学校に入る清掃員・修理業者も全員審査へ 豪NSW州が広げる子どもの安全網|2026年8月29日版
オーストラリア・ニューサウスウェールズ(NSW)州では、2026年9月1日から、公立学校の敷地に入るすべての請負業者に有効な有償の「Working with Children Check(WWCC、子どもと働く人への適格性確認)」が必要になります。
対象は、日常的に児童・生徒を指導する人だけではありません。修理業者や設備保守担当者に加え、トイレの衛生用品を補充したり、ごみ箱を空にしたりする清掃員にも適用されます。 学校の安全を、職種ではなく「誰が敷地に入るか」で管理する方向への転換です。
- 9月1日以降、有効なWWCCがなければ原則として校内に入れない
- 個々の学校が直接発注した業者も対象になる
- 到着時には訪問者用アプリでの記録と顔写真付き身分証の提示も必要
- 児童・生徒と接触しないよう隔離された工事区画などには例外がある
何が変わるのか
NSW州教育省は、これまで職務や契約形態によって異なっていた確認を、学校へ出入りする人全体へ広げます。
対象となるのは、施設の維持管理を担う請負会社や地元業者、一般工事業者、その従業員です。州政府の調達情報では、各学校が直接契約する業者も含め、すべての請負業者が要件を満たす必要があると説明されています。
申請済みでも、確認が終わるまでは入れない
一般的なWWCC制度では、職種によっては申請番号を得た段階で働き始められる場合があります。しかし、今回の学校向け運用では、9月1日以降、有効なWWCCが確認されていなければ学校敷地へ入れません。
請負業者は事前に、次のいずれかの手続きを済ませる必要があります。
- デジタル申告を行い、WWCCの確認を受ける
- 雇用主が施設管理システムを通じて情報を提出し、教育省の担当部署による確認を受ける
現場に着いた後も、作業番号の確認、学校事務室でのチェックイン、政府発行の顔写真付き身分証の提示が求められます。生年月日の登録も必須となり、学校側が訪問者と審査情報を照合できる仕組みです。
清掃員まで含める理由
通常のWWCCは、子どもと対面し、接触が付随的な範囲を超える「子どもに関係する仕事」を中心とした制度です。一方、教育省の新ルールは、作業内容ではなく学校敷地への立ち入りを基準にしています。
そのため、児童・生徒へのサービスを直接提供しない清掃員や保守担当者も対象です。教育省は、衛生用品の補充や汚物入れの回収だけを担う清掃員についても、WWCCが必要だと明記しました。
ここがポイント: 教員や支援員だけを調べる制度ではなく、学校の日常を裏側で支える外部作業員まで同じ入口管理に組み込む措置です。
背景には請負業者の審査体制の見直し
今回の変更は、2025年11月に教育省が実施した請負業者の審査手続きの見直しを受けたものです。目的は、児童・生徒と職員を守るため、学校に出入りする外部人材の確認を強化することにあります。
導入は一度に行われたわけではありません。
- 2026年1月31日までに、既存の施設保守業者などへ全国調整犯罪歴確認(NCCHC)を要求
- 7月1日から、新たに契約する施設保守・地元・一般工事業者へ有償WWCCを義務化
- 8月31日までに、既存業者も有効なWWCCを取得
- 9月1日から、学校が直接契約する業者を含めて全面適用
犯罪歴確認とWWCCは同じものではありません。WWCCは子どもに関係する仕事への適格性を確認する制度で、認定は原則5年間有効です。転職しても有効期間内なら新たに取り直す必要はありませんが、学校側や雇用主による有効性の確認は必要です。
この段階導入は、学校側の安全管理だけでなく、請負会社の人員配置にも関わります。確認が間に合わない作業員は、9月1日以降、認定されるまで校内の仕事に入れないからです。緊急修理や日々の清掃でも代替要員の確保が必要になる可能性があります。
全工事を一律に止める制度ではない
敷地内の作業でも、児童・生徒と物理的に分離された現場には例外があります。
WWCCが不要とされるのは、主に次のようなケースです。
- 建設業者の管理下にある、まだ開校していない新設校
- 稼働中の学校内でも、フェンスで隔離された工事区画
- 学校敷地を通らない専用の出入り口が設けられた区画
ただし、稼働中の校内を通って出入りする場合は対象になります。工事完了後の不具合確認や修理で学校側へ引き渡された区域に入る場合も、WWCCが必要です。
つまり判断基準は、工事の名称や契約規模ではありません。児童・生徒がいる学校空間へ入る可能性を、物理的に排除できているかが分かれ目です。
宗教教育・倫理教育の認定講師には別の移行期間が設けられ、確認期限は2027年の第1学期初日まで延長されています。制度が全訪問者へ同じ日程で適用されるわけではない点には注意が必要です。
安全強化と現場運用の両立が焦点
対象を広げれば、これまで確認の外側にいた人も継続的な管理に入ります。一方で、制度が機能するかどうかは、審査の厳しさだけでは決まりません。
学校側に求められること
学校は、作業当日に書類を見るだけでなく、事前確認と入退場記録を結び付ける必要があります。個別に発注した小規模事業者にも同じ要件を案内しなければなりません。
請負会社に求められること
請負会社は、現場へ送る全員の認定状況を管理する必要があります。申請中の作業員を派遣できないため、審査の遅れを見越した勤務調整も必要です。申請費用は本人または雇用主が負担します。
制度の効果を左右すること
チェックを取得した事実だけで安全が完成するわけではありません。WWCCの有効性を事前に確認し、当日の本人確認を行い、失効や認定取り消しを継続的に把握する運用が欠かせません。
日本の学校にも関係する論点
日本でも、学校には給食、清掃、空調、通信設備、教材配送、工事など、多くの外部事業者が出入りします。直接子どもを指導しない業者を、どこまで共通の確認対象にするかは同じ課題です。
NSW州の制度から読み取れるのは、単に「犯罪歴を調べる」という話ではありません。学校が確認すべき対象を具体的に定め、契約前、来校前、入校時の各段階で情報を照合する設計です。
日本で検討するなら、少なくとも次の場面を分けて考える必要があります。
- 児童・生徒がいる時間帯に校内を移動する作業
- フェンスや専用動線で完全に隔離できる工事
- 緊急修理のように事前登録が難しい作業
- 学校が直接発注する小規模・短時間の業務
一律の審査だけを導入すると、地方の小規模事業者や緊急対応に負担が集中しかねません。反対に、短時間の作業をすべて例外にすれば、安全管理には穴が残ります。NSW州が示した「接触の可能性」と「物理的な隔離」を軸にした区分は、現場で線を引く際の具体的な材料になります。
9月1日以降に見るべき3点
制度の本当の評価は、全面適用後の運用で決まります。
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清掃や緊急修理が滞らないか
認定待ちによる人員不足や、学校設備の維持への影響が焦点です。 -
学校ごとの確認にばらつきが出ないか
州全体のルールでも、直接契約した業者への周知と受付は各現場の実務に左右されます。 -
例外区画を正しく管理できるか
フェンスや専用出入り口が、書類上だけでなく実際に児童・生徒との接触を防げる状態かが問われます。
9月1日はゴールではありません。清掃員や修理業者を含む広い安全網を、学校の日常業務を止めずに維持できるか。次に確認すべきなのは、認定件数ではなく、現場で起きる作業の遅延、例外運用、本人確認の精度です。
