要介護認定を受けても始まらない介護 「ケアマネ探し3カ月」が示す入口の渋滞
要介護認定が出ても、担当するケアマネジャーが決まらなければ、在宅の介護サービスは動き出しにくい。いま各地で起きているのは、認定そのものではなく、認定後の「ケアマネ探し」で待たされる問題だ。
2026年7月のテレビ朝日の報道では、京都府の家族が居宅介護支援事業所へ電話をかけ続け、担当者が見つかるまで3カ月かかった。厚生労働省も、全国の自治体の約2割がケアマネジャーについて「大きく不足している」と回答したと明らかにしている。
- ケアマネジャーは、ケアプランの作成から事業者との調整、利用後の確認まで担う
- 不足すると、認定後も訪問介護やデイサービスの利用開始が遅れやすい
- 人数だけでなく、高齢化、報酬、業務外の依頼が重なる構造が問題になっている
- 見つからないときは、家族だけで電話を続けず地域包括支援センターへ相談する
認定後に止まるのは、サービスを組み立てる人がいないから
ケアマネジャーは、介護サービスの単なる紹介役ではない。 本人の状態や生活環境、家族の事情を確認し、必要な支援を一つの計画にまとめる専門職だ。
要介護1以上で自宅の介護サービスを利用する場合、一般的には次の順序で進む。
- 市区町村へ要介護認定を申請する
- 認定結果を受け取る
- 居宅介護支援事業所を選び、担当ケアマネジャーを決める
- 本人や家族の希望を踏まえてケアプランを作る
- 訪問介護、デイサービス、福祉用具などの事業者と調整する
- 利用開始後も状態を確認し、必要に応じて計画を見直す
厚労省の介護サービス情報公表システムによると、要支援1・2では地域包括支援センター、要介護1以上では指定を受けた居宅介護支援事業者へケアプラン作成を依頼するのが基本だ。
ケアプランの作成に利用者負担はない。一方、計画に基づいて使う訪問介護や通所介護などには、所得に応じて原則1~3割の自己負担が生じる。つまり、ケアマネジャー不足は「無料の相談役が足りない」というだけではなく、自己負担を伴う各種サービスへ進む入口そのものが細くなる問題である。
3カ月の空白が家族に残すもの
テレビ朝日の取材では、京都府で暮らす55歳の女性が、要介護2と認定された母親のケアマネジャーを自分で探した。市役所から受け取った一覧をもとに電話をかけても、休止中や満員を理由に断られ、決まるまで3カ月を要したという。
その間にも母親の状態は変化した。介護では、待っている時間も生活が止まるわけではない。
- 家族が仕事を休み、見守りや介助を補う
- 入浴、外出、服薬管理などの支援開始が遅れる
- 転倒や体調悪化への不安が強まる
- 家族が空き状況を一件ずつ確認する負担を背負う
報道を通じて目立ったのは、「認定を取れば自治体が担当者まで手配してくれると思っていた」という家族側の戸惑いだ。制度上の相談窓口があっても、認定後の具体的な探し方や、断られた場合の戻り先が伝わらなければ、家族は一覧表を頼りに動き続けることになる。
なぜ不足するのか 主因は仕事の重さと待遇のずれ
不足の中心にあるのは、需要が増える一方で、ケアマネジャーとして働き続ける条件が追いついていないことだ。
2026年3月時点の要支援・要介護認定者は約736万人。一方、ケアマネジャーの従事者数は約18万3,000人とされる。2022年度の18万3,278人は、2018年度のピーク18万9,754人から約6,500人減った水準だ。
さらに、2023年度の平均年齢は53.6歳で、60歳以上が約3割を占める。新たな担い手が十分に入らないまま引退が進めば、現在は持ちこたえている地域でも受け入れ枠が急に縮む可能性がある。
担当件数が増えても、仕事は書類作成だけではない
横浜市では、8年間で介護保険サービスの利用者が約2万7,000人増えた一方、ケアマネジャー数はほぼ横ばいだったと報じられている。取材を受けたケアマネジャーは48人を担当し、ある日には5軒を訪問していた。
ケアプランを一度作れば終わりではない。本人宅を訪ねて生活状況を確かめ、サービス事業者や医療機関と連絡を取り、認定更新にも対応する。認知症、独居、複数の病気、家族関係などが重なるほど調整先は増える。
担当できる人数を数字だけで広げても、本人や家族の話を聞く時間が削られれば、状態の変化や危険を見落としかねない。ケアマネジャー不足は、人数の問題であると同時に、一人ひとりに使える時間の不足でもある。
「何でも相談できる人」が無報酬の仕事を抱える
もう一つの重荷が、制度上の本来業務に含まれない「シャドウワーク」だ。
現場では、次のような依頼への対応が報告されている。
- 部屋の片付けやごみ出し
- 買い物、郵便物や宅配便の受け取り
- 公共料金などの支払い手続き
