イングランド、賃貸住宅の家主登録を義務化へ 物件情報を自治体の監督につなぐ|2026年9月14日版
イングランドで、民間賃貸住宅の家主と物件を全国データベースへ登録する制度が2026年12月15日に始まる。最初の対象はウェスト・ミッドランズで、その後12カ月かけて地域別に広げる計画だ。
これは単なる名簿づくりではない。自治体が問題のある家主や住宅を見つけやすくし、将来は入居希望者も登録状況を確認できるようにする。住まいを借りる前の情報格差を縮める制度として注目される。
- 2026年12月15日、ウェスト・ミッドランズから登録義務化
- 対象地域の家主には原則3カ月の登録期間
- 現在賃貸中、または展開期間中に入居が始まる対象物件から登録
- 全地域の現役家主は2027年11月14日までに登録を終える予定
何が始まるのか
英住宅・コミュニティ・地方自治省は9月9日、「Register your rental property」と呼ぶ全国登録サービスの展開日程を発表した。
家主は自分自身の登録に加え、貸し出す住宅ごとに個別の物件情報を登録する。英国の家主団体National Residential Landlords Association(NRLA)の制度解説によると、年間登録料は1物件当たり65ポンド。家主番号と物件番号が発行され、登録は毎年更新する仕組みとなる。
登録対象は、当初は保証賃貸借などの対象契約で実際に貸し出されている住宅だ。空室については、対象地域での展開中に入居が始まれば登録が必要になる。
将来は制度をさらに広げ、入居者を募集する前の空室にも登録を求める方針だ。賃貸広告には家主と物件の登録番号を表示させる。ただし、この広告段階の義務化には追加の法整備が必要で、開始日はまだ決まっていない。
地域ごとに期限をずらす
全国一斉ではなく、次の順序で登録義務を展開する。
- ウェスト・ミッドランズ:2026年12月15日開始、2027年3月14日期限
- イングランド東部:2027年1月15日開始、4月14日期限
- イースト・ミッドランズ:2027年2月15日開始、5月14日期限
- イングランド南東部:2027年3月15日開始、6月14日期限
- ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー:2027年4月15日開始、7月14日期限
- イングランド北西部:2027年5月15日開始、8月14日期限
- イングランド北東部:2027年6月15日開始、9月14日期限
- ロンドン:2027年7月15日開始、10月14日期限
- イングランド南西部:2027年8月15日開始、11月14日期限
家主は自分の地域で義務化される前でも、2026年12月15日以降なら早期登録できる。
登録されるのは住所だけではない
制度の実効性を左右すのは、集める情報の具体性だ。NRLAが関連規則を基に整理した内容では、登録項目は家主の連絡先や物件住所だけにとどまらない。
住宅と契約の情報
家主は物件ごとに、次のような情報を提出する。
- 所有形態と住宅の種類
- 寝室数
- 家賃額、支払い頻度、光熱費を含むかどうか
- 居住人数と世帯数
- 家具付きかどうか
- HMO(複数世帯が設備を共用する住宅)などの免許が必要か、取得済みか
家賃や居住人数まで記録するため、自治体は「誰がどの住宅を所有しているか」だけでなく、その住宅がどのような条件で貸されているかを把握しやすくなる。
安全関連の記録
さらに、ガス安全記録、電気設備の検査証明、エネルギー性能証明書(EPC)などの情報も対象となる。登録後に家賃や入居人数、安全証明書などが変わった場合は、原則28日以内の更新が必要だ。
ここがポイント: 全国データベースは、家主の身元確認と住宅の安全情報を一つの記録に結び付ける。自治体は違反の疑いがある物件を探しやすくなり、将来は借り手も契約前に登録の有無を確かめられる。
借り手にとって何が変わるのか
直ちにすべての物件情報を一般検索できるわけではない。政府発表では、入居者が登録状況を閲覧できる公開機能は将来導入するとされており、開始時期や公開項目の詳細は未確定だ。
