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「浜名湖うなぎ」はなぜ二重に守る? GI登録で分かる地域ブランドと商標の役割

浜名湖の養殖ウナギと出荷記録を確認する生産者のイメージ。

「浜名湖うなぎ」はなぜ二重に守る? GI登録で分かる地域ブランドと商標の役割

農林水産省は2026年7月10日、「浜名湖うなぎ」を地理的表示(GI)として登録しました。浜名湖うなぎは、すでに2018年から地域団体商標にも登録されています。

二つの制度を使う理由は明快です。GIは産地と結び付いた特性や生産方法を含めて名称を守り、地域団体商標は団体のブランドとして名称を守るからです。同じ名前を保護していても、守る対象と不正使用への対応が異なります。

この記事の要点は次の4点です。

  • 浜名湖うなぎは2026年7月、ウナギとして初めてGIに登録された
  • GIは農林水産省、地域団体商標は特許庁が所管する
  • GIでは生産地や生産方法、検査などの基準も登録される
  • 消費者にとってGIマークは産地名だけでなく、登録基準に沿った産品を見分ける手掛かりになる
目次

何が起きたのか――国内GIは170産品に

今回の登録で、浜名湖うなぎの「名前」と「産地ならではの特性」が国の制度で結び付けられました。

農林水産省は7月10日、次の3産品を新たにGIへ登録しました。

  • 浜名湖うなぎ:静岡県、浜名湖養魚漁業協同組合
  • 加賀れんこん:石川県、JA金沢市加賀れんこん部会
  • 日本茶:日本国、公益社団法人日本茶業中央会

これにより、国内のGI登録産品は170産品となりました。浜名湖うなぎの登録番号は第177号で、生産地は静岡県浜松市と湖西市です。

登録資料では、脂のりの良さ、柔らかくふっくらした食感、一般的なウナギより高値で取引されていることなどが特性として示されています。単に「浜名湖の近くで売られているウナギ」という意味ではありません。

産地との結び付きとして挙げられたのは、温暖な気候、安定した水質の地下水、明治期から続く養殖の歴史、1971年に確立された加温養殖法などです。自然条件だけでなく、地域で蓄積された養殖技術も評価の対象になっています。

名称を使うには生産基準を守る必要がある

GIの明細書では、最終製品の形態を「活鰻」としています。出荷する成鰻は、浜名湖養魚漁業協同組合が行う残留薬物検査に合格しなければなりません。

生産者は種苗や養殖方法の記録を保管し、組合は出荷前1カ月以内に検査を実施します。基準から外れている疑いがあれば、組合が臨時調査を行う仕組みです。

つまり、GI登録は知名度を認定するだけの表彰ではありません。名前を使い続けるために、生産者側も記録、検査、管理を継続する必要があります。

GIと地域団体商標は何が違うのか

最大の違いは、GIが「産地と品質・製法の結び付き」を守るのに対し、地域団体商標は「団体の信用を示すブランド名」を守る点です。

比較点GI地域団体商標
所管農林水産省特許庁
主な対象農林水産物、飲食料品など食品、工芸品、温泉などの商品・サービス
中心となる要件産地と品質、製法、評価などに結び付きがある名称が一定範囲の需要者に知られている
登録される内容名称、生産地、特性、生産方法、管理方法など商標と指定商品・サービス
不正使用への対応国が行政的に取り締まる権利者が差し止めや損害賠償などを求める
存続期間取消しなどがない限り期限なし10年ごとに更新

GIは「その土地だから生まれた特性」を登録する

GIの申請では、生産者団体が名称、生産地、特性、生産方法、生産地との結び付き、生産実績などを説明します。原則として、特性を保った状態でおおむね25年以上の生産実績も必要です。

申請後は内容が公示され、第三者が意見書を提出できる期間が設けられます。その後、学識経験者の意見聴取などを経て、農林水産大臣が登録の可否を判断します。

登録免許税は9万円です。ただし、地域が実際に負う作業は税額だけではありません。明細書の作成、生産工程の確認、構成員への指導、記録の保存、検査といった継続的な管理が必要です。

地域団体商標は「誰のブランドか」を明確にする

地域団体商標は、「地域名+商品名」などからなる名称を、組合、商工会、商工会議所、NPO法人などが登録できる制度です。登録には、名称が一定範囲の消費者や取引先に知られていることを示す資料が求められます。

商標権者は、不正使用に対して差し止めや損害賠償を求められます。一方、その監視や権利行使は基本的に権利者側が担います。

特許庁に納める料金は、1区分の場合、出願時が1万2,000円、10年分の登録料が3万2,900円です。代理人費用や資料作成費などは別にかかり、10年後も権利を維持するなら更新手続が必要です。

