MENU

渋滞課金で車は減る、それでも渋滞が消えない理由

都市中心部へ向かう車と公共交通、電子課金設備を描いたイメージ。

渋滞課金で車は減る、それでも渋滞が消えない理由

都市の渋滞課金は、対象区域を走る車の数を減らす手段としては効く。ただし、道路工事や配送車の増加、信号制御、道路空間の再配分まで解決する制度ではないため、車が減っても走行時間の改善が続くとは限らない。

ロンドン、ストックホルム、シンガポールを比べると、成否を分けるのは料金の高さだけではない。いつ、どこを走ると、いくら払うのか。そして、車を使わない人にどんな移動手段を用意するのかが重要になる。

  • ロンドン:定額の日額制で、仕組みは分かりやすい
  • ストックホルム:時間帯別料金と試行導入で、効果を住民に示した
  • シンガポール:場所と時間に応じて料金を細かく調整する
  • 共通点:課金だけでなく、公共交通と道路管理を組み合わせている
目次

「車を減らす」と「渋滞をなくす」は別の目標

渋滞課金が直接動かすのは、運転する人の選択だ。 都心へ入る時間をずらす、別の道を使う、鉄道やバスへ乗り換える、といった行動を料金によって促す。

道路は、交通量が容量に近づくと、少し車が増えただけで流れが急に悪くなる。逆に、ピーク時の車を一定数減らせれば、減少率以上に所要時間が改善する場合がある。これが渋滞課金の基本的な狙いだ。

一方、都市の走りにくさは車の台数だけで決まらない。

  • 道路工事や事故で車線が狭くなる
  • バス停、横断歩道、自転車レーンに道路空間を振り向ける
  • 宅配や配車サービスなど、課金を負担しても走る車が増える
  • 信号や交差点がボトルネックになる

この違いが最もはっきり表れたのがロンドンだった。

ロンドンでは交通量が減っても、時間短縮は続かなかった

ロンドンの実績は「課金は無効」ではなく、「課金だけでは渋滞を固定的に減らせない」と読むべきだ。

ロンドンは2003年、中心部に日額制のCongestion Chargeを導入した。導入直後、課金区域内を走る交通量は約15%減り、混雑による遅れは約30%改善した。

しかし、Transport for London(TfL)の導入後6年目の報告書によると、2007年の混雑水準は導入前と同程度に戻った。重要なのは、区域内を走る交通量の削減自体は維持されていた点だ。道路容量を左右する別の要因が、初期の時間短縮効果を打ち消した。

2026年から日額18ポンドへ

ロンドンは制度をやめるのではなく、抑制力を保つ方向へ動いた。2026年1月2日から日額料金は15ポンドから18ポンドへ引き上げられ、平日は午前7時から午後6時、土日・祝日は正午から午後6時までが対象となっている。

区域内では1日に何度走っても基本料金は同じだ。利用者には分かりやすいが、短距離を一度だけ走る車と、区域内を長時間走る車の負担が同額になる。

2025年の制度変更を巡る意見募集では、事業者から配送費への影響が、労働組合からは自家用車を必要とする介護・医療関係者などへの負担が指摘された。ロンドン市長の決定文書は、低所得者や障害のある住民への影響も論点になったと記録している。

料金を上げればよい、とは言い切れない理由がここにある。

ストックホルムは「試してから決める」で支持を広げた

ストックホルムの特徴は、時間帯別料金以上に、住民が効果を体験してから判断できる手順にある。

2006年1月から7月まで、ストックホルムは都心へ出入りする車を対象に課金を試行し、公共交通も増強した。その後、住民投票を経て2007年に恒久化している。

試行時の目標は、課金境界を通過する車を10〜15%減らすことだった。試行結果を分析した研究では、予想を上回る交通量減少と、住民が実感できる旅行時間の改善が確認された。導入前には否定的だった世論が、試行期間中に肯定へ動いたことも報告されている。

混む時間ほど高く、1日の上限も設ける

ストックホルムでは、都心への出入りと一部の幹線道路通行について、通過のたびに課税する。2026年の都心部料金は、通常期が1回11〜35スウェーデン・クローナ、繁忙期が11〜45クローナ。1日上限は通常期105クローナ、繁忙期135クローナだ。