それでも、制度が予定通り整えば契約前の確認手段が増える。
- 貸主が制度上の登録を済ませているか
- 広告に表示された番号と物件が対応しているか
- 基本的な法的要件を満たしているか
現在、物件の安全性や家主の法令順守について、入居希望者が内見や広告だけで判断するのは難しい。公開機能は、この情報差を小さくする役割を持つ。
一方、家主の住所や生年月日、連絡先などを無制限に公開する制度ではない。政府は、借り手が確認できる法令関連情報と家主のプライバシーを両立させるとしている。何を一般公開し、何を自治体だけが閲覧できる情報にするかは、今後の重要な設計課題だ。
自治体の住宅監督はどう変わるか
制度のもう一つの柱は、地方自治体による執行だ。
これまで自治体が劣悪な住宅や悪質な貸主に対応する場合、地域内の賃貸物件と所有者を特定する作業そのものが負担になり得た。全国登録が整えば、安全証明や免許の情報を照合し、調査が必要な物件を絞り込みやすくなる。
Renters’ Rights Act 2025は、データベースに関する義務違反への制裁枠組みも設けている。NRLAの解説では、登録情報を更新しない、将来の広告表示義務に反するといった違反には最大7,000ポンド、虚偽情報の提供や違反の反復などには最大40,000ポンドの民事制裁金が想定されている。
ただし、自治体がこれらの権限を実際に行使するには追加の法整備が必要な部分もある。登録サービスの開始と、すべての制裁が同時に動き出すわけではない点には注意が要る。
家賃引き上げの争いも別ルートへ
今回の政府発表には、家主登録とは別に、家賃引き上げへの異議申立てを処理する仕組みの変更も盛り込まれた。
現在は、提示された値上げが市場水準を超えると考える借り手がFirst-tier Tribunalへ申し立てる。政府は今後、初期判断を歳入関税庁(HMRC)傘下のValuation Officeに移し、判断の迅速化と審判所の負担軽減を図る方針だ。
新しい仕組みが完成するまで、異議申立て先は従来どおりFirst-tier Tribunalとなる。政府によれば、申立てが行われた場合、最終判断が出るまで借り手は引き上げ後の家賃を支払う必要がない。
登録データに家賃額が含まれることを考えると、将来的には物件情報の整備と紛争処理が互いに補完する可能性がある。ただし、データを家賃査定にどう使うかは政府発表だけでは明らかになっていない。
日本から見るべきなのは「契約前に確認できる情報」
日本にも賃貸住宅管理業者の登録制度や宅地建物取引業者への規制はあるが、今回のイングランドの制度は、個々の家主と物件、安全関係の情報を全国規模で結び付けようとしている点が特徴だ。
日本で同様の発想を検討するなら、単にデータベースを作るかどうかではなく、借り手が契約前に何を確認できるかが焦点になる。
- 貸主や管理主体の登録状況
- 必要な点検や免許の有無
- 広告と公的記録の照合方法
- 個人家主のプライバシー保護
- 登録情報を自治体の立入検査や相談対応へつなげる手順
情報を集めても、更新されず、相談や監督にも使われなければ効果は薄い。イングランドでは地域別展開によって運用上の問題を修正できる反面、地域によって義務化時期が異なるため、家主と借り手への周知が複雑になる。
今後の注目点は3つ
制度の評価には、登録件数だけでなく現場での利用状況を見る必要がある。
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公開機能の開始時期と範囲
借り手が閲覧できる情報、検索方法、個人情報を隠す基準がまだ固まっていない。 -
自治体がデータを執行へつなげられるか
違反候補を見つけても、調査や改善命令を担う人員と予算が不足すれば効果は限られる。 -
小規模家主の登録負担
年間費用に加え、物件、安全証明、家賃、居住状況を継続的に更新する作業が発生する。
最初の確認日は2026年12月15日だ。ウェスト・ミッドランズで登録が円滑に進むか、そして集めた情報が住宅の安全改善や借り手の契約判断に実際につながるかが、全国展開の成否を測る試金石になる。