ここがポイント: GIは産品の基準を公的に登録し、国が不正表示を取り締まる制度です。地域団体商標は、団体が築いた名称の信用を商標権として管理する制度です。

浜名湖うなぎが二つの制度を使う意味

二重登録は重複ではなく、地域ブランドの弱点を別々の角度から補う仕組みです。

浜名湖養魚漁業協同組合は2006年に地域団体商標を出願し、約12年後の2018年に登録を受けました。この商標によって、「浜名湖うなぎ」という名称を同組合のブランドとして守る土台ができました。

今回のGI登録では、さらに次の内容が名称と結び付けられています。

  • 生産地は浜松市と湖西市
  • 登録された種苗と養殖方法に従う
  • 出荷前に残留薬物検査を受ける
  • 生産・出荷の記録を残す
  • 組合が生産行程を管理する

地域団体商標が「この名称はどの団体の信用を示すか」を明確にするのに対し、GIは「どのような産品なら、その名称を使えるか」を具体化します。

浜松市長は登録発表日の記者会見で、ブランド価値の向上と偽装への対策に期待を示しました。地元報道でも「国のお墨付き」として歓迎する受け止めが中心です。

ただし、「GIになったから、すべての浜名湖周辺のウナギが自動的に対象になる」という理解は正確ではありません。登録団体の管理下で、明細書に沿って生産された産品であることが前提です。

国、自治体、生産者、消費者の役割

制度を実際に機能させるのは国だけではなく、生産者団体、自治体、販売店、飲食店、消費者の連携です。

国は登録と不正表示の監視を担う

農林水産省は申請を審査し、GI名称を登録します。登録後、基準を満たさない産品へのGI名称の使用が確認されれば、国が調査や行政上の対応を行います。

2026年からは、登録前から同じ名称を使っていた事業者に認められる「先使用」の期間が順次終了しています。登録団体に属さない生産者の材料を使う飲食店や加工業者は、メニュー名や商品名を変更しなければならない場合があります。

生産者団体は基準を維持する

GIは登録がゴールではありません。浜名湖養魚漁業協同組合には、検査や記録確認を続け、基準に合わない産品が名称を使わないよう管理する責任があります。

同組合によると、設立時には150人余りいた養殖業者は、現在27経営体まで減っています。担い手と資源が限られるなか、管理業務が一部の担当者に集中すれば、制度を維持する負担も重くなります。

名称を厳格に守るほど、検査や記録のコストは増える。この負担を価格、共同事業、行政支援のどこで支えるかは、登録後も残る課題です。

自治体は販売促進と地域内調整を支える

自治体はGIの権利者ではありませんが、観光、食育、販路開拓、事業者への制度周知を支援できます。浜名湖地域では行政、学校、観光関係者らがウナギを使った食育や地域活性化に取り組んできました。

一方、PRだけを先行させると、GI対象産品と一般的な「浜名湖産」の違いが消費者に伝わりません。自治体には、名称を広めるだけでなく、何が登録基準なのかを分かりやすく説明する役割があります。

買う側は何を見ればよいのか

消費者が確認すべきなのは、地名の大きさより、GI名称、GIマーク、販売者の説明です。

店頭や通販で選ぶときは、次の点が手掛かりになります。

  • 「浜名湖うなぎ」という登録名称が正確に表示されているか
  • GIマークが名称とともに適切に表示されているか
  • 生産者、販売者、原材料の説明が確認できるか
  • 加工品や料理なら、GI産品を原材料として使っていることが明確か

注意したいのは、GIが価格の安さや料理の味を一律に保証する制度ではないことです。かば焼きのタレ、蒸し方、焼き方、店舗での調理技術まで、浜名湖うなぎのGI登録が一括して保証するわけではありません。

その代わり、購入者は「どこで、どの基準に沿って生産されたウナギか」を以前より確認しやすくなります。GIマークは、曖昧なご当地イメージと、登録基準を満たした産品を見分ける入口です。

次の焦点は「登録後に何が変わるか」

浜名湖うなぎのGI登録で注目すべきなのは、認定のニュースそのものより、その後の運用です。

今後は次の点が判断材料になります。

  • GIマーク付きの商品が小売店や通販でどこまで増えるか
  • 飲食店が原材料と名称の関係を分かりやすく表示できるか
  • 検査や記録管理の費用を、担い手が無理なく負担できるか
  • 不正表示への対応が、消費者にも見える形で行われるか
  • GI登録が新規就業や養殖資源の持続性につながるか

GIも地域団体商標も、登録証だけで産地を強くする制度ではありません。名称を守りながら、基準を守る生産者が事業を続けられるか。次に見るべき数字は登録件数ではなく、浜名湖の養殖経営体が維持され、正規品を選べる売り場が増えるかどうかです。

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