災害時、コミュニティFMはどこまで頼れる? 足利の防災ラジオが示す「SNSとの使い分け」
災害時のコミュニティFMは、SNSの代わりではない。停電や通信混雑に備え、避難情報と地域の生活情報を同じ地域へ繰り返し届けるための「もう一本の経路」として役立つ。
栃木県足利市は、地域局「FM DAMONO」の電波を使い、緊急放送を自動受信する防災ラジオ500台の貸与を進めた。スマートフォンを持たない人も対象に含めた取り組みだが、受信範囲、人員、情報確認の仕組みがなければ、ラジオを配るだけでは十分ではない。
この記事の要点は次の4つだ。
- 足利市の防災ラジオは、電源を切っていても緊急放送を自動起動し、最大音量で流す
- コミュニティFMの強みは、全国ニュースでは拾いにくい避難所、道路、給水などの狭い地域情報にある
- SNSは速報性と検索性に優れる一方、通信障害、誤情報、情報量の多さが弱点になる
- 実効性を決めるのは機器の台数より、平時の受信確認、自治体との訓練、放送を続ける人員である
足利市が整えたのは「聞こうとしなくても届く」仕組み
足利市の取り組みで重要なのは、ラジオ放送そのものより、緊急時に受信機を自動で起動させる点だ。
足利市は2025年5月19日、足利コミュニティFM株式会社と災害時緊急放送に関する協定を締結した。市の公表資料によると、大規模災害などの際は「FM DAMONO」(88.3MHz)の放送へ強制的に割り込み、市民へ災害情報を伝える仕組みで、運用開始は2026年4月を予定していた。
これに合わせて市は、防災ラジオ500台の貸与を案内した。対象は市内の世帯だけでなく、市内に事務所を持つ法人、自治会、任意団体も含む。負担額は通常3,000円。災害警戒区域に住む人や避難行動要支援者などのうち、スマートフォンや携帯電話を持たない人は1,000円とされた。
防災ラジオが受信する主な情報は、次のような「すぐ行動につなげる情報」だ。
- 緊急地震速報
- 気象特別警報
- Jアラートによる情報
- 足利市が発令する避難指示など
一般のラジオと違い、電源がオフの状態でも緊急放送を受けると自動で起動し、最大音量で知らせる。アプリを開いたり、通知欄から必要な情報を探したりする操作はいらない。
ここに、災害時のコミュニティFMの意味がある。スマートフォンを使い慣れていない人、就寝中の人、情報を自分から取りに行けない人にも、避難行動のきっかけを届けられるからだ。
ただし、市の案内は申し込み前に設置予定場所でFM DAMONOを受信できるか確認するよう求めている。窓の近くへの設置も推奨しており、同じ市内でも建物や地形によって電波の入り方が違うというFM放送の限界も明記している。
コミュニティFMが得意なのは「その町で今必要な情報」
広域メディアが災害の全体像を伝えるのに対し、コミュニティFMは住民が次に何をすべきかを住所に近い粒度で伝えられる。
大きな地震や水害が起きると、テレビは震源、河川の状況、被害規模、政府の対応を広く報じる。一方、避難生活で繰り返し必要になるのは、もっと狭く具体的な情報だ。
- どの避難所に空きがあるか
- 給水車は何時にどこへ来るか
- 通行止めで使えない道路はどこか
- 営業を再開した診療所や薬局はあるか
- ごみ収集や学校再開はいつか
- 支援物資の配布条件は何か
こうした情報は更新が細かく、隣の市町村では内容が違う。地域局なら、地名や施設名を省略せず、必要に応じて何度も読み上げられる。
内閣府の広報誌は、2026年2月時点で全国に342のコミュニティ放送事業者があり、多くの局が地元自治体と災害時の協定を結んでいると紹介している。局数の多さだけで実効性は判断できないものの、地域放送が防災情報網の一部として各地に組み込まれていることは分かる。
ここがポイント: コミュニティFMの価値は「ラジオなら必ずつながる」ことではなく、自治体が確認した情報を、地域名を挙げて、通信回線とは別の経路で繰り返し届けられることにある。
平時の番組も防災機能の一部になる
足利のFM DAMONOは2024年5月に開局し、通常番組の中でも市のお知らせや防災情報を放送してきた。
災害時だけ突然現れる局ではなく、普段から地域の店、学校、団体、行政職員が出演する局であれば、住民は周波数や声に慣れやすい。局側も地名の読み方、浸水しやすい場所、住民への伝わりやすい表現を蓄積できる。
緊急放送の設備があっても、住民が受信機を持たず、周波数を知らなければ届かない。日常の聴取習慣は、災害時の到達率を支える地味だが重要な条件だ。
SNS時代でもラジオが残る理由
SNSとラジオは競合する媒体ではなく、異なる弱点を補う組み合わせとして考えるべきだ。
内閣府が2025年8月に実施した防災に関する世論調査では、防災知識や情報の入手に今後活用したい媒体として、テレビが80.3%、ラジオが41.2%、SNSが39.3%だった。ラジオは古い媒体として消えたのではなく、SNSと並ぶ情報経路として残っている。
SNSが強い場面
SNSやメッセージアプリには、ラジオにはない利点がある。
- 画像、地図、URLを添えられる
- 過去の投稿をさかのぼって確認できる
- 個人が現場の異変を発信できる
- 多言語情報や文字情報を共有しやすい
- 聴覚障害のある人も利用できる
コミュニティFM局によるソーシャルメディア利用を調べた研究でも、文字や画像による発信は、在日外国人や聴覚障害者へ情報を届ける可能性があると指摘されている。音声放送だけですべての住民をカバーすることはできない。
