MENU

「核のごみ」調査を受けるか、判断は大臣との面会後へ──常陸大宮で足踏みする国の「名指し方式」|2026年9月29日版

曇り空の下、川沿いの山あいに立つ地方都市の市役所と、入り口付近に集まる住民たち。

「核のごみ」調査を受けるか、判断は大臣との面会後へ──常陸大宮で足踏みする国の「名指し方式」

原発から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場をどこに置くか。その第1段階にあたる文献調査を受け入れるかどうか、茨城県常陸大宮市の鈴木定幸市長が9月29日、赤澤亮正経済産業相と面会して判断する段取りになった。

市長はもともと「個人的には非常に前向き」と語っていた。それが9月18日の市議会本会議のあと、いったん保留に転じた。理由は住民から出た風評被害の懸念で、「国の考え方を確認してから判断する」と説明している。

つまり今日の面会は、国が用意した答えを市長が受け取り、そのまま是非を返すかどうかの場になる。人口約3万5000人の市の一存で、国のエネルギー政策の詰まりが動くか止まるかが決まる構図だ。

先に押さえる3点

  • 国が8月31日に常陸大宮市へ文献調査を申し入れた。実施されれば全国5例目で、国が自ら名指しする方式は南鳥島に続く2例目
  • 市議会は賛否が割れ、議長は「市長に委ねる」と判断を返した。市長は9月18日に保留し、9月29日の大臣面会後に決める
  • 文献調査だけで2年・最大20億円の交付金が付く。一方で次の段階へ進むには知事の同意が事実上必要で、先行4地域はそこで止まっている
目次

何が起きたか:8月31日の申し入れから9月29日まで

発端は8月31日。経済産業省資源エネルギー庁の久米孝次長が常陸大宮市役所を訪れ、鈴木市長に申し入れ書を手渡した。同じ日、市役所の前では市民グループが「常陸大宮を核のごみ捨て場にするな」と書いた紙を掲げていた。

そこからの1か月は、市長の姿勢が二転した1か月でもある。

市長は「お金の問題」と言った

鈴木市長は申し入れ当日の会見で、受け入れのメリットを問われ、国から交付される最大20億円を念頭に「お金の問題と感じている」と述べた。人口減の続く市にとって現金が入ることの意味を、包み隠さず前面に出した発言だった。

9月18日の本会議でも市長は、調査の議論自体を拒む姿勢を「イデオロギー的」だと表現し、現実的に検討すべきだという立場を崩していない。

市議会は割れ、判断は市長へ戻った

  • 9月16日、16人の市議による非公開の協議会。報道では賛成4人・反対5人と伝えられ、明確に立場を示した議員はほぼ同数に分かれた
  • 秋山信夫議長は「鈴木市長に委ねる」と述べ、議会としての結論は出さなかった
  • 9月18日の本会議では6人の議員が反対を明言。「なぜここに核のごみが来るのかと市民は不安だ」「合意なく進めれば地域が分断される」といった指摘が出た
  • 市民団体は9月4日、受け入れ拒否を求める要請書を市に提出し、デモも行った

市長は「国の考え方を確認したい」として保留を選び、赤澤経産相は9月18日の記者会見で「誠実に答えを用意したい」と応じた。その答え合わせが今日である。

なぜ重要か:これは常陸大宮だけの話ではない

日本には原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物があり、地下300メートルより深くに埋める地層処分が法律上の方針として決まっている。決まっていないのは場所だけだ。

選定は3段階で進む。文献調査(約2年)→概要調査(約4年)→精密調査(約14年)。既存の資料を読むだけの文献調査でも最大20億円、ボーリングなどを行う概要調査に進めば最大70億円の交付金が出る設計になっている。

ここがポイント: 文献調査の受け入れは「処分場を造る」決定ではない。ただし交付金が段階ごとに跳ね上がる仕組みのため、入口で受けた自治体は「もう降りられないのでは」という疑いを住民から向けられる。常陸大宮で起きているのはこの疑いへの対処だ。

先行4地域は、すでに壁に当たっている

地域開始現在の状況
北海道・寿都町/神恵内村2020年11月2024年11月に報告書。NUMOは寿都町全域と神恵内村南端の一部を概要調査の候補としたが、鈴木直道知事は反対の考えを変えていない
佐賀県・玄海町2024年文献調査を実施中
東京都小笠原村・南鳥島2026年5月全国4例目。国が主体的に申し入れた最初のケース。村民向け説明会を計10回実施

最終処分法では、概要調査へ進む際に都道府県知事と市町村長の意見を聴き、反対があれば先へ進めない。北海道の例が示すのは、市町村が入口を通っても知事が止められるという現実だ。制度上の拒否権が知事にある限り、国がいくら自治体を名指ししても行程は縮まらない。

「名指し方式」への転換という論点

かつては自治体側の応募が前提で、手を挙げた首長が地域の分断と全国からの視線を一身に引き受けた。寿都町の片岡春雄町長が「国が自ら申し入れて意思を示すべきだ」と繰り返してきたのは、その重さゆえだ。

国が前に出る方式は、その負担を国に戻す狙いを持つ。南鳥島(無人島)に続く2例目が、本州の、しかも住民が暮らす市で試された──それが常陸大宮の位置づけである。

生活と地域に何が及ぶか

住民にとって、文献調査の2年間に工事が始まるわけではない。それでも影響は具体的だ。

  • 農産物や観光の評判:市内を南北に流れる久慈川沿いにはキャンプやサイクリングの拠点がある。市長が保留の理由に挙げたのは、この風評被害への懸念だった
  • 市の財政:2年で最大20億円は、一般会計の規模から見て軽い額ではない。使途の説明がないまま入れば、交付金の是非がそのまま市政の争点になる
  • 隣接自治体との関係:常陸大宮市は水戸市から約20キロ、栃木県と県境を接する。隣県の知事からは情報公開と説明を求める声が出ている
  • 県内の原子力施設との重なり:茨城県には東海第二原発や再処理施設があり、住民は原子力の話題に一定の経験と警戒感を併せ持つ

ネット上の受け止めは大きく分かれている。交付金を前面に出した説明への違和感を述べる声、一方で「どこかが引き受けなければ議論は永久に進まない」という声、さらに国が名指しする手法そのものへの評価と警戒が同時に並ぶ。ただし処分場の安全性や地質をめぐる断定的な書き込みには、根拠が確認できないものも多い。

今後の注目点

  • 今日の面会で国が何を約束したか:市長が保留の理由に挙げた風評被害について、国がどこまで具体的な対策を文書で示したのか。抽象的な「丁寧な説明」で終わるなら、保留の理由は消えない
  • 判断の主体:市長は議会の意見を改めて返さずに決める可能性を示唆していた。議会や住民の合意形成を経ないまま受け入れれば、その後の分断が調査期間中ずっと続く
  • 大井川和彦茨城県知事の対応:文献調査に知事の同意は要らないが、概要調査では意見を問われる。知事が早い段階で態度を示すかどうかで、市の判断の意味が変わる
  • 国の次の名指し先:常陸大宮が断れば、本州の自治体を名指しする手法そのものの説得力が落ちる。受ければ、同じ手法で次の候補が出てくる

決まるのは「処分場の場所」ではなく、「話し合いを始めるかどうか」である。それでも入口の一歩に20億円が付き、住民の暮らしの評判が賭けられ、最後は知事が止められる──この設計のまま何度名指しを繰り返しても行程が進まないなら、問い直されるのは自治体の覚悟ではなく制度の側だろう。今日の面会で示される国の回答文は、その試金石になる。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次