賃上げ額は過去最高の月1万3926円、家計の実感と差が出る理由|2026年10月23日版
厚生労働省が10月21日に公表した2026年の調査で、1人当たりの月額賃金の平均改定額は1万3926円となり、比較可能な1999年以降で最高を更新した。賃上げ率は前年と同じ4.4%だった。
ただし、この数字を「働く人全員の手取りが毎月約1万4000円増えた」と読むことはできない。調査対象には企業規模や雇用期間の条件があり、改定額には定期昇給や手当の変更も含まれる。家計への効果を判断するには、平均額の大きさと、誰の賃金がどう増えたかを分けて見る必要がある。
- 月額の平均改定額は前年より325円増え、5年連続で前年を上回った。
- 賃上げを実施した、または予定する企業は92.0%。
- 対象は常用労働者100人以上の民間企業で、年末までの予定も含む。
- 手取りの増加額や、物価を考慮した購買力の改善を直接示す数字ではない。
何が起きたか――4.4%の賃上げが続いた
今回の結果は、大手企業の春闘妥結額だけを集めたものではない。労働組合のない企業も含めて、賃金改定の状況を調べた統計だ。
調査は7~8月に実施され、1862社が回答した。共同通信によると、厚労省の担当者は、人手不足への対応によって賃上げの機運が高まっていると説明している。共同通信の報道
人材を採用し、働き続けてもらうために給与を引き上げる動きが、企業の広い範囲に及んでいる。一方、92.0%は企業の割合であり、「労働者の92.0%が昇給した」という意味ではない。
また、集計には9~12月の改定予定が含まれる。発表時点で、すべての増額が給与に反映されているわけでもない。厚生労働省の調査結果
なぜ重要か――平均の裏で企業規模による差が残る
賃上げの広がりを見るうえでは、全体平均だけでなく、比較的小さい企業にどこまで届いたかが重要になる。
企業規模別では、改定率に次の違いがあった。
- 5000人以上の企業:4.8%。前年の5.1%から低下。
- 100~299人の企業:3.9%。前年の3.6%から上昇。
大きい企業と小さい企業の差は縮まったが、同じ水準になったわけではない。100~299人規模で改定率が上がったことは前進である一方、100人未満の企業については、この調査だけでは状況を判断できない。厚生労働省・結果の概況
この点は、地域の小規模事業者で働く人が全国平均を読む際に欠かせない。自分の昇給額と平均額に差があっても、その差を本人の評価や勤務先の判断だけで説明することはできない。そもそも比較している企業の範囲が異なる場合がある。
生活への影響――「給与の改定」と「使えるお金」は違う
家計にとって大切なのは、増えた給与で何をどれだけ買えるかだ。
今回の「1人平均賃金」は、基本給に諸手当などを加えた所定内賃金を指す。残業代や休日・深夜の割増手当などは含まれない。また、賃金改定にはベースアップだけでなく、定期昇給や諸手当の変更も入る。厚生労働省・用語の定義
ここがポイント: 月1万3926円は、対象企業における賃金改定額の平均。自分の手取り増加額や、全国の働く人全体の昇給額を示すものではない。
給与明細では三つを分けて見る
自分の暮らしへの効果を確かめるなら、前年と同じ時期の明細で、次の項目を比べると分かりやすい。
- 基本給と固定的な手当:継続して受け取る給与がどれだけ増えたか。
- 残業代など:勤務時間の増減で支給総額が変わっていないか。
- 差引支給額:税や社会保険料などの控除後、実際に受け取る金額がどう変わったか。
そのうえで、食費、光熱費、家賃などの支出を確認する。給与が増えても、毎月必要な支出がそれ以上に増えれば、自由に使えるお金は増えない。
共同通信も今回の結果を、過去最高の賃上げ額と生活実感の隔たりという観点から報じている。ただし、これは報道の論点であり、SNS利用者全体の意見を集計した結果ではない。個々の投稿を根拠に「誰も賃上げを実感していない」と一般化することは避けたい。
今後の注目点――平均額の更新より、届く範囲を見る
次に確かめたいのは、賃上げが継続し、対象となる働き手が広がるかどうかだ。
今回の調査では、賃金改定で最も重視した要素として「企業の業績」を挙げた企業が最多だった。採用のために一度給与を上げても、売上や利益が伴わなければ、翌年以降も続けるのは難しくなる。調査結果を整理したリスキリングドットコムの記事
読者が次の統計や勤務先の説明を見る際には、次の三点が判断の手がかりになる。
- 100人未満の企業や、有期雇用で働く人にも賃上げが届いているか。
- 物価の動きを考慮しても、給与で買える量が増えているか。
- 年末までの改定予定が実施され、次の年も続けられるか。
月1万3926円という記録は、企業が給与を引き上げた事実を示す。一方で、家計の改善を確かめる作業は残る。まずは自分の基本給、固定手当、手取りを前年と比べること。その数字が、全国平均よりも直接的な暮らしの判断材料になる。
