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銭湯の入浴料は誰が決めているのか 東京600円改定の裏で9月末に消える一軒|2026年9月20日版

夕暮れの住宅街にたたずむ、のれんの灯りがともった昔ながらの銭湯の外観。

銭湯の入浴料は誰が決めているのか 東京600円改定の裏で9月末に消える一軒|2026年9月20日版

東京の銭湯の大人料金が8月1日から600円になった。50円の値上げだが、これは経営者が決めた価格ではない。銭湯の入浴料は、都道府県知事が物価統制令に基づいて上限額(統制額)を告示する仕組みで、事業者は勝手に上げられない。

そして料金が上がっても、店が残るとは限らない。渋谷区本町の「羽衣湯」は、ボイラー設備の老朽化と資材・燃料費の高騰を理由に、9月30日で暖簾を下ろす。値上げの告示から2か月で、都内の銭湯がまた一軒減る。

値上げは延命策であって、救済策ではない。ここが今回の話の芯にある。

この記事の要点

  • 東京都は大人料金を550円→600円に改定(2026年8月1日実施、子ども料金は据え置き)
  • 神奈川県も3月1日から大人570円へ。大阪府は2025年4月に600円へ引き上げ済み
  • 全国の銭湯は1,493軒(2026年4月時点)。ピーク時の約9割減
  • 料金が上がっても閉店は続く。老朽設備の更新費と後継者不在が効いている
目次

何が起きたのか:値上げの告示と、9月末の閉店

東京都は7月21日、公衆浴場の入浴料金統制額の改定を公表した。実施は8月1日。

区分改定前改定後
大人(12歳以上)550円600円
中人(6歳以上12歳未満)200円200円(据え置き)
小人(6歳未満)100円100円(据え置き)

値上げは大人だけ。子ども連れの利用を落とさないための線引きが、そのまま料金表に出ている。決定は第24次東京都公衆浴場対策協議会での複数回の審議と原価計算を経たもので、電気・ガス・廃油の価格上昇が主な根拠とされた。

同じ動きは近隣でも起きている。神奈川県は2026年1月13日に告示し、3月1日から大人550円→570円、中人220円→250円、小人100円→130円に改定した。子ども料金まで上げたぶん、東京とは判断が分かれている。大阪府はすでに2025年4月に600円へ引き上げ済みだ。

それでも閉店は止まらない

2026年に入って都内近郊で暖簾を下ろした、あるいは下ろす予定の施設は一軒ではない。

  • 小島湯(江戸川区)2月27日
  • SOLA SPA 新宿の湯(新宿区歌舞伎町)3月25日
  • 亀の湯(江戸川区)7月26日
  • 羽衣湯(渋谷区本町)9月30日
  • 飛鳥山温泉(北区)12月31日

羽衣湯が挙げた理由は、ボイラー設備等の老朽化と資材・燃料費の高騰。50円の値上げで埋まる金額ではない。

なぜ銭湯だけ、値段を自由につけられないのか

コンビニのコーヒーも理髪店も、値付けは事業者の自由だ。銭湯は違う。

1946年制定の物価統制令は、いまや実質的に公衆浴場(いわゆる銭湯)だけに生きている。背景にあるのは、自宅に風呂がない人にとって入浴が憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」に直結する、という理屈だ。だから値段は上限で抑えられ、その代わりに行政が支援で補う。

ここがポイント: 銭湯は「自由に値上げできない代わりに、公的支援を受ける」業種。料金改定は市場ではなく、協議会と知事の告示を通ってくる。

東京都の場合、支援はバリアフリー化や耐震化、クリーンエネルギー化への補助、融資利子の助成、近年は燃料費の補填まで及ぶ。さらに都内では施設間に200メートルの距離制限があり、共倒れを防いで地域の入浴機会を守る仕組みになっている。

裏を返せば、燃料代が跳ね上がっても、事業者はその月のうちに価格へ転嫁できない。改定の議論が終わるまで、赤字はそのまま店が抱える。

数字で見ると、値上げは「追いついていない」

東京商工リサーチの集計では、全国の銭湯(一般公衆浴場業)は2026年4月時点で1,493軒。1968年のピーク時は17,999軒だったから、約9割が消えた計算になる。

東京都内も同様だ。2015年に628軒あった公衆浴場は、2025年時点で417軒(23区382軒、市部35軒)。10年で3分の1が消えている。

経営指標を見ると、話はもう少し複雑になる。

  • 銭湯運営48社の2025年売上高は670億6,700万円で、2019年(634億6,800万円)を上回る水準
  • 一方で最終利益は41億8,500万円。2023年の84億9,600万円からほぼ半減
  • 全国の銭湯の約35%が燃料に重油を使用

客足が戻っても、燃やす燃料の値段が利益を削っている。 サウナ人気で売上が回復した施設もあるが、その売上は設備更新費までは届かない。ボイラーの交換は数千万円規模になり、後継者のいない経営者がその投資に踏み切る理由は乏しい。東京都は2025年度から公衆浴場の承継マッチング事業を始め、同年度の経営相談は27件。家族以外への事業承継も出ているが、年間の減少ペースを埋めるには数が足りない。

困るのは誰か

値上げのニュースは「たかが50円」で流されやすい。ただ、銭湯を毎日の生活インフラとして使っている層には、別の重みがある。

  • 風呂なし住宅の居住者:週5回通えば月250円、年3,000円の純増。代替手段がない
  • 高齢の常連:自宅の浴槽をまたげず銭湯を選ぶ人にとって、近所の一軒が消えると入浴自体が難しくなる
  • 子育て世帯:子ども料金が据え置かれた東京では影響が小さいが、神奈川では中人・小人も30円ずつ上がった
  • 経営者自身:値上げで客が減れば、収支は改善しない

弁護士JPニュースの取材に、23区内の銭湯経営者は「本音をいえば、値上げは歓迎ではありません」「燃料代が高騰しているので経営は苦しいです。でも、値上げするとお客さんが来なくなるおそれがあります」と答えている。値上げを求めた側が、値上げを怖がっている。この業種の苦しさは、その一言に凝縮されている。

ネットでの受け止め

報道やSNSでの反応は、おおむね二つに割れている。

  • 理解を示す声:燃料費の高騰を考えれば600円でも安い、むしろ営業を続けてほしい、という擁護
  • 負担を気にする声:毎日通う人にとっては小さくない、スーパー銭湯との価格差が縮まると選ばれにくくなる、という心配

閉店の告知が出た施設には、常連から惜しむ投稿が並ぶ。一方で、値上げ自体を責めるより「なぜ設備更新の支援がもっと早く届かないのか」に関心が向く書き込みも目立つ。料金の話が、いつの間にか制度の話に変わっていくのがこのテーマの特徴だ。

今後の注目点

  • 冬の燃料コスト:重油・ガス価格が再び上がれば、8月の改定から1年待たずに次の協議会が動く可能性がある
  • 東京417軒の底:2026年の閉店が出そろったとき、都内が400軒を割るかどうか
  • 承継マッチングの実績:相談27件が何軒の存続につながるか。件数より成立数を見るべき指標
  • 他県の追随:神奈川方式(子ども料金も上げる)か東京方式(大人だけ)か。各県の協議会の判断が分かれ始めている
  • 閉店後の空白:1軒閉まった地域に、代わりの入浴手段(高齢者向け入浴事業など)が用意されるかどうか

羽衣湯の営業は9月30日まで。値上げの告示は制度の話だが、暖簾が下りる日は生活の話だ。そこを地続きで見ておきたい。

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