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タイヤは規制へ、衣類は対策待ち――見えないマイクロプラスチック排出の現在地

タイヤと衣類から生じる微細な粒子の流出経路を表したイメージ。

タイヤは規制へ、衣類は対策待ち――見えないマイクロプラスチック排出の現在地

マイクロプラスチック対策は、レジ袋やストローの削減だけでは捉えきれない段階に入った。日本では、タイヤの摩耗粉や洗濯時の繊維くずについて、発生を減らす啓発と調査が進んでいる。一方、製品の販売条件となる排出基準はまだ整っていない。

先行するのはタイヤ分野だ。欧州連合(EU)はEuro 7でタイヤ摩耗を規制対象に加え、国連欧州経済委員会(UNECE)でも乗用車・小型商用車用タイヤの摩耗限度づくりが進んだ。衣類はEUでも測定方法や製品要件の具体化が途上にあり、タイヤほど規制の道筋が固まっていない。

この記事で押さえたい点は次の4つだ。

  • 日本では年間約1.1万~2.4万トンのマイクロプラスチックが流出し、タイヤ由来粒子が24~85%を占めるとの推計がある
  • 国内調査では、11都道府県36地点のうち32地点からタイヤ由来粒子が検出された
  • EUはタイヤ摩耗を型式認証に組み込み、乗用車用の新型タイヤから2028年に規制を始める計画だ
  • 衣類では、日本もEUも削減の必要性を認めているが、繊維脱落量の統一的な測定と強制基準はなお発展途上にある
目次

日本の対策は「発生源規制」より啓発と調査が中心

日本の現在地は、問題の把握と自主的な削減策を広げる段階だ。 タイヤや衣類から出る量を直接制限する数値基準より、運転・洗濯方法の改善、研究、業界との情報共有が先行している。

環境省は「マイクロプラスチック・スマート懇話会」で、業界団体、企業、有識者、関係省庁と対策を検討してきた。衣料品向けの資料は2022年12月、タイヤ・路面摩耗粉塵向けの資料は2025年11月に公開されている。

生活者に示された対策は具体的だ。

タイヤで勧められていること

  • 急発進を避け、適切な速度で走る
  • ブレーキを穏やかに踏む
  • 空気圧を適正に保つ
  • ホイールアライメントを点検し、偏摩耗を防ぐ

環境省の資料では、アクセル、ブレーキ、ハンドル操作や巡航速度といった運転操作は、タイヤ・車両設計の約3倍、道路表面の状況の約2倍、摩耗量に影響すると整理されている。穏やかな運転は排出削減だけでなく、タイヤの長寿命化や燃料消費の低減にもつながる。

ただし、これは運転者だけで解決できる問題ではない。車両重量、タイヤ設計、舗装、道路排水の構造も発生量や水域への移動を左右する。個人の運転改善は即効性のある一手だが、製品基準や道路側の対策に代わるものではない。

衣類で勧められていること

  • 洗濯表示に従い、衣類を傷めにくい方法で洗う
  • 洗濯ネット、とくに網目の細かい製品を使う
  • 糸くず・乾燥・排水フィルターをこまめに掃除する
  • 捕集した繊維くずを排水口へ流さず、ごみ箱に捨てる

合成繊維は軽さ、速乾性、耐久性などの利点があり、一律に避ければよいわけではない。重要なのは、製造時に毛羽立ちにくい生地を設計し、洗濯機や下水処理で捕集し、残った排出を減らすという多段階の対策だ。

ここがポイント: 日本では生活者が今日からできる対策は示されたが、摩耗しにくいタイヤや繊維くずの出にくい衣類を市場全体に広げる強制基準はまだ見えにくい。

タイヤ由来粒子は、すでに日本各地の水底で見つかっている

タイヤ摩耗粉は将来の懸念ではなく、道路から河川、海や湖へ移動している現実の排出物だ。 国立環境研究所、産業技術総合研究所、愛媛大学の研究が、その広がりを具体的に示した。

研究チームは北海道から沖縄まで、11都道府県36地点の沿岸海域と湖沼で堆積物を調べた。その結果、タイヤ由来マイクロプラスチックは32地点で検出され、濃度の中央値は乾燥重量1グラム当たり182マイクログラムだった。

さらに36地点中30地点では、測定濃度が研究上の予測無影響濃度を上回った。これは直ちに各地点で生態被害が発生していると断定する数字ではない。しかし、生態系へのリスクを排除できない地点が広く存在したことは、発生源対策を急ぐ根拠になる。

