人口9千人弱の町から、10月に小児科の看板が消える。新潟県津南町の町立津南病院が、小児科・耳鼻咽喉科・外科の3診療科を休止するからだ。泌尿器科も段階的に縮小し、2026年度末で完全に止める。
町は9月6日、町文化センターで住民説明会を昼と夜の2回開いた。示されたのは「地域医療を守るために診療科を減らす」という、一見あべこべに聞こえる理屈である。病院の赤字は2024年度に4億7千万円まで膨らみ、町が全額を埋められなくなった。縮小しなければ病院そのものが立ちゆかない、というのが病院側の説明だ。
乳幼児を地元で診てもらう手段は、10月以降ほぼなくなる。ここが住民の不安の中心にある。
- 10月から休止:小児科、耳鼻咽喉科、外科
- 2026年度末で完全休止:泌尿器科(それまでは段階的に縮小)
- 理由:年3億〜4億円台の赤字と、町の補助金の限界
- 受け皿:内科・総合診療科・整形外科でカバーできる範囲+県立十日町病院、魚沼基幹病院との連携
何が決まったのか
町立津南病院は今春の段階で、小児科・泌尿器科・耳鼻咽喉科・外科の4科を10月めどに休止する改革案を示していた。9月の住民説明会で固まったのが、下の形だ。
| 診療科 | 10月以降の扱い |
|---|---|
| 小児科 | 休止 |
| 耳鼻咽喉科 | 休止 |
| 外科 | 休止 |
| 泌尿器科 | 段階的に縮小し、2026年度末で完全休止 |
| 内科・総合診療科・整形外科など | 継続。休止科の機能を可能な範囲で引き取る |
病院の病床は一般40床で、療養19床は休床中。公式サイトに名前が載る医師は院長を含めて数人という規模だ。総合診療科が「拾えるところは拾う」という形で、残りは町外の病院との連携に委ねられる。
去年すでに予兆はあった
小児科の縮小は突然ではない。2025年10月、同院は小児科の火曜外来を休診にしている。理由は少子化による患者減で、2024年度の小児科外来患者は3,141人、前年度から1,524人減っていた。週5日の外来が週4日になり、その1年後に科そのものが止まる。数字の落ち込みが、1年かけて診療科の廃止まで進んだ格好だ。
なぜ赤字が「病院の存廃」に直結するのか
自治体病院が赤字であること自体は珍しくない。津南で問題が急に切迫したのは、赤字の穴を埋める側、つまり町の財布が先に限界を迎えたからだ。
- 2023年度:赤字3億7千万円
- 2024年度:4億7千万円
- 2025年度:4億3千万円(見込み)
2023年度までは町の補助金で全額を補塡してきたが、町の財政悪化により2024年度から全額補塡ができなくなった。物価高と診療報酬改定が、病院と町の両方を同時に圧迫している。
ここがポイント: 議論の対象は「病院を残すか閉じるか」ではなく、「町がいくらまでなら出し続けられるか」。診療科の数は、その上限から逆算されている。
6月の町長選で初当選した前副町長の根津和博氏は、約4億円規模の町の繰り出しを3億円程度まで下げなければ病院を維持できないという見通しを示している。町長選では、町有リゾート施設「ニュー・グリーンピア津南」の扱いと並んで、この病院改革が争点になった。有権者は、病院に手を入れる前提の町政を選んだことになる。
人口構造が味方をしてくれない
津南町の人口は2020年国勢調査で8,989人、5年で10%以上減った。高齢化率は42.6%。将来推計では2050年に4,713人まで落ちる。
小児科の患者が減り、高齢者向けの内科・整形外科の需要が相対的に残る。今回の取捨選択は、この人口ピラミッドをそのままなぞっている。裏を返せば、子育て層にとっての町の魅力は削られる方向に働く。
誰が、どの場面で困るのか
影響の出方は住民によってまったく違う。
- 乳幼児のいる世帯:地元での小児科受診ができなくなる。発熱や中耳炎のたびに町外へ向かう判断が要る
- 耳鼻科・外科にかかっていた患者:通院先の切り替えが必要。かかりつけの変更手続きも発生する
- 泌尿器科の患者:当面は縮小しながら継続。2026年度末に向けて移行先を探すことになる
- 高齢者・内科中心の患者:診療は継続。ここが今回の「守られた側」
- 車を運転しない住民:町の生活は自家用車前提。通院先が町外に伸びるほど、移動手段の有無が受診のハードルになる
津南町は年間の累計降雪量が10メートルを超え、最深積雪が2〜3メートルに達する豪雪地帯だ。冬に子どもの急な発熱で町外の病院まで走る、という場面を思い浮かべれば、住民の懸念が机上の心配でないことは分かる。
住民の受け止め
説明会では、これからも適切な医療を受けられるのかという懸念や、患者が混乱しないよう周知を徹底してほしいという要望が出た。地元紙が伝えた声の中で目立つのは、やはり小児科だ。
子どもを診てくれる場所がなくなる、分娩できる場所もない土地で子育てを続けられるのか——そうした不安が語られている。一方で、赤字を放置すれば病院自体がなくなりうる以上、縮小はやむを得ないという受け止めも示されている。「反対」と「やむなし」が対立しているというより、同じ住民が両方を抱えているというのが実感に近い。
判断の軸は、そう複雑ではない。町が出せる金額の上限をどこに置くか。町外の病院との連携を、実際に患者が使える形まで作り込めるか。この2つが噛み合わなければ、残した診療科も次の縮小候補になる。
今後の注目点
- 10月の実施後、町外受診がどれだけ増えるか。県立十日町病院や魚沼基幹病院に負荷が寄れば、そちら側の待ち時間にも跳ね返る
- 連携の中身が具体化するか。紹介の段取り、急患の扱い、小児の初期対応を誰がどこで担うのかが、紙の上の連携で終わらないか
- 冬季の受診動線。豪雪期に通院や救急搬送がどう回るかは、実施初年度の冬が最初の試験になる
- 繰り出し3億円という目標に届くか。届かなければ、次は病床や内科体制が議論の対象になりうる
- 町外へ出た子育て世帯が戻るか。人口推計を前提にした縮小が、人口減をさらに速めていないか
同じ構図の町は全国にいくつもある。津南のケースが示しているのは、自治体病院の縮小が「医療の話」として始まらず、町の一般会計が限界を迎えたところから始まるという順番だ。次に問われるのは、休止した科の患者が実際にどこで診てもらえているか——10月以降の数字である。
