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求人票の「月給30万円」に要注意――固定残業代を見抜く3つの数字

求人票と給与明細を見比べながら固定残業代の内訳を確認する会社員。

求人票の「月給30万円」に要注意――固定残業代を見抜く3つの数字

求人票に「月給30万円」とあっても、その全額が基本給とは限りません。たとえば基本給24万円、固定残業代6万円という内訳なら、賞与や一部手当の計算、残業時間を超えた際の追加支給を確認するうえで、両者の区別が重要になります。

固定残業代そのものが直ちに違法になるわけではありません。ただし、通常の賃金と残業代を判別でき、法定額に不足する場合は差額が支払われることが必要です。「固定だから、何時間働いても追加の残業代はない」という扱いは認められません。

この記事で押さえるポイントは次の4つです。

  • 求人票では「基本給」「固定残業代の金額と対象時間」「超過分の追加支給」を見る
  • 固定残業代は、記載された時間まで残業する義務を意味しない
  • 実際の割増賃金が固定額を上回れば、会社は差額を支払う必要がある
  • 契約書の名称だけでなく、説明内容や実際の運用も判断材料になる
目次

固定残業代が有効と扱われるための核心

結論からいえば、給与のどこまでが通常の労働への賃金で、どこからが時間外・休日・深夜労働への対価なのかを判別できることが出発点です。

厚生労働省は固定残業代を、実際の時間外労働などの有無にかかわらず、一定時間分の割増賃金として定額で支払う仕組みと説明しています。「定額残業手当」「みなし残業代」「営業手当」など、名称が違っても実質が残業代なら同じ問題が生じます。

最低限、分かれているべき3項目

求人・募集の段階では、次の内容を明示する必要があります。

  • 固定残業代を除いた基本給
  • 固定残業代の金額と、その算定基礎となる時間数
  • その時間数を超えた時間外労働、休日労働、深夜労働には割増賃金を追加で支払うこと

たとえば、次のような表示なら内訳を確認できます。

  • 基本給:24万円
  • 固定残業手当:4万円(時間外労働20時間分)
  • 20時間を超えた時間外労働分は別途支給

一方、「月給28万円(固定残業代を含む)」だけでは、基本給も対象時間も分かりません。応募者は賃金水準を比較できず、入社後に超過分が正しく支給されたかも検算しにくくなります。

厚生労働省の固定残業代に関するQ&Aも、通常の賃金部分と固定残業代部分を判別できるようにしたうえで、不足額があれば差額を支払う必要があると説明しています。

ここがポイント: 「月給が高いか」だけでなく、「固定残業代を除いた基本給はいくらか」を比べると、求人条件の実像が見えやすくなります。

「固定分を払ったから残業代は終了」ではない

固定残業代は残業代の前払いに近い仕組みであり、残業代を定額で打ち切る制度ではありません。

実際の時間外・休日・深夜労働について法定の方法で計算した割増賃金が固定額を上回れば、会社は不足分を追加で支払う必要があります。固定残業代が20時間分なら、実労働が20時間を超えたかどうかだけでなく、休日労働や深夜労働をどこまで含む設計なのかも確認が必要です。

固定残業時間は「働かせてよい時間」ではない

ここは誤解されやすい点です。

「30時間分の固定残業代がある」という記載は、毎月30時間の残業を命じられるという意味でも、30時間までは労働時間を記録しなくてよいという意味でもありません。使用者には実際の労働時間を把握し、法定の割増賃金との差を確認する必要があります。

また、残業をさせるには36協定など別の根拠が必要です。時間外労働の上限規制も、固定残業代を導入しただけで緩和されるものではありません。厚生労働省の解説では、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされています。

残業が少なかった月はどうなるか

固定残業代は「実際の残業の有無にかかわらず支給する」と定められた賃金です。そのため、実際の残業が対象時間より少なかったことだけを理由に、あらかじめ約束した固定額が当然に減る仕組みではありません。

そして、対象時間まで職場に残る義務が生まれるわけでもありません。仕事が終わり、残業命令もなければ、「固定残業代を受け取っているから」という理由だけで時間を消化する必要はないのです。

基本給との区別が曖昧だと何が起きるのか

問題は表示の分かりにくさだけではなく、未払い残業代の計算そのものに及びます。

割増賃金は、原則として通常の労働時間に対する賃金を基礎に計算します。基本給として支払うべき部分を形式上「残業代」に寄せれば、計算の土台が不当に低く見える可能性があります。

裁判所は名称だけで判断しない

最高裁は、固定残業代に当たるかを考える際、契約書や就業規則の記載だけでなく、会社が労働者にどう説明したか、実際の勤務状況なども含めて判断する枠組みを示しています。

