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「断ってから」では遅い? フランスの迷惑電話規制が日本に突きつける選択

知らない番号からの着信が表示されたスマートフォン。

「断ってから」では遅い? フランスの迷惑電話規制が日本に突きつける選択

フランスでは2026年8月11日、消費者が事前に同意しない限り、企業が営業電話をかけられない制度が始まった。電話を受けた人が拒否する方式から、企業が「電話してよい」という同意を先に証明する方式への転換だ。

日本では、電話勧誘を一度は受けたうえで、不要なら明確に断るのが基本となる。米国、英国、オーストラリアは拒否する番号を登録する制度を運用しており、同じ「迷惑電話対策」でも、誰が最初に動くのかは大きく異なる。

この記事で分かること

  • フランスは原則オプトインへ移行し、企業側に同意の立証を求めた
  • 米英豪は、消費者が番号を拒否登録する仕組みが中心
  • 日本には全国一括の拒否登録制度がなく、事業者ごとに断る必要がある
  • どの制度でも、違法な詐欺電話を登録だけで止めることはできない
目次

フランスは「電話してよい人だけ」に発信する

今回もっとも大きく変わったのは、営業電話を受けないために消費者が登録する必要がなくなったことだ。

フランスの新制度では、企業が個人へ営業電話をかける前に、自由で具体的、明確かつ撤回可能な同意を得なければならない。以前の拒否登録サービス「Bloctel」は役割を終え、原則禁止から例外的に発信を認める制度へ切り替わった。

同意は、単に利用規約の奥に営業目的を埋め込めば成立するものではない。企業名、対象となる商品やサービス、同意期間を示し、消費者の積極的な操作で取得する必要がある。

さらに運用面にも条件が付く。

  • 同意の有効期間は最長1年
  • 企業は同意の記録を最低3年間保存
  • 消費者は口頭を含む簡単な方法で同意を撤回できる
  • 発信は原則として平日の午前10時~午後1時、午後2時~午後8時
  • 同じ消費者への発信は30日間に4回まで
  • 電話中に拒否された場合は、直ちに通話を終え、再度連絡しない

現在の契約を履行するため、その契約に直接関係する案内を行う場合などには例外がある。一方、エネルギー改修、加齢や障害に対応する住宅改修、職業訓練口座に関する勧誘は、原則的な例外よりさらに厳しく制限される。

違反時の制裁も重い。フランス競争・消費・不正抑止総局(DGCCRF)の説明では、違法な電話勧誘に対する罰金は、1回の電話につき個人で最大7万5,000ユーロ、法人で最大37万5,000ユーロに達し得る。

ここがポイント: フランス型の核心は着信拒否機能の強化ではない。企業に「この人は事前に同意した」と証明させることで、発信リストの作り方そのものを変える点にある。

米英豪は「かけてほしくない番号」を登録する

米国、英国、オーストラリアは、電話を望まない消費者が番号を公的・公認のリストへ登録し、事業者が発信前に照合する方式を採る。

米国:2億5,800万件超が登録

米連邦取引委員会(FTC)の「National Do Not Call Registry」は、代表的なオプトアウト制度だ。2025会計年度末の有効登録は約2億5,850万件、同年度の苦情は260万件を超えた。

販売目的の事業者は、原則として登録番号を発信対象から外す。登録していなくても、個別企業に「今後かけないでほしい」と求めることができる。

ただし、政治活動、慈善活動、債権回収、純粋な情報提供、販売を含まない調査などは対象外だ。また、既存の取引関係などに基づく例外もある。

録音音声で商品を売るロボコールはさらに厳しく、本人から書面による許可を得ていなければ、拒否登録の有無にかかわらず違法となるのが原則だ。

英国:TPS登録と個別の拒否を併用

英国では「Telephone Preference Service(TPS)」が個人向けの拒否登録を担う。企業向けには「Corporate Telephone Preference Service(CTPS)」もある。

通常の有人営業電話は、番号がTPSなどに登録されておらず、過去に本人が拒否していなければ、事前同意なしでも可能だ。ただし、年金や請求管理サービスなど一部の分野には、より厳しい同意要件がある。

制度が書類上だけではない点も重要だ。英国情報コミッショナー事務局(ICO)は2026年2月、TPS登録番号へ26万332件の営業電話をかけた企業に、10万ポンドの制裁金と執行通知を科した。

オーストラリア:拒否登録に発信時間や名乗りの規則を重ねる

オーストラリアの「Do Not Call Register」には、家庭の固定電話、個人の携帯電話、FAX番号を無料で登録できる。登録から30日が過ぎると、同意がある場合や適用除外を除き、電話勧誘は制限される。

