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公共トイレの数は何で決まる? 西宮・千葉・京都に見る「減らす、直す、借りる」の選択

バリアフリー化された公園の公共トイレを市民が利用する様子。

公共トイレの数は何で決まる? 西宮・千葉・京都に見る「減らす、直す、借りる」の選択

公共トイレが減るか、整備が進むかを分けるのは、人口だけではありません。利用頻度、滞在時間、老朽度、近隣施設で代替できるか、改修後も清掃費を負担できるか。自治体はこれらを比べ、残す場所へ予算を集中させ始めています。

兵庫県西宮市は、公園トイレ約20カ所を更新する一方、約15カ所を撤去する計画です。対照的に千葉市は、身近な公園のトイレ248棟を対象に、清掃強化や洋式化、建て替えを進めています。京都市には、民間・地域所有のトイレを「観光トイレ」として活用する仕組みがあります。

この記事で分かることは、次の4点です。

  • 西宮市が更新と撤去を同時に進める理由
  • 公共トイレに建設後も費用がかかり続ける仕組み
  • バリアフリー化が単なる便器交換では済まない理由
  • 自治体が「減らす、直す、借りる」を判断する際の注目点
目次

西宮市は99カ所を一律に残さない

西宮市の方針で重要なのは、古い順に建て替えるのではなく、公園ごとの必要性を先に判定する点です。

市が2026年4月に公表した公園トイレ中長期ビジョンは、2025年度から2038年度までを計画期間とし、2024年度末時点の単独棟トイレ99カ所を対象にしています。

現状は厳しく、約半数が築30年超、約2割が使用目安年数を超過しています。一方、多機能トイレを備えた施設は約4割です。古い施設をすべて同じ仕様で建て直せば、工事費だけでなく、その後の清掃、光熱水費、点検、修繕も長期間続きます。

そこで市は、公園を必要性に応じて5グループに分け、既存トイレについて次の判断を組み合わせます。

  • 公園単位では「存続」「将来的に廃止」「更新時に方針検討」
  • トイレ単位では「維持」「更新」「撤去」
  • 計画期間中の目標は更新約20カ所、撤去約15カ所

「長く滞在する公園か」が分かれ目になる

必要性が高いとされるのは、利用者の長時間滞在が見込まれる公園です。遊具や運動施設があり、広い範囲から人が訪れる場所では、途中で別施設のトイレへ移動するのが難しいからです。

逆に、短時間利用が中心で、利用者が少なく、近くに代替施設もある小規模公園では、独立したトイレ棟を残す優先度が下がります。つまり、トイレの数は公園数に比例して決まるのではなく、利用行動と周辺環境から再計算されるようになっています。

ここがポイント: 撤去は維持費を減らしますが、残すトイレへ改修費と清掃費を集中できなければ、利用者にとっての改善にはなりません。問われるのは削減数ではなく、削減後の使いやすさです。

維持費は「水道代」だけではない

公共トイレの重荷は、建設費より長く続く維持管理です。

北海道恵庭市が公園管理の検討資料で示した試算では、季節営業の公衆トイレ1カ所について、清掃、上下水道、電気、開栓・閉栓を合わせた年間維持管理費は18万7,000円でした。91カ所なら年約1,701万7,000円です。

さらに、街区公園トイレの更新費を1カ所約1,500万円と試算しています。91カ所すべてを同様に更新すると約13億6,500万円です。実際の維持費は一括管理によって試算より安いとされていますが、施設数が増えるほど固定的な負担が積み上がる構造は変わりません。

費用には、次のような地域差もあります。

  • 寒冷地では冬季閉鎖や凍結対策が必要になる
  • 利用者の多い都市公園では清掃回数を増やす必要がある
  • 破損や不法投棄が多い場所では修繕・巡回費が膨らむ
  • 浄化槽を使う地域では下水道接続地域と管理条件が異なる
  • 夜間利用を想定する場所では照明と防犯対策が欠かせない

旭川市では、利用頻度が極めて少ない公園トイレと水飲み場を休止し、維持管理費の見直しと節電・節水を進めています。これは単なる老朽化対策ではなく、利用量に対して毎年の管理負担が妥当かを見直す動きです。

千葉市は「数」より全体の使いやすさを底上げ

トイレ整備を進める自治体でも、すべてを高額な建物に置き換えるわけではありません。千葉市は、小さな改善と重点的な建て替えを分けています。

市の公園トイレ快適化の取り組みは、226公園の248棟を対象に、2024年度から2033年度まで進める計画です。

ほぼ全棟に行う改善

まず、広い範囲を対象とする「ベースアップ対策」があります。

  • 清掃頻度を増やす
  • 便器を洋式化する
  • 手洗いを自動水栓にする
  • 照明をLED化する
  • 周辺の樹木を剪定・間伐し、暗さや死角を減らす

これとは別に、老朽度などを踏まえ、建て替えを年2棟、内外装などの補修を年3棟の目安で進めます。限られた予算で全体の最低水準を上げながら、傷みの激しい施設には大きな工事を行う二段構えです。

