MENU

エボラ感染8,000人超、治療薬もワクチンもないまま──コンゴ「史上最悪」の流行はどこまで広がるか|2026年9月29日版

コンゴ民主共和国東部で防護服を着た医療従事者とエボラ治療テント

エボラ感染8,000人超、治療薬もワクチンもないまま──コンゴ「史上最悪」の流行はどこまで広がるか|2026年9月29日版

コンゴ民主共和国(DRC)のエボラ出血熱で、確定患者が初めて8,000人を超えました。最新の集計では確定8,067人、死者3,901人、致死率は約48%です。

5月15日の流行宣言から4か月半。同国で17回目となる今回の流行は、約3,500人が亡くなった2018〜2020年の流行を上回り、DRC史上最大・最悪の規模になりました。

問題は数の多さだけではありません。原因はブンディブギョ型という珍しい種類のウイルスで、承認済みの治療薬もワクチンもありません。そこに武力紛争による住民の避難と、医療従事者の不足が重なっています。アフリカCDCは「制御できていない」とし、WHOも「終わりにはほど遠い」と見ています。

この記事の要点

  • 確定8,067人・死者3,901人。63の保健区域、26州のうち7州に広がっている
  • ブンディブギョ型には承認済みのワクチンも治療薬もない。別の型向けのワクチン「Ervebo」の効果を試す臨床試験が9月に始まったばかり
  • 同じ時期どうしで比べると、2014〜16年の西アフリカ流行(死者1万1,000人超)の約2倍のペースで患者が出ている
  • WHOの評価では、日本を含む世界全体へのリスクは「低い」。ただし、国境を接する国々のリスクは「高い」

目次

何が起きたか:「8,000人」の中身

今回の数字は、流行が拡大期にあることと、地域によっては落ち着き始めていることの両方を示しています。

数字で見る現状

WHOの報告によると、主な数字は次のとおりです。

  • 確定患者:8,067人(前回の報告から78人増)
  • 死者:3,901人(同49人増)
  • 入院・隔離中:773人
  • 回復者:2,070人
  • 接触者の追跡率:74.7%

新たに確認された78人の内訳は、イトゥリ州57人、北キブ州17人、オー・ウエレ州3人、バ・ウエレ州1人です。

震源地はイトゥリ州、死亡率が高いのは北キブ州

最も被害が大きいのは北東部のイトゥリ州で、患者6,155人、死者2,834人。州内36の保健区域のうち28区域で感染が確認されています。

一方、WHOの9月25日付の報告によると、北キブ州は患者約1,480人に対し致死率59.7%と、地域別で最も高い水準です。国連によれば、イトゥリ州では8月半ば以降、患者が減っています。北キブ州は9月半ばに過去最多の感染を記録し、その後は減少しています。

9月に入ってからは、南ウバンギ州のブル、オー・ウエレ州のドゥングの2区域に新たに広がりました。ドゥングは南スーダンと国境を接しています。このため、国境を越えた感染拡大への警戒が強まっています。

ここがポイント: 増加のペースは一時より落ちています。それでも新しい地域への広がりは止まっていません。「頭打ち」と「制御」は別物です。


なぜ止まらないのか:3つの壁

今回の流行が特に厄介なのは、ウイルスそのもの、紛争、医療体制という3つの問題が重なっているからです。なかでも大きいのは、ウイルスの型の問題です。

壁1:ワクチンも治療薬もない「ブンディブギョ型」

2018〜2020年の流行を起こしたのは「ザイール型」でした。この型には、米メルクのワクチン「Ervebo(アーヴェボ)」があり、抗体治療薬もありました。

今回のブンディブギョ型には、承認済みのワクチンも治療薬も一つもありません。これが対応を最も難しくしています。

  • WHOの技術諮問グループは7月31日、Ervebo(rVSV-ZEBOV)の第3相臨床試験をDRCで行うことを認めた
  • 試験は9月にイトゥリ州で始まり、対象は最前線の医療従事者や対応要員
  • 試験用に2万回分、流行対応と研究用として計7万回分がDRC当局に提供された
  • 9月上旬までに、医療従事者ら2,007人が接種を受けた

ただし、Erveboはザイール型に対して「非常に有効」だった実績があるものの、ブンディブギョ型への効果は分かっていません。WHOが支援する諮問委員会は、効果が未知であることを参加者にはっきり伝えるよう求めています。

さらに、アルジャジーラによると、チョポ州では試験用ワクチンの在庫が「完全に不足」しています。つまり、効くかどうか分からないワクチンすら、全員には届いていません。

壁2:紛争と避難が感染の追跡を妨げる

イトゥリ州と北キブ州は、何年も武装勢力の衝突が続く地域です。国連によれば、イトゥリ州だけで110万人以上が家を追われて避難生活を送っています。

9月20日以降、イトゥリ州のキゴンゼ避難民キャンプ(約1万9,000人が暮らしていた)で武装勢力の侵入や暴力が相次ぎ、約8,000人がさらに逃げ出しました。避難先のキャンプには兵士も入り込み、武器や武装勢力の関係者を捜しています。

住民がちりぢりになると、感染した人と接触した人をたどる作業が途切れます。国連機関は、立ち入りが制限されることで「監視、症例の発見、接触者の追跡」が妨げられていると訴えています。

住民の不信も深刻です。北キブ州ブテンボでは、ラジオでエボラの予防を呼びかけた与党・民主社会進歩同盟(UDPS)の幹部、マリー=セレスタン・カロンドワ氏が殴り殺されました。