スウェーデン運輸庁の料金表を見ると、朝夕のピークを高く、日中を低く設定している。日額一律のロンドンより、時間をずらす動機が強い。

ここがポイント: ストックホルムで支持が広がったのは、制度の説明だけでなく、試行期間中に「車が減り、移動時間が変わる」ことを住民が確認できたからだ。

ただし、負担の公平性が自動的に確保されるわけではない。鉄道やバスへ切り替えられる通勤者と、勤務時間や送迎の都合で車を使わざるを得ない人では、同じ料金でも重さが違う。

シンガポールは料金を交通状況に合わせて動かす

シンガポールのERPは、税収確保よりも、道路を一定速度で流すための調整弁に近い。

Electronic Road Pricing(ERP)は1998年に始まった。車がゲートを通過すると課金され、料金は車種、場所、時間帯によって変わる。陸上交通庁(LTA)の説明では、料金を原則30分単位で設定し、交通状況に応じて四半期ごとに見直すとしている。

ドライバーには次の選択肢が生まれる。

  • 課金時間の前後へ移動をずらす
  • 別の経路を選ぶ
  • 公共交通へ切り替える
  • 必要性が高ければ料金を払って走る

ロンドンが「都心へ入る1日」を単位にするのに対し、シンガポールは「混雑する場所を特定の時間に通る行動」を細かく対象にする。渋滞が移るたびに料金設定を調整できる一方、利用者には制度が複雑に見えやすい。

ERP 2.0でも距離課金はまだ始まらない

現在は衛星測位技術を使うERP 2.0への移行が進んでいる。ただし、LTAの案内によると、移行中も従来の地点・境界ベースの課金を続け、距離課金の開始は数年先としている。

新しい車載器については、機器の配置や使い勝手に利用者から意見が寄せられた。シンガポール運輸省の国会答弁でも、利用者の懸念を踏まえた導入方法が議論された。高度な課金技術であっても、毎日触れる機器が使いにくければ制度への納得を損なう。

3都市の比較で見える「効く条件」

効果が出やすいのは、料金を避ける現実的な選択肢があり、課金対象を混雑の原因に合わせて調整できる都市だ。

1. 公共交通が代替手段として使える

課金区域へ鉄道やバスで到達できなければ、運転をやめるのではなく、家計や事業者が追加費用を負担するだけになりやすい。運行本数、始発・終電、乗り換え、郊外の駐車拠点まで含めた準備が必要だ。

2. 料金収入の使い道が見える

住民が見るのは、徴収額だけではない。その収入が公共交通の増強、道路整備、徒歩・自転車環境などへどう戻るかも判断材料になる。

ストックホルムでは、国、地方自治体、地域の政治主体が収入の使途を調整してきた。スウェーデン交通局は、渋滞緩和、環境改善、インフラ投資への資金確保を制度の目的として示している。

3. 免除を増やしすぎない

低所得者、障害者、緊急車両、医療・介護、地域住民への配慮は欠かせない。一方で、免除対象が広すぎれば交通量は下がらず、料金を払う人だけに負担が集中する。

公平性は「全員を同額にすること」ではなく、次の三つを同時に検討する必要がある。

  • 車を使わざるを得ない理由
  • 公共交通へ切り替えられる可能性
  • その車が道路混雑へ与える影響

日本で考えるなら、まず小さく試すべきだ

日本で導入を検討するなら、都市全体への一斉課金より、混雑地点と時間を絞った試行が現実的だ。

東京都は過去にロードプライシングを検討し、公平で確実な徴収方法や迂回交通への対策を課題として整理した。日本では既に都市高速道路が有料であり、海外の都心課金をそのまま移植すると、負担関係が分かりにくくなる。

試行するなら、導入前に評価指標を公開する必要がある。

  • 課金地点を通る車は何%減ったか
  • バスや物流車の所要時間は短くなったか
  • 周辺の生活道路へ車が流れていないか
  • 鉄道やバスの混雑が悪化していないか
  • 所得、職業、居住地によって負担が偏っていないか
  • 料金収入を何に、いくら使ったか

見落としてはいけないのは、平均的な自動車利用者ではなく、選択肢の少ない人だ。早朝勤務の介護職、工具を運ぶ修理業者、公共交通が少ない郊外から通院する人では、料金を避ける難しさが異なる。

渋滞課金は、車を減らす点では実績がある。しかし、制度の本当の評価は徴収額では決まらない。課金後にバスが時間どおり走るのか、配送が安定するのか、そして負担の重い人に代替手段が届くのか。 日本で次に見るべきなのは、その三つを実地で確かめられる試行計画が出てくるかどうかだ。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次