フランス、同意なき営業電話を原則禁止 モロッコで最大5万人の雇用に影響|2026年8月7日版
フランスでは2026年8月11日から、消費者が事前に同意していない営業電話が原則禁止される。拒否した人を除外する方式から、同意した人だけに電話できる方式への転換だ。
消費者保護が強まる一方、フランス向け業務への依存度が高いモロッコでは、政府がコールセンターの4万〜5万人の雇用に影響する可能性を警告している。一国の迷惑電話対策が、国外の雇用を揺らす局面になった。
- 施行日は2026年8月11日
- 営業電話には、原則として消費者の事前同意が必要
- 同意の有効期間は最長1年で、いつでも撤回できる
- モロッコでは4万〜5万人の雇用が影響を受けるとの推計がある
何が変わるのか
これまでフランスでは、営業電話を受けたくない人が無料の拒否リスト「Bloctel」に電話番号を登録する仕組みが使われてきた。新制度の施行後はBloctelが終了し、企業側が先に同意を得なければ電話できなくなる。
フランス政府の消費者行政当局DGCCRFによると、同意には次の条件が付く。
- 消費者が自由な意思で、明確な行動によって同意する
- 電話をかける企業と営業の目的を示す
- 有効期間は最長1年とし、自動更新しない
- 消費者は口頭を含む簡単な方法でいつでも撤回できる
- 企業は日時や説明内容を含む同意の記録を最低3年間保存する
商品購入時や店舗への来訪時、ウェブフォームへの入力時に同意を得ることは可能だ。ただし、あらかじめチェックされた欄や、営業電話に使うことが分からない曖昧な表示では、明確な同意とは認められない。
電話できる例外もある
全面禁止ではない。企業は、現在の契約に関係する商品やサービスについて既存顧客へ連絡できる。また、新聞や雑誌などの定期購読に関する営業も例外となる。
一方、住宅の省エネ改修、高齢や障害に対応する住宅改修、職業訓練口座に関する営業電話は、より厳しく原則禁止される。消費者が明示的に情報提供を求めた場合に限り、対象を限定して折り返すことができる。
ここがポイント: 消費者が拒否の手続きをする制度ではなく、企業が「電話してよい」という証拠を示す制度へ変わる。
同意があっても、好きな時間に何度でも電話できるわけではない
事前同意を得た企業にも制限が残る。通常の営業電話が認められるのは、祝日を除く月曜日から金曜日の午前10時〜午後1時、午後2時〜午後8時だ。同じ消費者への電話は30日間で4回までとされる。
消費者が通話中に拒否を示した場合、企業は直ちに電話を終え、その後の営業電話も止めなければならない。新ルールに反してかけた電話をきっかけに結ばれた契約は無効となる。
AP通信によると、フランス当局は国民のおよそ4分の3が週に少なくとも1回、頼んでいない営業電話を受けていると推計する。新制度は、登録者だけを守る拒否リストでは被害を抑えきれなかったことへの回答でもある。
フランスの受話器の向こう側にあるモロッコの雇用
制度変更の影響は国境を越える。フランス語を話す人材が多いモロッコには、フランス企業の営業や顧客対応を請け負うコールセンターが集積してきた。
モロッコの雇用相ユネス・セクリは、フランスの規制によって4万〜5万人の雇用が危険にさらされる可能性があると説明している。これは確定した失業者数ではなく、フランス向けの電話営業が急減した場合のリスク推計だ。
モロッコの公共放送系メディアSNRT Newsが伝えた政府側の説明では、同国のコールセンター関連産業には次の規模がある。
- 直接雇用:約12万人
- 間接雇用:約5万人
- 年間の経済寄与:100億〜120億モロッコ・ディルハム
- 2023年の投資額:13億モロッコ・ディルハム
- フランス市場への依存:約80%
とりわけ影響を受けやすいのは、営業電話を主力とする中小の事業者だ。フランス語を使える若者や大卒者にとって、コールセンターは比較的入りやすい雇用の受け皿でもある。受注減が小規模事業者の閉鎖につながれば、若年層の就職口が短期間で細る恐れがある。
「電話の量」から別の仕事へ移れるか
モロッコ側が迫られているのは、営業電話の件数に依存する事業からの転換だ。政府と業界関係者は、国内市場の開拓や、フランス以外の欧州、アフリカ、中南米への展開を挙げている。
候補となる業務は、顧客からの問い合わせ対応、技術サポート、デジタル業務などだ。ただし、業務を切り替えれば同じ人数をそのまま雇用できるとは限らない。研修やシステム投資が必要になり、インド、フィリピン、パキスタン、エジプトなどとの受注競争もある。
ここではAIも二つの顔を持つ。問い合わせ内容の整理や担当者の支援に使えば、より高度なサービスへの移行を助ける。一方、単純な応答を自動化すれば、営業電話の規制とは別の経路から雇用を減らす圧力になる。
消費者保護の費用を誰が負担するのか
フランスの制度は、迷惑電話や不当な勧誘から消費者を守るという点では明快だ。電話番号を登録して自衛する負担を個人に負わせず、企業に同意の取得と記録を求める。
ただし、その調整費用はフランス国内の営業会社だけにとどまらない。委託先のモロッコでは、電話をかけていた従業員とその家族、通勤や周辺サービスに関わる人々まで影響を受ける可能性がある。
この問題で見るべきなのは、消費者保護か雇用かという単純な二択ではない。焦点は、規制の施行までに企業と政府がどれだけ仕事を組み替え、働く人へ再訓練の機会を用意できるかだ。
今後の注目点
8月11日の施行後は、次の3点が焦点になる。
- フランスで迷惑電話や勧誘を起点とする被害が実際に減るか
- 企業が同意の記録を適切に残し、例外規定を抜け道にしないか
- モロッコで警告された雇用リスクが、解雇や事業閉鎖としてどの程度表れるか
最初に数字へ表れるのは、フランスの苦情件数よりも、モロッコの小規模コールセンターの受注と人員かもしれない。施行後の数カ月は、消費者の静かな電話環境と、その裏側で働いてきた人々の雇用が同時に追跡されるべきだ。
