容器デポジットは日本にも必要? 世界の返却制度から見える「効く条件」
飲料容器のデポジット制度は、返却場所が身近にあり、預け金が無視できない金額なら、容器の回収とポイ捨て削減に効果がある。一方、買ったときの支払額は一時的に増え、返却できない人には実質的な負担となる。
日本では2024年度の指定PETボトル回収率が91.9%に達している。海外の制度をそのまま導入すればよいわけではなく、既存の自治体回収や店頭回収より何を改善するのかが判断の軸になる。
この記事の要点は次の4つだ。
- デポジットは追加料金ではなく、容器を返すと戻る「預け金」
- ノルウェーでは2024年のデポジット返却率が93%、総回収率が98%
- オーストラリアでは制度導入後、対象容器の散乱量が減った州がある
- 日本では高い既存回収率を踏まえ、ポイ捨て対策や質の高い再生に目的を絞る必要がある
デポジット制度は「捨てる前」にお金を戻す仕組み
制度の核心は、空き容器を価値のある物に変えることだ。
対象の飲料を買うと、商品代とは別に一定額を支払う。飲み終えた容器をスーパーの回収機や有人窓口へ持ち込むと、その金額が現金や買い物券などで返ってくる。
典型的な流れは単純だ。
- 消費者が飲料代とデポジットを支払う
- 消費者が空き容器を指定の返却場所へ運ぶ
- 機械や店員がバーコード、材質、形状を確認する
- デポジットが返金され、容器は分別された状態で再資源化へ回る
返却すれば、原則としてデポジットそのものは消費者負担にならない。ただし、保管する場所、返却に使う時間、店舗までの距離は消費者が引き受ける。
また、制度の運営費までデポジットで賄うとは限らない。国や自治体が法的な枠組みをつくり、飲料メーカーなどが運営組織へ費用を拠出し、小売店が返却窓口を担う形が多い。
ここがポイント: デポジットの効果は金額だけでは決まらない。返却場所の密度、対象容器の分かりやすさ、返金方法までそろって初めて「返す方が楽」という行動につながる。
世界の制度は何を減らしているのか
確認できる効果は、容器の回収量を増やし、散乱ごみを減らすことだ。 ただし、使い捨て容器そのものの販売を減らす制度とは区別する必要がある。
ノルウェーは少額でも高い返却率
ノルウェーでは、0.5リットル以下の対象容器に2ノルウェークローネ、それを超える容器に3クローネのデポジットが付く。プラスチック飲料ボトルとアルミ缶が対象で、ガラス瓶や牛乳パックは別の回収制度に回る。
運営団体Infinitumの年次報告によると、2024年のデポジット返却率は93%、ほかの回収経路も含む総回収率は98%だった。金額の大きさだけでなく、店舗の回収機へ日常の買い物と一緒に持ち込めることが高い回収を支えている。
ドイツでは一律25ユーロセント
ドイツの使い捨て飲料容器では、1本または1缶につき少なくとも0.25ユーロのデポジットが課される。まとめ買いをするとレジでの支払額が目立って増えるため、容器を返す動機は強い。
一方、ドイツには繰り返し使う瓶などのリユース容器にも別のデポジットがある。ここで重要なのは、高い回収率と容器の再使用は同じではないという点だ。使い捨てPETボトルを回収して再生しても、洗浄して何度も使う瓶と同じ環境効果になるとは限らない。
オーストラリアでは散乱ごみの減少も確認
オーストラリアでは州・準州ごとに制度を運営し、対象容器を返すと通常10豪セントが戻る。連邦政府の報告では、制度が動いていた6地域で2022~23年度に約62億個が回収され、平均返却率は66%だった。
数字はノルウェーより低いが、ニューサウスウェールズ州では2017年の制度開始後、対象飲料容器の散乱量が52%減ったと報告されている。回収率だけで制度を評価すると見落としやすいが、公園や道路、水辺へ流出する容器を減らす効果も重要だ。
デポジットは「ごみの発生」まで減らすのか
容器の回収には効いても、飲料容器の使用量を自動的に減らすわけではない。 ここが制度を評価する際の注意点になる。
返却された使い捨て容器は、状態のよい資源として集めやすい。ほかのごみや異物が混ざりにくく、再びボトルや缶にする「水平リサイクル」に向いた材料を確保できる。