道路から水底まで、どう移動するのか

タイヤと路面の摩擦で生じる粒子は、タイヤ材料だけの粉ではない。環境省の資料では、平均粒径はおおむね50~100マイクロメートルで、タイヤのトレッドゴムと道路舗装材由来の無機物を約半分ずつ含む複雑な混合物とされる。

道路上に残った粒子は、雨で側溝や河川へ流れ込む。研究では、泥が堆積しやすい水域ほどタイヤ由来粒子の濃度が高く、陸から運ばれた泥や有機物と一緒に沈むことが示唆された。

この経路が重要なのは、対策場所を絞れる可能性があるからだ。

  • 発生源では、タイヤの耐摩耗性能と車両の適正管理を改善する
  • 道路では、排水ますや雨水処理設備で粒子を捕集する
  • 河川・沿岸では、泥が集積する地点を優先して監視する
  • 自治体は、交通量、道路排水、水底の堆積状況を重ねて重点地点を探す

海岸清掃では、すでに水底へ沈んだ微粒子を効率よく回収できない。だからこそ、道路から水域へ出る前の対策が中心になる。

「小さなプラスチック片」だけを見ても足りない

粒子の数や大きさに加え、含まれる化学物質を追う必要がある。 2026年7月、国立環境研究所、東京海洋大学、長崎大学の研究チームは、日本周辺の海を漂流するマイクロプラスチックから、管理上注目すべき添加剤由来物質を検出したと発表した。

調査対象は東京湾、玄界灘、太平洋沿岸、北海道沖、日本海沿岸の5海域で採取した粒子などだ。酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、難燃剤が検出され、Irgafos 168関連化合物、可塑剤DEHP、難燃剤HBCDでは、それぞれ溶出、周辺環境からの吸着、粒子中への残存といった異なる挙動が確認された。

この結果は、プラスチックが細かくなれば化学物質の問題も小さくなる、とは限らないことを示す。製品の出荷時点で含有量を管理するだけでは、環境中での移動や変化を十分に捉えられない。

一方で、この研究だけから日常生活における人体影響を断定することはできない。必要なのは、粒子の存在を示す調査と、人や生態系がどの程度さらされ、どの濃度で影響が生じるかを調べる評価を区別することだ。

EUではタイヤ摩耗が「性能基準」になる

海外で最も大きく動いたのは、タイヤを排ガス以外の排出源として扱う制度だ。 EUのEuro 7は、エンジンの種類にかかわらず、タイヤ摩耗とブレーキ粒子を規制対象に加えた。

電気自動車(EV)も例外ではない。EVは走行中に排気ガスを出さないが、タイヤと路面の摩擦はなくならない。車両重量や加減速の仕方によっては摩耗が増える場合もあり、電動化だけでは非排気由来の粒子をゼロにできない。

Euro 7の予定では、乗用車・小型商用車用のC1タイヤについて、次の順に対象が広がる。

  • 2028年7月:新しい型式のタイヤ
  • 2030年7月:すべての型式
  • 2032年6月末:基準不適合品を市場で扱える移行期限の終了

中荷重車用のC2、重量車用のC3は、その後に段階導入される。UNECEでは2024年に摩耗の統一測定方法が採択され、2026年3月にはC1タイヤの摩耗限度案が専門作業部会で支持された。

ここで重要なのは、消費者への注意喚起から一歩進み、摩耗性能を市場参入の条件にする点だ。メーカーは同じ条件で試験され、基準を超えて摩耗するタイヤは将来的に販売しにくくなる。

ただし、制度設計には難しさもある。

摩耗だけを減らせば安全とは限らない

タイヤには、ぬれた路面で止まる性能、低温や雪への対応、転がり抵抗、騒音、耐久性など複数の役割がある。摩耗量だけを極端に減らす設計が、グリップや安全性を損なってはならない。

試験結果を実際の道路へどこまで当てはめられるかも課題だ。気温、舗装、荷重、空気圧、運転方法で摩耗量は変わる。基準値に加え、市販後の監視や消費者向け表示が機能するかを見る必要がある。

衣類の規制がタイヤより遅い理由

衣類では、どの製品がどれだけ繊維を放出したかを公平に測ること自体が難しい。 この測定問題が、強制基準づくりのボトルネックになっている。

放出量は、素材名だけでは決まらない。糸の形状、生地の織り方や編み方、起毛加工、縫製、衣類の古さ、洗剤、水量、温度、洗濯機の方式などが影響する。同じポリエステル製品でも結果は一様ではない。