さらに2023年3月10日の熊本総合運輸事件では、トラック運転手の賃金について、月ごとの賃金総額から基本給などを差し引いた残額を時間外手当とする給与体系が争われました。最高裁は、通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別できるかという観点から原審の判断を問題とし、事件を福岡高裁へ差し戻しました。

この判決が重要なのは、「時間外手当」という欄が給与明細にあれば十分、とはしなかった点です。先に総額を決め、残りを残業代と呼ぶだけでは、その金額が本当に時間外労働の対価なのかが問われます。

判決全文は裁判所の令和5年3月10日最高裁判決で確認できます。

求人票から給与明細まで、どこを確認するか

固定残業代の問題は、応募時、入社時、就業中の3段階で確認すると見落としを減らせます。

応募前に見る項目

求人票では、総額より先に内訳を確認します。

  • 基本給はいくらか
  • 固定残業代はいくらか
  • 何時間分として計算されているか
  • 時間外、休日、深夜のどこまでを含むか
  • 超過分を別途支給すると書かれているか
  • 月平均の残業時間と固定残業時間に大きな差がないか

ハローワークの求人票では、基本給、定額的に支払われる手当、固定残業代などを分けて入力する形式になっています。ハローワークの求人記載案内を見ると、企業側にどのような表示が求められているかも確認できます。

入社時に書面で確かめる項目

採用が決まったら、求人広告だけでなく労働条件通知書や雇用契約書を確認します。労働基準法15条により、使用者は契約締結時に賃金や労働時間などの条件を明示しなければなりません。

特に次の点が求人票と一致しているかを見ます。

  • 基本給と固定残業代の金額
  • 対象となる時間数と労働の種類
  • 賃金の計算方法
  • 超過分の支払方法
  • 試用期間中の金額や条件

口頭説明だけで終わらせず、書面を保管しておくことが大切です。厚生労働省の労働条件明示の解説も、明示されない点や疑問があれば、書面の交付を求めて確認するよう案内しています。

就業後に残す記録

超過分が支払われているかを確かめるには、実際に働いた時間の記録が欠かせません。

  • 始業・終業時刻
  • 休憩時間
  • 休日出勤と深夜勤務の時間
  • タイムカードや勤怠システムの画面
  • 業務メール、チャット、入退館記録
  • 給与明細と会社からの説明

会社の勤怠データだけに頼らず、自分でも日々記録しておくと、給与明細との食い違いを具体的に示せます。

「固定残業代あり」の求人をどう評価するか

制度の有無だけで職場の良し悪しを決めるのではなく、透明性と運用を分けて見る必要があります。

ネット上では、固定残業時間が長い求人に対して「長時間労働が前提ではないか」「表示された月給ほど基本給が高くない」と警戒する声が出やすい一方、残業が少ない月も定額が支払われる点を評価する見方もあります。ただし、求人票だけで実際の残業時間や職場環境までは確定できません。

判断材料になるのは、次のような具体的な対応です。

  • 採用担当者が計算方法を説明できる
  • 平均残業時間を質問したとき、部署や繁忙期を含めて答える
  • 超過分が給与明細で分かる
  • 勤怠記録と給与計算が連動している
  • 定時退社を妨げるような運用がない

反対に、「細かい内訳は入社後」「超過することはない」「固定分までは残るのが普通」といった説明だけなら、書面での確認が必要です。

不足が疑われたときの動き方

まず行うべきなのは、退職や対立を急ぐことではなく、契約と実績を同じ時間軸で並べることです。

  1. 求人票、労働条件通知書、就業規則、給与明細を集める
  2. 固定残業代の対象時間と対象業務を確認する
  3. 月ごとの実労働時間、休日労働、深夜労働を整理する
  4. 会社の人事・給与担当者に計算根拠を文書で確認する
  5. 解決しない場合は公的な相談窓口を利用する

労働時間や賃金の未払いについては、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。厚生労働省の労働基準行政の相談窓口から地域の窓口を探せます。

個別の契約が有効か、未払い額がいくらになるかは、手当の設計、労働時間、賃金項目、会社の説明によって変わります。金額が大きい場合や会社との見解が対立する場合は、労働問題を扱う弁護士などへの相談も選択肢です。

次の給与明細で確認したい3点

固定残業代で最も危険なのは、制度名そのものより、内訳も実績も見えない状態が続くことです。

次の給与明細を受け取ったら、まず以下を確認してください。

  • 固定残業代を除いた基本給が明記されているか
  • 実際の残業時間が対象時間を超えていないか
  • 超過した月に差額が別項目で支払われているか

求人票の「月給」だけで判断せず、基本給・固定額・対象時間の3つを一組で見る。それが、入社前にも就業後にも使える最も実践的な確認方法です。

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