このリストは着信を技術的に遮断するものではない。企業が発信リストを照合し、登録番号を削除するための仕組みだ。

執行例では、賭け事事業者TABが2026年7月、電話勧誘とメッセージ送信に関する違反で270万豪ドル超を支払った。規制当局は、拒否登録番号への同意なき351件の電話、許可時間外の82件、発信者や目的を適切に示さなかった約4,000件などを確認している。

4つの制度を分けるのは「最初に誰が動くか」

比較の軸は、規制の有無ではなく、望まない電話を避けるための負担を誰が負うかだ。

  • フランス:企業が先に同意を取得し、証拠を保存する
  • 米国・英国・オーストラリア:消費者が番号を拒否登録し、企業がリストを照合する
  • 日本:実際の勧誘に対して消費者が断り、その後の再勧誘を禁止する

オプトインは、何もしなくても営業電話を受けない状態から始まる。高齢者や、電話口で強く断ることが難しい人には分かりやすい。

一方で企業には、同意取得画面の設計、取得日時の記録、委託先との証拠共有、撤回情報の反映といった実務が増える。小規模事業者が既存顧客へ新サービスを知らせる場面まで一律に塞がないよう、例外の範囲を明確にする必要もある。

拒否登録方式は、営業電話を受けたい人への発信余地を残しやすい。しかし、制度を知らない人や登録手続きが苦手な人ほど保護から外れやすい。登録者が多くても、違法業者がリストを無視すれば着信は続く。

日本は「一度断った相手」への再勧誘を止める

日本の特定商取引法は電話勧誘を一律に事前禁止せず、消費者が契約しない意思を示した後の継続・再勧誘を禁じる。

事業者は勧誘に先立ち、名称、勧誘者の氏名、商品やサービスの種類、販売目的を告げなければならない。不実告知、重要事項の故意の不告知、威迫して困惑させる行為も禁止されている。

電話勧誘販売で契約した場合、法定書面を受け取ってから8日以内なら、原則としてクーリング・オフが可能だ。

生活者が現状の制度を使うなら、曖昧な返事を避けて「契約しません」「今後の勧誘電話も不要です」と明確に伝え、次を記録しておくとよい。

  • 着信日時と電話番号
  • 事業者名と担当者名
  • 勧誘された商品・サービス
  • 断った日時と伝えた内容
  • 断った後にも電話があった回数

知らない番号すべてを拒否すると、医療機関、配送、学校、自治体などの必要な連絡まで逃す可能性がある。個人の端末設定だけに対策を任せる難しさは、ここにある。

拒否登録でもオプトインでも、詐欺電話は残る

正規の企業を規律する制度と、最初から法律を守る意思のない詐欺グループを止める対策は分けて考える必要がある。

FTCも、拒否登録は法令を守る実在企業の販売電話を減らす制度であり、違法な詐欺電話を技術的に遮断するものではないと説明している。発信番号を偽装する相手や、国外から発信する相手には、登録制度と罰金だけでは届きにくい。

必要になるのは複数の防御だ。

  • 法律で発信可能な条件を定める
  • 通信会社が番号偽装や大量発信を検知する
  • 違反報告を規制当局の調査につなげる
  • 端末側で警告表示や着信拒否を行う
  • 消費者が電話だけで契約や送金を即決しない

制度に対するネット上の関心も、単に「電話が静かになるか」だけではない。フランスの制度変更をめぐっては、強い制裁を歓迎する反応がある一方、営業活動が同意取得フォームや広告経由へ移り、そこで不透明な同意が増えるのではないかという懸念も見られる。結局、チェック欄を置くだけでなく、誰から何の電話が来るのかを本人が理解できる設計が欠かせない。

日本で次に問われる3つの論点

日本が海外制度から学ぶなら、登録制度を輸入するかどうかだけでなく、拒否しにくい人をどこで守るかを決める必要がある。

消費者庁では2026年、デジタル取引・特定商取引法等検討会が進み、8月24日に中間取りまとめ案が示された。そこでは、SNSのダイレクトメッセージなどによる不意打ち的な勧誘を、電話勧誘に近いものとして規律する方向が示されている。勧誘の入口は、すでに音声通話だけではない。

今後の注目点は次の3つだ。

  1. 全国一括の拒否登録を設けるか
    事業者ごとに断る現行方式より負担は軽くなるが、登録を知らない人をどう保護するかが残る。

  2. 高リスク分野を先にオプトイン化するか
    住宅修繕、金融、通信契約など、被害額や生活への影響が大きい分野から事前同意を求める方法がある。

  3. 電話とSNS勧誘を一体で扱うか
    同じ事業者が電話、SMS、チャットへ経路を移せば、電話だけを厳しくしても不意打ち勧誘は減らない。

フランスの転換が示したのは、迷惑電話を「受けた人がうまく断る問題」にしない選択肢である。日本で次に見るべきなのは、拒否登録の導入可否だけではない。発信前の同意、拒否後の記録、違反情報の集約を、電話とチャットの双方でどこまで事業者の責任にできるかだ。

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