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「かかりつけ医を指定される」は誤解 新制度が変える病院の選び方

地域の診療所と大病院が連携して患者を支える様子。

「かかりつけ医を指定される」は誤解 新制度が変える病院の選び方

2025年4月に始まった「かかりつけ医機能報告制度」は、住民ごとに医師を割り当てたり、大病院の受診を禁止したりする制度ではありません。

変わるのは、地域の診療所や病院が「日常診療」「夜間対応」「在宅医療」など、実際に担える役割を報告し、その情報を患者や自治体が使えるようにする点です。大病院への集中を直接止める規制ではなく、身近な医療機関から専門病院へつなぐ経路を整える仕組みと捉えるのが正確です。

  • 患者が特定の医師へ登録する制度ではない
  • 医療機関が自らの機能を都道府県へ毎年報告する
  • 都道府県と市町村、医療・介護関係者が不足機能を協議する
  • 大病院への集中を防げるかは、地域の診療体制と連携の実効性に左右される
目次

新制度で変わるのは「医師の選択」ではなく機能の見える化

患者は引き続き、自分の意思で受診先を選べます。

報告対象は、特定機能病院と歯科医療機関を除く病院・診療所です。対象医療機関は毎年1~3月、かかりつけ医として提供できる機能を都道府県へ報告します。

報告内容は大きく二つに分かれます。

日常的な診療を続けて担えるか

一つ目は、発生頻度の高い病気などを診療し、患者の状態を継続して把握できるかという機能です。

風邪や高血圧などを診るだけではありません。複数の慢性疾患を抱える人について、服薬状況や通院歴を踏まえ、専門的な検査や治療が必要なら別の医療機関へ紹介する役割も含まれます。

診療時間外や在宅療養まで支えられるか

二つ目は、次のような機能です。

  • 通常の診療時間外に対応する体制
  • 入院時の紹介や退院後の受け入れ
  • 訪問診療などの在宅医療
  • ケアマネジャーや介護事業所との連携

一つの診療所がすべてを単独で担う必要はありません。他の医療機関と連携して対応する場合も報告対象になります。

ここが重要です。制度が見ようとしているのは、看板に「かかりつけ医」と書いてあるかではなく、地域の中で誰が、どの時間帯に、何を担えるかです。

大病院の混雑を減らす仕組みは「紹介」と「逆紹介」

大病院への患者集中を和らげる中心は、身近な医療機関と専門病院の役割分担です。

想定される流れは次のようになります。

  1. 日常的な症状や慢性疾患は、地域の診療所や中小病院に相談する
  2. 高度な検査、手術、専門治療が必要なら紹介状を受け取る
  3. 大病院で専門治療を受ける
  4. 状態が安定したら、地域の医療機関へ「逆紹介」される

大病院が軽症から専門治療後の経過観察まで抱え続けると、手術や重症患者に向ける人員と時間が圧迫されます。地域側が日常診療を引き受ければ、大病院は高度医療へ重点を置きやすくなります。

すでに「紹介受診重点医療機関」など一定の病院では、紹介状なしで受診した場合、通常の自己負担とは別に特別料金が原則必要です。医科の初診では最低7,000円とされており、今回の報告制度とは別の仕組みです。

つまり、今回新たに「かかりつけ医を持たない人への罰金」が設けられたわけではありません。既存の特別料金が受診行動を促し、報告制度が地域側の受け皿を見えるようにする。両者が組み合わさって初めて、外来患者の流れを変えられます。

ここがポイント: 大病院へ行かせない制度ではなく、日常診療を地域で受け止め、必要な患者を紹介状と診療情報付きで専門医療へつなぐ制度です。

国、自治体、医療機関、住民の役割

制度を動かす主体は一つではありません。それぞれの役割を分けて見ると、責任の所在が分かりやすくなります。

国は報告項目と情報基盤を整える

厚生労働省は制度のルールやガイドラインを定め、全国の医療機関を検索できる「医療情報ネット(ナビイ)」を運用します。

住民にとっての利点は、診療科名だけでなく、在宅医療や時間外対応などを受診先選びの材料にできることです。ただし、掲載情報だけで相性や説明の丁寧さまで判断できるわけではありません。