ラジオが強い場面
一方、FM放送は送信所から受信機まで電波で直接届く。受信機側は乾電池でも動かせるため、家庭の停電や携帯電話網の混雑が起きたとき、通信回線とは別の経路を残せる。
また、音声は作業をしながら聞ける。避難所の片付け、炊き出し、車での移動中でも、同じ案内を繰り返し受け取れる。高齢者などスマートフォン操作に不安がある人にとっては、受信機を置いておくだけという単純さも利点になる。
ただし、FM局の送信設備や非常用電源が被災すれば放送できない。受信地域外には届かず、放送済みの内容を後から検索することも難しい。文字、地図、手話が必要な情報にも向かない。
つまり、適切な役割分担は次のようになる。
- ラジオ: 緊急情報を広く注意喚起し、地域の生活情報を反復する
- 自治体サイト・アプリ: 詳細、地図、申請方法、更新履歴を示す
- SNS・LINE: 新着情報を素早く知らせ、公式情報へ誘導する
- 防災行政無線・戸別受信機: 対象地域へ強制性の高い警報を届ける
一つの媒体に集約すると、その媒体が止まった瞬間に住民との接点も失われる。複数の経路で同じ公式情報を流すことが、災害時には安全側の設計になる。
ラジオがあっても情報がなければ放送できない
コミュニティFMの最大の課題は、電波よりも「誰が確認済み情報を集め、話し続けるか」にある。
2019年の台風19号で福島県須賀川市のULTRA FMが行った災害対応を検討した研究では、職員5人の局が市内を取材し、電話で情報を放送した。一方、市からの情報提供が滞り、局が独自に情報を集めざるを得ない場面もあったという。
小規模な地域局では、一人が取材、原稿作成、放送、電話対応を兼ねることもある。本人や家族が被災すれば出勤できない。行政側も避難所開設、救助、問い合わせ対応に追われ、放送用の情報整理が後回しになり得る。
必要なのは、協定書だけではない。
1. 情報を渡す担当者と形式を決める
自治体のどの部署が、誰の承認を得て、どの手段で局へ情報を送るのか。避難指示のような緊急情報と、給水時間の変更のような生活情報では、確認手順も異なる。
電話一本に依存せず、専用端末、メール、無線など複数の連絡手段を用意する必要がある。
2. 放送を交代できる人を確保する
災害放送は数時間で終わるとは限らない。避難生活が長引けば、給水、入浴、医療、交通、罹災証明など、必要な情報も変わる。
局員だけで回せない場合に備え、自治体職員、近隣局、地域の経験者が支援できる体制を事前に決めておくことが重要だ。
3. 誤情報を訂正できる経路をつくる
災害時のSNSには、住民から有用な現場情報が集まる一方、古い画像や未確認情報も混ざる。北海道胆振東部地震を扱った研究では、自治体など公的機関による訂正情報の発信が、誤情報の収束に有効だと示された。
コミュニティFMがSNS投稿を取り上げる場合も、そのまま読むのではなく、行政、消防、警察、施設管理者などへ確認する工程が欠かせない。速さを競いすぎれば、地域局の強みである信頼を損なう。
足利の仕組みを実効性で見る4つの確認点
防災ラジオの成否は、配布台数ではなく、住民が実際に受信し、放送を聞いて行動できるかで決まる。
足利市の取り組みは、スマートフォンを持たない人へ明確に目を向けた点で評価できる。ただし、2025年の協定ページには2026年4月の運用開始予定と記載されているため、今後は実際の運用状況や訓練結果を確認したい。
見るべき点は4つある。
- 500台が誰に届いたか: 情報取得に不安がある世帯へ優先的に行き渡ったか
- 市内のどこで受信できるか: 山間部、集合住宅、建物内部を含む受信状況が把握されているか
- 割り込み放送を訓練したか: 市職員から送信し、家庭の受信機が自動起動するまでを通して試したか
- 放送後の詳細情報へつなげられるか: LINE、消防防災メール、自治体サイト、避難所掲示と内容が一致しているか
住民側でも、受け取って置いたままにしてはいけない。乾電池を入れ、窓際など受信しやすい場所を決め、FM DAMONOの88.3MHzが聞こえるか確認する。家族で「ラジオから避難情報が流れたら、どの経路で避難するか」まで話しておけば、機器が行動に結びつく。
結局、コミュニティFMは本当に役立つのか
答えは「役立つ。ただし、単独では足りない」だ。
コミュニティFMは、通信回線に頼らず、狭い地域へ具体的な情報を繰り返せる。自動起動する防災ラジオと組み合わせれば、スマートフォンを持たない人や通知に気づきにくい人への到達力も高まる。
その一方で、電波が入らない場所、音声情報を利用しにくい人、放送設備や局員自身の被災という弱点がある。SNSにも、通信障害や誤情報という別の弱点がある。どちらか一方を選ぶ話ではない。
次の災害までに確認すべきことは具体的だ。
- 自宅で地域FMを受信できるか
- 乾電池式ラジオや防災ラジオがすぐ使えるか
- 自治体のLINE、防災メール、アプリを登録しているか
- 避難情報が出たときの避難先と経路を家族で共有しているか
足利市については、予定されていた2026年4月以降、割り込み放送がどの範囲で安定して届いているか、訓練でどんな課題が見つかったかが次の注目点になる。「ラジオを配った」で終わらず、届いたか、動けたかまで検証して初めて、地域放送は防災インフラになる。