利用者が求めているのは豪華さより基本性能

千葉市の2023年度ウェブアンケートでは、回答者1,737人のうち、公園トイレを「非常に快適」「やや快適」とした割合は35.9%でした。不快とした人が挙げた理由は、「汚く、不衛生」が75.5%、「臭い」が54.5%、「建物内や周辺が暗く、防犯・安全面で不安」が33.4%です。

ここから見えるのは、デザイン性を高めるだけでは評価が変わらないということです。清掃が追いつき、臭いが抑えられ、入口まで明るい。そうした日々の管理が、建て替え後も続かなければなりません。

市は「快適」と感じる市民の割合を10年後に50%超へ引き上げる目標を掲げています。完成棟数だけでなく、利用者の評価を成果指標にした点が重要です。

バリアフリー化は面積と配置の問題でもある

既存トイレの洋式便器を交換するだけでは、車いす使用者、オストメイト、乳幼児連れ、介助者が使える施設にはなりません。

必要になる設備や空間は利用者によって異なります。

  • 車いすが転回できる広さと段差のない動線
  • 手すり、低い位置の洗面台、使いやすい扉
  • オストメイト対応設備
  • おむつ交換台や乳幼児用設備
  • 異性介助でも入りやすい個室
  • 視覚障害者にも認識しやすい案内

古い小規模トイレでは、これらを既存の床面積に収められない場合があります。建物を広げれば工事費が増え、園路や植栽にも影響する。結果として、利用の少ない複数棟を残すより、主要な公園に十分な広さを持つトイレを配置する判断が出てきます。

一方、多機能トイレ一室にすべての機能を集めると、利用が重なったときに待ち時間が長くなります。国土交通省は2026年6月、女性用トイレの行列問題も踏まえ、トイレの便器数に関するガイドラインを公表しました。今後は「バリアフリー個室が一つあるか」だけでなく、利用者数、男女別の待ち時間、機能の分散配置まで確認する必要があります。

京都市は民間トイレを地域の受け皿にする

公共トイレを確保する方法は、自治体が建物を所有することだけではありません。京都市は、寺社や店舗などのトイレを一定の要件で「観光トイレ」に認定し、所有者へ維持管理費や整備費の一部を助成しています。

京都市の観光トイレ制度では、民間・地域の既存施設を来訪者に開放することで、利用可能なトイレの網を広げています。洋式化などの改修にも助成があり、自治会や個人が所有する非事業用施設には、新設やバリアフリー化工事について上限600万円の枠が示されています。

この方式には明確な利点があります。

  • 自治体が土地を取得して新築するより早く整備できる
  • 観光客が集中する場所へ柔軟に配置できる
  • 既存建物と管理者を活用できる

ただし、開放時間、案内表示、清掃水準、所有者が制度から離脱した場合の代替先など、公共施設とは異なる不確実性もあります。「借りる」方式は万能ではなく、自治体直営のトイレを補完する仕組みとして見るべきでしょう。

ネット上に見える反応は「清潔さ」と「使える設備」に集中

自治体がウェブ上で公開している市民の声を見ると、要望は単純な増設だけではありません。

千葉市には、稲毛海浜公園の古く汚れたトイレの改修を求める声が寄せられました。市は、建て替えで洋式便器やおむつ交換台を導入し、別のトイレではごみ対策を行ったと回答しています。また、地域との意見交換では、女性用トイレがないことや、手洗い場が清潔でないことも問題として挙げられました。

名古屋市の「市民の声」には、子どもが和式で汚れたトイレの使用を嫌がり、別施設のトイレへ移動すると30人以上の列ができていたという投稿も掲載されています。

これらはSNS全体の世論を示す統計ではありません。しかし、子ども連れ、高齢者、障害のある人にとっては、近くに建物があるだけでなく、実際に入れて、必要な設備があり、安心して使えることが重要だと分かります。

次に確認すべきは「撤去後」と「改修後」

公共トイレ政策を評価するとき、増減だけを見ると判断を誤ります。自治体の計画や予算では、次の点を確認する必要があります。

  • 撤去対象は利用者数や代替施設まで調べて選ばれたか
  • 車いす利用者が移動できる距離に代替トイレがあるか
  • 更新後の清掃頻度と修繕費も確保されているか
  • 女性用個室や子ども用設備の不足が解消されるか
  • 災害時の避難場所として使う公園のトイレを残すか
  • 民間施設を活用する場合、開放時間と継続性を担保できるか

西宮市の約15カ所撤去は、公共トイレを一律に減らす話ではありません。残す場所を選び、約20カ所を更新する再配置です。その成否は、撤去後に困る人がいないかを検証し、残した施設のバリアフリー化と清掃水準を実際に引き上げられるかで決まります。

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