ。企業が人手不足の穴埋めに実習生を使ってきた場面には、かなり厳しい線が引かれる。

  • 2026年3月3日にスペイン政府が法案を議会送付
  • 実習と雇用の境界を明確化し、置き換え雇用を防ぐのが柱
  • 企業には書面契約、個別の訓練計画、二重の指導体制などを要求
  • ただし2026年4月3日時点ではまだ法案段階で、成立も施行も済んでいない
目次

まず何が変わるのか

今回の法案でいちばん大きいのは、実習の条件がかなり細かく定義されることだ。スペイン政府の公表内容では、実習は大学の公式課程、職業訓練、または公的雇用システムが定める学習に結び付いていなければならない。

逆に言えば、その枠から外れた「なんとなく経験を積むためのインターン」は通しにくくなる。さらに、実習生が通常の従業員の仕事を置き換えていた場合や、学習計画と実際の業務が結び付いていない場合は、労働関係とみなす前提が強まる。

ここがポイント: この法案の核心は、無給実習を全面禁止することではない。「学習の場」と「労働力の安売り」を法的に切り分け直すことにある。

企業に課される主な義務

スペイン政府の説明では、企業側には次のような条件が課される。

  • 認可された教育機関と書面の協定を結ぶ
  • 実習ごとに個別の訓練計画を用意する
  • 企業側と教育機関側の二重の指導担当者を置く
  • 指導担当者1人あたりの同時受け入れは原則5人まで
  • 従業員30人未満の職場では指導担当者1人あたり3人まで
  • 実習生数は職場の総人員の20%を超えない
  • ただし企業規模にかかわらず2人までは受け入れ可能

この設計を見ると、標的は大企業だけではない。むしろ、少人数の事業所ほど「実習で回していた仕事」を続けにくくなる。

実習生の権利はどこまで増えるのか

法案は、実習生に対しても一定の権利を明記する。

  • 実習参加のために金銭を払わせることを禁止
  • 交通費など実習に伴う費用の補償を受ける権利
  • 職場のサービス利用
  • 休息日、祝日、休暇の尊重
  • 安全衛生とハラスメント防止の保護

労働監督も強化され、スペイン政府は違反時の制裁金が最大22万5,018ユーロに達すると説明している。ここまで踏み込んだのは、単なる学生支援策というより、労働行政として不正実習を減らしたい意思が強いからだ。

すでに下地はできていた

この法案は突然出てきたわけではない。スペインでは2024年1月1日から、有給・無給を問わず学生実習を社会保障制度に組み込む仕組みが始まっている。社会保障当局の案内ページでも、その扱いは明記されている。

政府は2026年3月3日の閣議後、2024年1月1日以降の無給実習で社会保障への加入実績を持つ若者が200万人を超え、その56%が女性だったと説明した。つまりスペインはこの2年あまりで、「実習は完全に制度の外」という状態からかなり離れている。

今回の法案は、その次の段階だ。社会保障の対象に入れたうえで、今度は「そもそもそれは実習と呼べるのか」を詰めにきた。

いちばん影響を受けるのは誰か

法案の影響は、学生だけでなく大学、職業訓練校、企業の人事や現場責任者に広がる。

学生にとっての意味

学生側には、費用補償や休暇、監督体制の明文化というメリットがある。無給実習でも、少なくとも「学習の名目で何でもやらされる」状態には歯止めがかかりやすくなる。

一方で、受け入れ先が減る懸念もある。教育効果の確認、書面協定、指導者配置まで求められるなら、実習を軽く受け入れていた事業所は手を引く可能性がある。

大学と訓練機関にとっての意味

大学側は、不正防止の方向性にはおおむね賛成でも、実務を回せるかどうかで強い警戒感を示している。スペイン大学学長会議(CRUE)は3月4日、法案の見直しと財源保証を求め、実習の教育的価値を認めつつも、現場への負担が大きいと訴えた。

ここが重い。実習先の確保が難しくなれば、学位取得に必要な外部実習そのものが詰まりかねないからだ。理念だけでなく、誰が事務コストを負担するのかが争点になる。

企業、とくに中小事業者にとっての意味

企業にとっては、安価で柔軟な「実習枠」が実質的に縮む可能性がある。教育計画と実務がずれていれば雇用認定のリスクが上がり、違反時の制裁金も重い。

実習を人材育成の入口として丁寧に運用している企業には対応可能でも、繁忙期の補助要員として使ってきた職場では、採用か縮小かの判断を迫られるだろう。

それでも成立は簡単ではない

この法案は、2026年4月3日時点ではまだ成立していない。議会での審議が残っており、そこが最大の関門だ。

スペイン紙El Paísは、法案の議会通過が簡単ではないと報じている。報道では、企業側や大学側の反発に加え、与党の通常協力勢力の一部にも不満がある。とくに、実習への報酬支払いを義務化していない点は左派側からも物足りないと見られている。

ここは少しややこしい。政府は「搾取防止」を前面に出しているが、反対側の論点は一つではないからだ。

  • 企業側は受け入れ負担の増加を問題視
  • 大学側は財源と運営体制の裏付け不足を問題視
  • 一部の政治勢力は、むしろ報酬義務が弱いと問題視

つまり、「厳しすぎる」という反発と「まだ甘い」という不満が同時に存在する。このため、修正を経て別物になる可能性もある。

日本から見るとどこが面白いか

日本でも、インターンが採用広報なのか、教育なのか、実務労働なのかが曖昧になる場面は珍しくない。スペインの動きが興味深いのは、その曖昧さを道徳論ではなく、人数制限、指導上限、費用補償、雇用認定という具体的なルールに落とし込んだことだ。

参考になるのは、次の3点だ。

  • 実習を認めるなら、学習内容を文書で示す
  • 実習生が従業員の穴埋めをしていないかを点検する
  • 受け入れ先の善意任せにせず、費用や監督の責任を制度化する

逆に言えば、ルールを細かくするだけでは足りない。大学、企業、行政のどこがコストを持つかまで詰めなければ、実習の受け皿が細る。

今後の注目点

このニュースの見どころは、法案の理念より次の3点だ。

  • 議会審議で、報酬義務や時間上限がどこまで修正されるか
  • 大学や中小企業向けの財政支援が付くか
  • 不正実習の抑制と、受け入れ先減少のどちらが強く出るか

スペインは2024年1月1日に実習生を社会保障に組み込み、2026年3月3日に今度は実習の線引きを厳しくしようとしている。次に見るべきなのは、若者保護の強化がそのまま実習機会の縮小に変わってしまわないか、その一点だ。

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