EUは「持続可能で循環型の繊維戦略」で、合成繊維から意図せず放出されるマイクロプラスチックへの対応を掲げた。製品の耐久性や修理可能性などを扱うエコデザイン制度も整備しているが、2025年に公表された衣類・靴の環境影響評価方法では、繊維脱落は今後組み込むべき論点として残された。

つまり、EUでも衣類については、タイヤのような明確な摩耗上限がすでに全面適用されているわけではない。今後は、標準化された試験方法ができるか、その結果を設計要件、表示、拡大生産者責任の負担額にどう結び付けるかが焦点になる。

洗濯機フィルターだけで解決するのか

フランスでは、2020年成立の法律が、2025年1月以降の新しい洗濯機にプラスチック微細繊維フィルターを備える方針を定めた。この考え方は、家庭から排水へ出る直前に捕集する点で分かりやすい。

しかし、フィルター方式にも確認すべき条件がある。

  • どの大きさの繊維まで捕集できるか
  • 目詰まりせず、家庭で清掃を続けられるか
  • 捕集した繊維を排水へ戻さず廃棄できるか
  • 既存の洗濯機をどう扱うか
  • フィルターの費用を購入者だけに負わせないか

発生しにくい衣類の設計と、洗濯時の捕集は競合する対策ではない。両方を組み合わせなければ、負担が洗濯機利用者へ偏る。

日本で次に必要なのは「測る・比べる・責任を分ける」制度

日本の次の一歩は、生活者へのお願いを続けながら、製品とインフラの側に検証可能な責任を置くことだ。 個人の工夫だけでは、タイヤや衣類を選ぶ時点で排出量を比較できない。

1. 共通の測定方法を固める

タイヤでは国際試験法との整合が重要になる。日本企業も海外市場でEuro 7への対応を求められるため、国内でどのように試験結果を認証・表示するかは消費者にも関係する。

衣類では、製品ごとの脱落量を比べられる試験法が先決だ。「再生素材」「環境配慮」といった広い表示だけでなく、洗濯時にどれほど繊維が出るかを評価できれば、メーカーの設計改善を促しやすい。

2. 発生源と流出経路を分けて対策する

粒子を減らす場所は一つではない。

  • タイヤメーカー:安全性と耐摩耗性を両立する
  • 自動車メーカー・利用者:車両重量、空気圧、運転を適正化する
  • 道路管理者:排水設備で粒子を捕集し、重点地点を監視する
  • 衣料メーカー:脱落しにくく長持ちする生地を設計する
  • 洗濯機メーカー:捕集性能と手入れのしやすさを改善する
  • 下水道管理者:処理場での除去率だけでなく、汚泥への移行先も把握する

下水処理で水中から除去されても、粒子が消滅するわけではない。汚泥に移った後の処理まで追わなければ、単なる移し替えになる可能性がある。

3. 消費者が比較できる表示をつくる

低排出製品が開発されても、売り場で見分けられなければ普及しにくい。タイヤなら摩耗性能と安全性能、衣類なら耐久性と繊維脱落量を、誤解の少ない形で表示する仕組みが必要だ。

価格との関係も無視できない。低排出製品の費用を消費者だけに負わせるのか、メーカーの設計責任や回収・処理費用へ組み込むのか。ここは環境政策であると同時に、生活コストをどう配分するかという消費者問題でもある。

今後見るべき3つの分岐点

規制が実際の排出削減につながるかは、数年以内の具体化で決まる。

  • タイヤの国際基準を日本がどう取り込むか:海外向け製品だけの対応にとどまるのか、国内販売や性能表示にも反映するのか
  • 衣類の測定法が標準化されるか:素材名ではなく完成品単位で脱落量を比較できるか
  • 雨水・下水対策まで広がるか:道路排水や処理汚泥を含む流出経路全体を自治体が把握できるか

当面、運転者は急発進や強い制動を避け、空気圧を確認する。洗濯ではネットとフィルターを使い、捕集した繊維くずをごみ箱へ捨てる。どちらも小さな対策だが、すぐ始められる。

その先で問われるのは、個人の善意ではなく制度だ。2028年に始まる欧州のタイヤ規制までに、日本が「注意を呼びかける国」から「排出性能を測って市場を変える国」へ進めるかが、次の具体的な注目点になる。

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