壁3:医療従事者が足りない、給料も届かない

アフリカCDCによると、流行宣言以来、医療従事者50人が亡くなりました。NBCニュースは、給料の遅配や未払いが続き、報酬をめぐるストライキが何度も起きていると伝えています。

WHOは「地域社会の中での死亡が高い割合で続いている」とも指摘しています。患者が治療施設にたどり着く前に亡くなっている、ということです。発見の遅れは、遺体からの感染や葬儀を通じた感染拡大にもつながります。

5歳未満の子どもの致死率は60%を超え、大人の30%未満を大きく上回っています。


西アフリカ流行との比較:「過去最悪」を超えるのか

このニュースが国際的に大きく報じられているのは、エボラ史上最悪とされる2014〜16年の西アフリカ流行を超えるかどうかが、現実の問題になってきたからです。

2026年 DRC(今回)2014〜16年 西アフリカ
ウイルスの型ブンディブギョ型ザイール型
第19週時点の患者数7,840人3,781人
死者3,901人(継続中)1万1,000人超(最終)
承認ワクチンなし(既存ワクチンを試験中)当時なし(のちにErveboが開発)

アフリカCDCのデータでは、同じ第19週の時点で今回の患者数は西アフリカ流行の約2倍です。NBCによれば、アフリカCDCは今回の流行が西アフリカ流行を「上回る勢い」にあると見ています。

ただ、西アフリカ流行は2年以上続いて死者が1万1,000人を超えました。今回の死者はその約3分の1です。最終的な規模を決めるのは、この先数か月で増加を抑え込めるかどうかです。


周辺国と国際社会の動き

DRCは9か国と国境を接しています。周辺国への広がりが、流行を「一国の危機」で終わらせられるかどうかの分かれ目になります。

周辺国

  • ウガンダ:一時は感染が確認されたが、42日間の終息確認期間を終えて流行の終息を宣言した
  • 南スーダン:国境沿いのドゥング区域で感染が見つかり、WHOが越境リスクを指摘している
  • ルワンダなど:国境地帯の紛争が、対応の難しさを増している

WHOのリスク評価は、DRC国内が「非常に高い」、国境を接する国々が「高い」、アフリカ地域全体と世界は「低い」です。WHOは5月17日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しました。一方で、各国に渡航や貿易を制限しないよう勧めています。

資金

  • 米国は2億6,700万ドル(約400億円)の追加拠出を約束した
  • 国際社会は計20億ドルの確保を目指している

支援の規模は決して小さくありません。それでも、給料の未払いやワクチン在庫の不足が現場で続いています。お金が現場に届くまでの遅れも、課題として残っています。


日本への影響は

日本国内で感染が広がる危険は、現時点で低いと評価されています。そのうえで、仕事や支援活動で現地に関わる人には具体的な影響があります。

  • 国立健康危機管理研究機構(JIHS)は5月18日時点で、日本で患者が見つかる可能性も国内で感染が広がる可能性も低いと評価した
  • 外務省はDRC向けに感染症危険情報(レベル1:十分注意してください)を出している
  • 厚生労働省は6月3日、全国の検疫所に対し、入国後に一定期間とどまって経過を見る「停留措置」の対象者を広げるよう通知した
  • 政府は5月18日に関係省庁の対策会議を開いた

影響を受けやすいのは、DRCや周辺国に出張する企業の担当者、国際協力機構(JICA)やNGOの職員、医療支援に向かう人たちです。現地の東部・北東部を経由した人は、帰国時に検疫所への申告と健康観察を求められる場合があります。流行地に滞在した人は、出発前に検疫所の最新情報を確認しておく必要があります。


今後の見通し:3つのシナリオ

先行きは、患者の増加ペース、ワクチン試験の結果、治安の3つの組み合わせで大きく変わります。

シナリオA:頭打ちから緩やかな収束へ

イトゥリ州の減少が続き、北キブ州も下がれば、新規患者は徐々に減っていきます。この場合でも、エボラの終息宣言には最後の患者から42日間新たな感染が出ないことが必要です。年内の終息は難しく、長期戦になります。

シナリオB:周辺地域への飛び火で長期化

南スーダン国境のドゥングや西部の南ウバンギのように、新しい地域で感染が続けて見つかる場合です。医療体制がさらに弱い地域に広がれば、接触者の追跡率は74.7%から下がり、西アフリカ流行の規模に近づくおそれがあります。

シナリオC:ワクチンが「効く」と分かる

Erveboの試験で、ブンディブギョ型にも一定の予防効果が確認されれば、状況は大きく変わります。7万回分を使った「リング接種」(患者の接触者を中心に打つ方法)に広げられるからです。ただ、結果が出るまでには時間がかかり、在庫不足の問題も残ります。


注目ポイント3つ

  1. Ervebo試験の中間結果:ブンディブギョ型への効果が示されるかどうかで、対応策の選択肢が大きく変わる
  2. 南スーダン国境での感染:ドゥング区域から国境の外へ広がれば、WHOの周辺国リスク評価や各国の検疫対応が変わる可能性がある
  3. イトゥリ州の治安と医療従事者への給料:避難民キャンプの混乱が落ち着き、ストライキの原因になっている給料の遅配が解消されるか。接触者の追跡率74.7%を引き上げられるかは、ここにかかっている

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次