- 預貯金の引き出しや財産管理
- 救急搬送への同乗
- 入院中の着替えや必需品の調達
家族が遠方にいる独居高齢者にとって、ケアマネジャーが最も連絡しやすい相手になることは珍しくない。しかし、善意で引き受けた作業が積み重なると、本来のケアマネジメントに使う時間が失われる。
ここがポイント: ケアマネジャー個人の親切に生活上の困り事を集めるだけでは、人材を増やしても同じ負担が再発する。市町村が地域課題として整理し、家事支援、権利擁護、民間サービスなど適切な担い手へつなぐ仕組みが必要だ。
国、自治体、事業所は何を変えようとしているのか
対策は始まっているが、資格制度の変更だけで地域の受け入れ枠が直ちに増えるわけではない。 処遇、業務分担、復職支援を組み合わせる必要がある。
国は2026年7月、ケアマネジャーを対象とする賃上げ支援、資格更新制の廃止、シャドウワークを市町村主体で協議する枠組みの整備を挙げた。これまで指摘されてきた経済的・時間的な研修負担や、業務外対応を個人に背負わせる問題に手を入れるものだ。
役割を分けると、責任の所在が見えやすい。
- 国:介護報酬、資格要件、研修制度、業務基準を設計する
- 都道府県:試験・研修を実施し、資格保有者の復職や就労を支える
- 市町村:介護保険者として地域の需給を把握し、地域包括支援センターや職能団体と受け入れを調整する
- 居宅介護支援事業所:ケアマネジャーを雇用し、担当件数や業務分担を管理する
- 住民・家族:本人の希望と生活上の変化を伝え、必要な窓口へ相談する
徳島県は「資格を持つ未就業者」に着目
地域の具体策として、徳島県は資格を持ちながらケアマネジャーとして働いていない「潜在ケアマネ」の復職支援に乗り出した。徳島新聞によると、県内の潜在ケアマネは約800人とされ、就労につなげる養成研修を始めている。
これは新規合格者を待つより早く効果が出る可能性がある。ただし、離職した理由が待遇や仕事の重さにあるなら、研修だけで定着するとは限らない。復職後の相談体制、柔軟な勤務、業務外依頼を切り分ける仕組みまで整うかが重要になる。
ケアマネジャーが見つからないときの動き方
家族が一件ずつ電話を続けても決まらない場合、早い段階で公的な相談窓口へ戻ることが大切だ。 状況の緊急性も具体的に伝えたい。
1. 地域包括支援センターへ相談する
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口だ。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが配置され、必要に応じて担当候補の紹介や関係機関との調整を行う。
本人ではなく、離れて暮らす家族からも相談できる。窓口が分からなければ、本人が住む市区町村の介護保険担当課に尋ねるとよい。
2. 困っていることを「生活の変化」で伝える
「急いでいる」だけでなく、次のような事実を整理すると、優先すべき支援を判断しやすい。
- 一人で入浴や排せつができない
- 転倒が増えた、食事が取れていない
- 認知症による外出や服薬忘れがある
- 退院日が決まっている
- 家族が就労を続けられない状態にある
担当者がすぐ決まらなくても、自治体や地域包括支援センターが別の支援先を案内できる場合がある。要支援か要介護か、退院直後か、虐待や財産管理の懸念があるかによって、つなぐ先は変わる。
3. 公開システムでも事業所を確認する
厚労省の介護サービス情報公表システムでは、全国約21万カ所の介護サービス事業所を検索できる。居宅介護支援事業所や地域包括支援センターを地域から探す際に使える。
ただし、掲載情報だけでは現在の受け入れ余力までは分からないことがある。検索結果を候補リストとして使い、窓口の調整と併用するのが現実的だ。
次に見るべきは「何人増えたか」より待ち時間
資格更新制の廃止や賃上げ支援で離職が減り、潜在ケアマネの復職が進めば、供給は改善する可能性がある。しかし、生活者にとって重要なのは制度変更の数ではない。
今後、自治体ごとに確認したいのは次の点だ。
- 認定後、担当ケアマネジャーが決まるまで何日かかっているか
- 断られた人を地域包括支援センターがどう把握し、再調整しているか
- 山間部や離島を含め、地域別の空白が見える形で公表されるか
- シャドウワークを引き受ける地域資源が実際に整備されるか
- 復職者や新規就業者が数年後も働き続けているか
全国平均の人数が持ち直しても、必要な時期に自宅近くで担当者が決まらなければ、入口の渋滞は解消したことにならない。家族側は早めに地域包括支援センターへ相談し、行政側は「ケアマネが決まるまでの待ち時間」を地域の介護基盤を測る指標として捉える必要がある。
