MENU

イングランド賃貸から「理由なき退去」が消える|2026年5月29日版

イングランド賃貸から「理由なき退去」が消える|2026年5月29日版

イングランドの民間賃貸で、大家が理由を示さず退去を求められる仕組みが2026年5月1日から大きく変わりました。Renters’ Rights Act 2025の第1段階が動き出し、Section 21と呼ばれる「no-fault eviction」は新たに使えなくなっています。

この変更は、家を借りる人だけの話ではありません。政府資料では対象となる民間賃貸市場に約1100万人の借り手と約230万人の大家がいるとされ、家賃交渉、退去通知、修繕をめぐる相談、学生向け賃貸の運用まで、日常の契約実務をまとめて書き換える制度改正です。

  • 2026年5月1日から、民間賃貸の多くは固定期間型からローリング型の契約へ移行
  • 大家は退去を求める際、原則として法定の理由を示す必要がある
  • 家賃の引き上げは年1回まで、少なくとも2か月前の通知が必要
  • 物件データベース、オンブズマン、住宅基準の強化は後続段階で導入予定
目次

何が変わったのか

中心は、退去と家賃のルールです。

英国政府のRenters’ Rights Act案内によると、同法は民間賃貸の契約構造を変え、Section 21の廃止、定期借家型から周期型契約への移行、家賃引き上げ手続きの統一などを進めます。

Section 21が使えなくなる意味

これまでSection 21は、大家が理由を示さずに退去手続きを始められる仕組みとして知られていました。新制度では、大家が退去を求める場合、Section 8の法定理由を使う形になります。

主な理由には、家賃滞納、反社会的行為、物件売却、大家本人や家族の入居などがあります。ただし、売却や自己使用を理由にする場合でも、新しい契約の最初の12か月は使えない保護期間が設けられ、通知期間も長くなります。

つまり、「退去してほしい」だけでは足りず、理由と手続きが前面に出る制度になったということです。借り手が退去に応じなければ、大家は裁判所で理由を示す必要があります。

固定期間からローリング契約へ

政府の2026年情報シートでは、2026年5月1日以降、対象となる契約は自動的にローリング型のAssured Periodic Tenancyへ移ると説明されています。

借り手は、通常2か月前に通知すれば契約を終えられます。一方で、大家側が契約を終えるには法定理由が必要です。12か月契約の満了時に更新するかどうかを迫られる、というより、住み続けることを前提に、必要な場合にだけ終了手続きを取る形へ寄ります。

借り手と大家のどこに効くのか

この制度改正の実務上の焦点は、借り手の安心感だけではありません。大家、仲介業者、地方自治体の仕事も変わります。

借り手側では、修繕や不当な家賃上げに声を上げた直後に退去通知を受ける、という不安が小さくなります。家賃の引き上げは原則として年1回までで、大家は少なくとも2か月前に通知しなければなりません。市場家賃を超えると考える場合、借り手はFirst-tier Tribunalに争う道があります。

大家側では、物件を売る、家族を住ませる、滞納に対応する、といった場面で証拠と手続きの管理が重くなります。民間賃貸を事業として続けるなら、契約書、通知書、家賃改定、入居者対応の記録を整える必要があります。

変更点を生活場面に落とすと、特に次の場面で差が出ます。

  • 借り手が水漏れ、カビ、暖房不良などを相談する場面
  • 大家が売却や自己使用を理由に退去を求める場面
  • 家賃上昇が急で、借り手が市場相場を争う場面
  • 子どもがいる世帯や給付を受ける世帯が物件を探す場面
  • ペット飼育の希望を大家に出す場面

地方自治体にも新しい役割があります。たとえばレスター市は、同法に関する案内で、苦情調査、執行、民事制裁などの権限に触れています。制度が紙の上で変わるだけでなく、現場の相談窓口がどこまで動けるかが問われます。

まだ始まっていない部分も重要

5月1日にすべてが完成したわけではありません。英国政府の実施ロードマップは、改革を3段階に分けています。

ここがポイント: 2026年5月1日は「退去と契約構造」の転換点であり、物件データベース、オンブズマン、住宅品質基準の強化はこれから段階的に入る。

第2段階では、民間賃貸物件のデータベースが late 2026 以降に地域展開される予定です。大家の連絡先、物件情報、安全関連情報などを集め、借り手が物件を選ぶ時の判断材料にする構想です。

オンブズマン制度も予定されています。政府ロードマップでは、大家の加入義務化は制度準備を経て2028年を見込むとされています。裁判に行く前の苦情処理を作る狙いです。

さらに、Decent Homes StandardやAwaab’s Lawの民間賃貸への拡張も後続段階です。ここは住環境の最低基準や危険な状態への対応期限に関わるため、退去ルール以上に生活の質へ直結します。

なお、社会住宅の一部には別スケジュールがあります。政府の社会住宅向け実施資料では、Private Registered Providerが提供する社会住宅のassured tenancyについて、2026年5月1日ではなく2027年10月から適用すると説明されています。

日本から見ると何が参考になるか

日本の賃貸制度とイングランドの制度は同じではありません。単純に「日本も同じにすべき」とは言えません。

それでも、この改正が示している論点は日本の読者にも分かりやすいものです。住宅が不足し、家賃が上がり、修繕や退去をめぐる不安が強まると、賃貸契約は単なる民間取引では済まなくなります。

特に参考になるのは、次の3点です。

  • 退去を求める側に、理由と証拠を求める設計
  • 家賃上げを禁止せず、手続きと異議申し立てを整える設計
  • 物件情報、苦情処理、住宅基準を後からつなぐ段階的な設計

イングランドの改正は、家賃そのものを一律に固定する制度ではありません。政府資料も、大家が市場価格に合わせて家賃を上げること自体は否定していません。焦点は、退去圧力や不透明な手続きで借り手が弱い立場に置かれないようにすることです。

ここは、日本でも賃貸住宅の更新、修繕、退去、保証会社、家賃上昇を考えるときの比較材料になります。制度の名前は違っても、借り手が「言えば住めなくなるかもしれない」と感じる場面は、どの国でも住宅政策の核心です。

今後の注目点

次に見るべきは、制度が現場で機能するかです。

  • 2026年5月31日までに、既存契約の借り手へ情報シートが届くか
  • Section 8の理由をめぐる裁判所・自治体の運用が詰まらないか
  • 家賃引き上げへの異議申し立てが、借り手にとって使える制度になるか
  • 2026年後半以降の物件データベースが、実際に物件選びへ役立つ情報を出せるか
  • 2028年見込みのオンブズマンが、裁判前の解決ルートとして機能するか

5月1日の改正で、イングランドの民間賃貸は「契約満了で出るか残るか」から、「住み続ける前提で、退去には理由を示す」方向へ踏み出しました。次の焦点は、大家が制度を守れる準備を整え、借り手が新しい権利を実際に使えるかどうかです。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次