しかし、消費者が必ず返金を受けるなら、飲料の実質価格は大きく変わらない。使い捨て容器を買う行動自体を抑える力は限定的だ。
制度の成果は分けて見る必要がある。
- 回収率:販売された対象容器のうち、回収された割合
- リサイクル率:回収後の異物や工程残さを除き、実際に再資源化された割合
- 散乱ごみ:道路や公園などに捨てられた容器の量
- リユース率:洗浄して同じ容器を再使用した割合
回収率だけが高くても、再資源化の工程で大量の残さが出れば資源循環の効果は弱まる。逆に販売量が増え続ければ、比率が改善しても処理する容器の総量は減らない。
消費者負担は「返せるか」で変わる
預け金を回収しやすい人には負担が小さく、返却しにくい人ほど負担が残る。
車で大型店へ行く家庭なら、空き容器をまとめて返しやすい。ところが、徒歩で買い物をする高齢者、障害のある人、近くに回収拠点がない地域の住民にとっては、容器の保管と運搬が壁になる。
制度設計で確認すべきなのは次の点だ。
- 小規模店を含め、どこで返せるのか
- 容器をつぶしても受け付けるのか
- 現金、電子マネー、買い物券のどれで返金するのか
- 宅配利用者や移動が難しい人に回収手段があるか
- 未返却分のデポジットを誰が受け取り、何に使うのか
英国の価格表示に関する意見募集では、回答者の91%が商品価格とデポジットを分けて表示する案に賛成した。一方、「返却しない人には商品価格の上昇になる」との懸念も寄せられた。
制度そのものへの英国の意見募集では原則への賛成が多数だったが、既存の戸別回収との重複や消費者の混乱を心配する声もあった。小売店側には、回収機の設置場所、保管スペース、スタッフの作業、回収物流という負担が生じる。とりわけ店舗が小さい地域では、返却の便利さと店の負担が衝突しやすい。
日本は高い回収率をどう評価するべきか
日本での論点は、回収率をゼロから引き上げることではなく、現在の仕組みで取りこぼす容器をどう減らすかだ。
PETボトルリサイクル推進協議会によると、2024年度の指定PETボトルは販売量65万2,000トン、確認された回収量60万トンで、回収率は91.9%だった。実際の再資源化量を基にしたリサイクル率は85.1%である。
この数字は、自治体の分別収集、スーパーなどの店頭回収、事業所や自動販売機周辺からの回収を組み合わせた結果だ。ただし業界団体の集計であり、海外制度と対象容器や計算方法が同一ではない。単純な順位付けはできない。
日本で全国一律のデポジットを導入すると、自治体が集めてきた有価性の高いPETボトルが店頭回収へ移り、自治体の収集量や資源売却収入が変わる可能性がある。住民側では、これまで資源ごみの日に出せた容器を店まで運ぶ手間が増える場合もある。
だからこそ、導入を検討するなら目的を具体化する必要がある。
- 駅前、観光地、イベント会場のポイ捨てを減らす
- 自動販売機で売った容器の回収責任を明確にする
- ボトルからボトルへ戻せる、汚れの少ないPETを確保する
- 自治体ごとの分別方法の違いを補い、外出先でも返せるようにする
目的が曖昧なままでは、既存回収に別の回収網を重ね、消費者と小売店の手間だけを増やしかねない。
今後見るべき分岐点
デポジット制度の成否を分けるのは、返却しなかった人からお金を集めることではなく、誰もが返せる網をつくれるかどうかだ。
EUでは、原則として2029年までに容量3リットル以下の使い捨てプラスチック飲料ボトルと金属飲料容器を90%分別回収する方針が示されている。英国も制度開始を2027年10月に予定しており、回収拠点、物流、表示、IT基盤の準備を進めている。
日本で議論が進む場合、注目すべき点は3つに絞れる。
- 既存の91.9%という回収率から、何をどこまで改善するのか
- 高齢者や地方居住者にも返却場所が十分に届くのか
- メーカー、小売店、自治体、消費者の費用と作業を公開できるか
海外の高い返却率は、デポジットという料金設定だけの成果ではない。買い物のついでに返せる設備と、回収後の物流を長年かけて整えた結果だ。日本で試すなら、全国一律導入の是非を先に決めるのではなく、散乱ごみが多い場所などで、回収量だけでなく住民の移動負担や小売店の作業時間まで測ることが次の一歩になる。