都道府県と市町村は地域の穴を探す

都道府県は報告内容を確認し、医療・介護関係者らとの協議を進めます。市町村は、介護や福祉、住民生活に近い情報を持つ立場として関わります。

例えば「休日に相談できる内科が少ない」「退院した高齢者を訪問診療へつなげにくい」と分かれば、当番体制や連携方法、人材育成を話し合うことになります。

医療機関は対応範囲を説明する

医療機関には報告だけでなく、機能の院内掲示や、希望する患者への説明も求められます。

患者側は、普段の受診時に次の点を確認しておくと、急な体調変化や退院後の療養に備えやすくなります。

  • 診療時間外はどこへ連絡すればよいか
  • 専門検査が必要な場合、どの病院と連携しているか
  • 訪問診療や介護との連携に対応しているか
  • 入院後、再び通院を引き受けてもらえるか

新たな定額負担はないが、地域差は残る

報告制度を利用するための申請料や登録料はなく、かかりつけ医を選んだだけで新たな定額負担が生じる制度でもありません。通常の診察には、これまで通り健康保険の自己負担が発生します。

一方で、情報を公開すれば医療資源が自動的に増えるわけではありません。

特に注意すべき課題は次の通りです。

  • 医師や看護師が不足する地域では、時間外・在宅対応を増やしにくい
  • 公共交通が乏しい地域では、近隣に対応可能な医療機関があっても通院しにくい
  • 一人の医師が担う診療所では、報告や説明の事務負担が重くなりやすい
  • 診療科や地域によっては、紹介先・逆紹介先の選択肢が限られる

見落としやすいのは、公表された機能の数より、実際に予約や紹介を受け入れられるかが重要という点です。「在宅医療に対応」と表示されても、新規患者を受け入れる余力がなければ、住民の利便性は変わりません。

受け止めには期待と警戒が併存

医療関係者の受け止めは一様ではありません。

日本医師会は、患者が自由な意思でかかりつけ医を選ぶことを重視しつつ、地域の医療機関が持つ機能を充実させる立場です。一方、全国保険医団体連合会は、患者への情報提供や地域協議の趣旨を認めながらも、将来の登録制・認定制への変質や、医療現場の事務負担を懸念しています。

こうした意見の違いは、「かかりつけ医を持つべきか」という賛否だけでは捉えられません。判断軸は二つあります。

  • 患者の受診先を選ぶ自由が維持されるか
  • 報告結果が、地域で不足する医療の補強につながるか

現行制度は登録制ではありません。今後もその前提が守られるか、報告作業が診療を圧迫しないかは、制度運用を検証するうえで外せない論点です。

次に見るべきは「公表後に何が増えたか」

制度の成否は、報告件数の多さだけでは測れません。

今後、地域ごとに確認したいのは次の変化です。

  • 夜間・休日に相談できる体制が増えたか
  • 退院患者の逆紹介が円滑になったか
  • 在宅医療や介護への引き継ぎが早くなったか
  • 紹介先を探す患者や家族の負担が減ったか
  • 医療機関の公表情報と実際の受け入れ状況が一致しているか

住民が今できるのは、近所の医療機関を一つに固定することではありません。普段の診療を相談でき、必要なときに専門医療へつないでくれる医療機関を探し、連絡先や対応範囲を確かめておくことです。

そして自治体には、機能の一覧を公開して終わらせず、不足が判明した夜間診療や在宅支援を誰が補うのか、具体策を示す責任があります。次に注目すべき数字は「報告した医療機関数」ではなく、地域で新たに埋まった医療の空白です。

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